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最終章
舞台袖
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「He is gone, he is gone, 行ってしまった、彼は行ってしまったの」
「種明かしすれば良かったのに」
「あら、そんなことしないわ。私は愁嘆場を演じたい訳じゃないもの。
What's in a name? that which we call a rose By any other name would smell as sweet;
名前が何だというのでしょう。薔薇という花は他のどんな名で呼ばれようと同じように香るのに」
「ハムレットにそんな台詞あった?」
「違う違う、ロミオだよ」
「ジュリエットじゃなくて?」
「Romeo and Juliet??」
「そうそう、そうですよ」
「ハムレットじゃないじゃん」
「いいじゃない。シェイクスピアであることにかわりないわ」
「まぁそうだけど」
「はぁ、名残惜しい。だって私知らなかったの。演じてみて初めてわかるなんて、なんて悲劇でしょう。I loved Ophelia.」
「ほんと、損な役回りだったよ。いままでに冷たく微笑んだことなんてないよ」
「……え、これ悲劇なの?」
「あら、失礼。言葉の綾よ。でもそうね、せっかくなら悲劇と喜劇、どっちもがいいわ」
「はぁ、これだから役者って。ホントしたたか」
「あら、ありがとう」
「もうそろそろ着いた頃かな、あの少年。あのステンドグラスの教会、薔薇窓が綺麗らしいよ。僕まだ見たことないけど」
「じゃああとで一緒に〝天国〟へ行こうよ。まだ席空いてるんじゃない?」
「いいね! 君もどう?」
「あら、いいわね。じゃあ束の間おじゃましようかしら。また次の舞台が待ってるから」
「もう? 君も好きだね。僕はもうちょっと休んでからにしようかな。あんな大変な世界、進んで行きたがる人の気が知れないよ」
「あら、私は好き。もう今からわくわくしてるわ。予感がするの。もっと素敵な物語が待ってるんじゃないかって。これから面白くなるってのに、ここでやめてたまるもんですか」
「はぁ、これだから役者って、逞し――」
「したたかって言って」
「……。したたか~」
「ありがとう」
「あ、この前読んだ本にちょうどいい台詞があったよ。なんだったかな」
「ハムレット? というかそれシェイクスピア?」
「違う違う、同じ頭痛持ちの、たぶん観客席によくいた人」
「フランツ・カフカ?」
「朝起きたら虫になってたなんて思いきり悲劇じゃない」
「へルマン・ヘッセ?」
「いや、車輪の下の少年は確かオフィーリアのようにうっかり川に落ちてそれで……うん、まぁそういうことだよ」
「じゃあ誰さ?」
「なんか赤毛の女の子のヤツ」
「赤毛? あぁ、赤毛のアン? モンゴメリ?」
「そう、それ!
"Dear old world," she murmured, "you are very lovely, and I am glad to be alive in you."」
「それなら私は村岡花子さんの訳が好き。リズムがあるもの。それに言われてみれば、ピッタリね!」
「そうそう、そうですよ」
「でもそのまえにお別れしなきゃ。Good night, ladies; good night,」
「男もいるよ」
「それを言ったら間にもっと沢山いるでしょ」
「寂しくなるね」
「なに言ってるの。物語はまだまだこれからでしょ。お目当てのシーンも見てないし。はやく薔薇窓が見たいよ」
「そうね。Fare you well, my dove! さようなら、いとしい人。でも、今は言わせて――」
「ごきげんよう」
*
「愛すべきなつかしき世界よ」
アンはつぶやいた。
「あなたはなんて美しいのでしょう。ここで暮らすことができて、この上なくうれしいわ」
引用:
赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ1―
ルーシー・モード・モンゴメリ/著、村岡花子/訳、新潮社
第三十八章 道の曲り角 p522
「種明かしすれば良かったのに」
「あら、そんなことしないわ。私は愁嘆場を演じたい訳じゃないもの。
What's in a name? that which we call a rose By any other name would smell as sweet;
名前が何だというのでしょう。薔薇という花は他のどんな名で呼ばれようと同じように香るのに」
「ハムレットにそんな台詞あった?」
「違う違う、ロミオだよ」
「ジュリエットじゃなくて?」
「Romeo and Juliet??」
「そうそう、そうですよ」
「ハムレットじゃないじゃん」
「いいじゃない。シェイクスピアであることにかわりないわ」
「まぁそうだけど」
「はぁ、名残惜しい。だって私知らなかったの。演じてみて初めてわかるなんて、なんて悲劇でしょう。I loved Ophelia.」
「ほんと、損な役回りだったよ。いままでに冷たく微笑んだことなんてないよ」
「……え、これ悲劇なの?」
「あら、失礼。言葉の綾よ。でもそうね、せっかくなら悲劇と喜劇、どっちもがいいわ」
「はぁ、これだから役者って。ホントしたたか」
「あら、ありがとう」
「もうそろそろ着いた頃かな、あの少年。あのステンドグラスの教会、薔薇窓が綺麗らしいよ。僕まだ見たことないけど」
「じゃああとで一緒に〝天国〟へ行こうよ。まだ席空いてるんじゃない?」
「いいね! 君もどう?」
「あら、いいわね。じゃあ束の間おじゃましようかしら。また次の舞台が待ってるから」
「もう? 君も好きだね。僕はもうちょっと休んでからにしようかな。あんな大変な世界、進んで行きたがる人の気が知れないよ」
「あら、私は好き。もう今からわくわくしてるわ。予感がするの。もっと素敵な物語が待ってるんじゃないかって。これから面白くなるってのに、ここでやめてたまるもんですか」
「はぁ、これだから役者って、逞し――」
「したたかって言って」
「……。したたか~」
「ありがとう」
「あ、この前読んだ本にちょうどいい台詞があったよ。なんだったかな」
「ハムレット? というかそれシェイクスピア?」
「違う違う、同じ頭痛持ちの、たぶん観客席によくいた人」
「フランツ・カフカ?」
「朝起きたら虫になってたなんて思いきり悲劇じゃない」
「へルマン・ヘッセ?」
「いや、車輪の下の少年は確かオフィーリアのようにうっかり川に落ちてそれで……うん、まぁそういうことだよ」
「じゃあ誰さ?」
「なんか赤毛の女の子のヤツ」
「赤毛? あぁ、赤毛のアン? モンゴメリ?」
「そう、それ!
"Dear old world," she murmured, "you are very lovely, and I am glad to be alive in you."」
「それなら私は村岡花子さんの訳が好き。リズムがあるもの。それに言われてみれば、ピッタリね!」
「そうそう、そうですよ」
「でもそのまえにお別れしなきゃ。Good night, ladies; good night,」
「男もいるよ」
「それを言ったら間にもっと沢山いるでしょ」
「寂しくなるね」
「なに言ってるの。物語はまだまだこれからでしょ。お目当てのシーンも見てないし。はやく薔薇窓が見たいよ」
「そうね。Fare you well, my dove! さようなら、いとしい人。でも、今は言わせて――」
「ごきげんよう」
*
「愛すべきなつかしき世界よ」
アンはつぶやいた。
「あなたはなんて美しいのでしょう。ここで暮らすことができて、この上なくうれしいわ」
引用:
赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ1―
ルーシー・モード・モンゴメリ/著、村岡花子/訳、新潮社
第三十八章 道の曲り角 p522
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