6 / 29
活動屋
しおりを挟む
「あーそれはお兄さん騙されちゃったね」
「え、でも警察手帳持ってたよ。あれは偽物なんかじゃなかった」
「あーそういう問題じゃなくて」
「じゃあ、どういう問題?」
「うーん、もっとなんというか、根本的な問題?」
マヌーが公園の最奥で柵を開けようとガチャガチャしていると、気さくな女性に話し掛けられた。
偶然通りかかっただけの人にこうも自然に話し掛けられるものだろうか。
その女子力の高さに驚きながら、マヌーもいつしかタメ口になっていた。
「はっきり言ってくれない?」
鍵のようなものを差し込みながら、マヌーは尋ねた。
「うーん、だから」
すると気さくな女性は答えようとして、「あ、ちょっとゴメンね」と背を向けると、パーカーのフードからやにわに黄色いメガホンを取り出して、先程から公園のなかほどでチャンバラをしていた男性たちに向かってドスの利いた声で怒鳴った。
「このトンチキ野郎! そんなんじゃ先に斬られっちまうだろバカヤロー!」
「すみませんっっ」
「ったく。今のシーンもう一回最初から!」
「「「はいっ!」」」
女性はくるっと振り返ると何事もなかったように、
「なんかごめんね、うるさくしちゃって」
なんて言いながら、ふふっと可愛らしく笑った。
「……」
どこからともなく乾いた風が通り抜けた。
「ん? どした? 急に黙り込んで」
紺と白のアメリカンキャップの下でショートボブの明るい毛先が可憐に揺れた。
「あ、いえ。別に」
マヌーは平静を装っていたが、自身でもそれと気づかぬうちに鍵のようなものを強く握りしめていた。
「別にって、急に他人行儀じゃんー。でもまぁ体調わるいとかじゃないならよかったよ」
女性は手の内で黄色いメガホンをガシガシと叩いた。
「あ、それとももしかして。今のパワハラだなーとか思っちゃった?」
「あー……。いえ、別に」
「ふふふ、君嘘つくの苦手でしょう? 顔に出てるよ」
「え……」
「なんてね。そりゃ一見パワハラだけどさ、私の怒号には愛があるから。その辺のパワハラとは一緒にしないでほしいな」
「いえべつにほんとにそんなんじゃ」
マヌーは確信した。関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ。
関わっちゃダメだ。
「僕はただその黄色いメガホンどうしたのかなって」
マヌーは不意に手を止めると核心に迫った。見逃すわけにはいかなかった。だってそのメガホンはかつて臨時のバイトが暴走するマヌー(その頃はまだカエルであったけれども)を止めてくれたメガホンなのだから。
「ああこれ? さっき通りかかった人にもらったの。なんだかんだ大声出すときに便利っちゃ便利かな。でも微妙に大きくてさー。ポケットに入らないんだよね」
「え、でも警察手帳持ってたよ。あれは偽物なんかじゃなかった」
「あーそういう問題じゃなくて」
「じゃあ、どういう問題?」
「うーん、もっとなんというか、根本的な問題?」
マヌーが公園の最奥で柵を開けようとガチャガチャしていると、気さくな女性に話し掛けられた。
偶然通りかかっただけの人にこうも自然に話し掛けられるものだろうか。
その女子力の高さに驚きながら、マヌーもいつしかタメ口になっていた。
「はっきり言ってくれない?」
鍵のようなものを差し込みながら、マヌーは尋ねた。
「うーん、だから」
すると気さくな女性は答えようとして、「あ、ちょっとゴメンね」と背を向けると、パーカーのフードからやにわに黄色いメガホンを取り出して、先程から公園のなかほどでチャンバラをしていた男性たちに向かってドスの利いた声で怒鳴った。
「このトンチキ野郎! そんなんじゃ先に斬られっちまうだろバカヤロー!」
「すみませんっっ」
「ったく。今のシーンもう一回最初から!」
「「「はいっ!」」」
女性はくるっと振り返ると何事もなかったように、
「なんかごめんね、うるさくしちゃって」
なんて言いながら、ふふっと可愛らしく笑った。
「……」
どこからともなく乾いた風が通り抜けた。
「ん? どした? 急に黙り込んで」
紺と白のアメリカンキャップの下でショートボブの明るい毛先が可憐に揺れた。
「あ、いえ。別に」
マヌーは平静を装っていたが、自身でもそれと気づかぬうちに鍵のようなものを強く握りしめていた。
「別にって、急に他人行儀じゃんー。でもまぁ体調わるいとかじゃないならよかったよ」
女性は手の内で黄色いメガホンをガシガシと叩いた。
「あ、それとももしかして。今のパワハラだなーとか思っちゃった?」
「あー……。いえ、別に」
「ふふふ、君嘘つくの苦手でしょう? 顔に出てるよ」
「え……」
「なんてね。そりゃ一見パワハラだけどさ、私の怒号には愛があるから。その辺のパワハラとは一緒にしないでほしいな」
「いえべつにほんとにそんなんじゃ」
マヌーは確信した。関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ。
関わっちゃダメだ。
「僕はただその黄色いメガホンどうしたのかなって」
マヌーは不意に手を止めると核心に迫った。見逃すわけにはいかなかった。だってそのメガホンはかつて臨時のバイトが暴走するマヌー(その頃はまだカエルであったけれども)を止めてくれたメガホンなのだから。
「ああこれ? さっき通りかかった人にもらったの。なんだかんだ大声出すときに便利っちゃ便利かな。でも微妙に大きくてさー。ポケットに入らないんだよね」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小袖のかなづくし手帖
スーパーちょぼ:インフィニタス♾
大衆娯楽
日常ではめっぽう字の汚い作者が達筆そうなキャラクター小袖になりかわり気まぐれに思い浮かんだ言葉を変体がなまじりに綴っていく手帖のようなもの🌸
なお小袖をはじめ綴る文字の元ネタは、江戸の町を舞台にした謎解きファンタジー小説『小袖の花づくし判じ物』を参考としています(カクヨムで掲載中の短編)。
詳細はブラウザ版の作品ページ下部にあるフリースペースか近況ボード、またはWebコンテンツ一覧の外部URL登録作品をご参照ください。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる