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第一章

螺旋を描く世界

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 するとなにかが、
 赤い火花のようなきらめきが、
 とこしえの静寂を破った。

 どこかで誰かの声がサイレンのように鳴り響いている。

――混沌から光と闇にわかれてできたこの世界にどちらか一方だけをとどめようというなら、世界はいずれ、消えて無くなるほかないじゃろうて……。

 どこかで誰かが肩を震わせて泣いている。

――僕はただ……あの星のかけらを、掴みたかっただけなのに……。

 近寄ってみると、その誰かとはまぎれもない――僕だった。
 僕はあたりを見まわした。あの懐かしい景色も大好きな人たちも、もはやどこにも存在しなかった。僕と彼が出会えたあの世界はもはやどこにも、存在しなかった。
 ふと、懐かしい声が聞こえた。

――あの星を見ようと思ったら、真正面から見つめちゃだめさ。目はしっかり開けたまま、少しだけ脇へずらすんだ。世界はただそこにあるんだよ……。

 懐かしい声にいとおしさが込み上げた。いまとなってはあの儚いきらめきも、胸をつく痛みも、すべてが混沌の淵に沈んでしまった。形あるものすべてが姿を失ったこの世界ではわずかな孤独さえも、存在しないのかもしれなかった。
 すると懐かしい声が呟くように言った。

――想いの力なしには、この世に姿をとどめることなど到底できやしない……。

 まるでラジオの周波数が変わるかのように、今度は別の声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だった。

――かげりのない幸福って一体どんなものかしら。悲しみは、希望の光にはなれないけれど……。世界と私を繋ぎとめるたったひとつのくさびなの。暗闇を照らすともし火みたいにそんな素晴らしいものじゃないわ。それでも、私が道を踏みはずしそうになったら声を張りあげて叫ぶの。そっちじゃないぞ! って。だから私は、あきらめるわけにはいかないの。それに楔なしでは、私はとっくにこの世界から流されてしまっているわ……。

 ああ、そうか――。僕はきっと、流されてしまったのだ。もはや戻ることも叶わない宇宙の果ての深淵に。もう取り戻すには遅すぎる。すべては混沌の淵に沈んでしまったのだから。
 けれど懐かしい声はなおも鳴り響いていた。誰の手も届かないはずの、寂寞と虚無の縁までも。

――揺れうごく世界の中で、たったひとつでもいいの。心から信じることができたなら、私はそれを未来と呼ぶわ……。

――かげりのない幸福こそ未来をてらす希望の光……。

――人生に前も後ろもあるものですか。今あなたがいるとこが、未来の生まれるとこなのよ……。

――なぜって、そなた自身がその、未来なのじゃから……。

 何かが砕け散る音がして、世界はふたたび静寂の闇に包まれた。今度はどこか懐かしい、温かい闇だった。

 その闇の中で、僕は一人きり、肩を震わせて泣いていた。――

 するとすぐ側から、あの懐かしい声が、はっきりと聞こえた。

「本当にいいのかい? 世界はときに残酷に、キミを傷つけるかもしれないよ」
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