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第一章

星の降る夜に

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 その晩、僕は結局マヌーと一緒に星のかけらとやらを見に行くことになった。言い出したら聞かないんだもの。

 僕は約束の時間より少し遅れて、例の小高い丘の上に着いた。マヌーはまだ来ていないようだった。
 丘の上から見える景色は昼間見た世界とは別世界だった。厚着をしてきたにもかかわらず少し肌寒いくらいで、頬を触るとひんやりしていた。澄みきった夜の空気を胸いっぱいに吸い込んでみた。ラベンダーの香りこそしなかったものの、どこからやってきたのか、ほんのり甘い花の香りが漂っていた。風は止んでいた。
 宵闇に街の灯りがチカチカと瞬いて、あたりを包む静けさに耳が痛いくらいだった。
 そうこうしているうちにマヌーがやって来た。――

「そういえば前にどこか遠くから来たとか言ってたけど、本当はどこから来たの? あの山のむこうの街? それとも、まさか未来から来たなんて言わないよね」
「未来なんて。そんな遠くから来たんじゃないよ。もっとずっと近く。近すぎて重なっちゃうかもね。もっと気をつけてくれなきゃ。チアキがあんまり悲しむと、僕まで悲しくなっちゃうんだから」

 マヌーはそんなことを言ってはぐらかした。本当ははぐらかしたわけでも何でもなかったんだってこと、このときの僕はまだなにも知らなかったんだ。

 マヌーは例によってわかったようなわからないような言葉で星のかけらの見つけ方を教えてくれた。やっぱり僕にはできない気がした。それでも、いつもと違うどこか特別な夜になぜか不思議と胸が高鳴って、ぼくは僕を信じてくれるマヌーを、信じようと思った。

「あの星のかけらを見ようと思ったら、真正面から見つめちゃだめさ。目はしっかり開けたまま、少しだけ脇へそらすんだ。――世界はただそこにあるんだよ」

 なんどもなんども、僕は星のかけらを見つけたくて探しつづけた。でも、僕にはやっぱり無理だったみたい。
 そろそろ帰ろうよとマヌーに話しかけようとしたちょうどそのとき、マヌーの肩越しに見た夜空の端に、赤い火花のようなきらめきが、確かに見えた。「あっ」という間に儚く散ってしまったけれど、僕はそのわずかなきらめきを確かに見たんだ。たった一瞬の出来事。それでも、ずっと探していた宝物をやっと見つけたような気がして、僕は嬉しくてしょうがなかったんだ。

 気づけば風が強く吹いていた。まばらに浮かんでいた雲が流れるとまあるい月が現れて、街の灯りのむこうには、月明かりに照らされて積もったばかりの山の雪がほんのり淡い光を帯びていた。星空に浮かびあがる幻想的な山の姿はまるで、星の降る山だった。

 そして僕は思いもしなかった。このとき見た光景が、マヌーと一緒に過ごした最後の夜になるなんて。マヌーはその夜を境に、突然姿を消した――。
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