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【閑話】禄寿応穏
しおりを挟む禄寿応穏
(『小袖の花づくし判じ物』第六話)
書きながらふと江戸文字のことを思い出し、なにか未来を言祝ぐような言葉にはぴったりかもしれないなと思い立って、大入りではないけれども、なんとなく風合いだけでもと思い描いていたら、べったり黒塗りな感じに仕上がった次第。
あの大入りを願って隙間なく書かれた江戸文字は一体どうやって書くのだろうと長らく不思議に思っていたが、いつだったかテレビでドキュメンタリーを偶然拝見して、独特の形をした筆を使って書き順も何も全然違う書き方をしていたので驚いた。
かな文字の優雅な感じも好きだが、江戸文字の粋な感じも遊び心に溢れていて好きである。
なお、書道展や協会の試験など審査されるような場では、楷書・行書・草書とはっきりジャンルごとに分けて書くのが通例だが、そういった場を離れた日常とあれば混在させて筆文字を書く人も沢山いただろうと思われる。
今回の禄寿応穏もその例にもれず、最初の『禄』はきっちり書こうとして楷書よりの行書、『寿』は勢いが出てきて思いきり草書、『応』でやっぱり行書ぐらいのが読みやすいしバリアフリーだよなと立ち返り、でもやっぱり最後くらい勢いに任せて書きたいなと思っていたら『穏』は行書よりの草書になった。
書道あるあるとしては、楷書を崩したものが行書でさらに崩したのが草書と思われがちだが(書道やってた人でも結構勘違いしている人いるのではないかと思われる)、実際は順番が逆で、まず隷書(お札の文字みたいなやつ)から草書が作られ、後にまた別の流れとして隷書から行書や楷書がつくられた、ということだろうか。
文字の速書きの歴史と木簡から紙への変遷は両輪のようなものであろう。
◇補足
北条家が代々公文書に使用していた印判を『虎朱印』といい、その印文に彫られた言葉が『禄寿応穏』だったとか(参考:タウンニュース小田原・箱根・湯河原・真鶴版)。
領民の禄(財産)と寿(生命)が応(まさ)に穏やかであるように。そんな願いが込められているらしい。
当初は箱根の富士屋ホテル近くにある瓢箪の形をした最中を小説に登場させるつもりだったが、 タイミングよく虎朱印最中を頂く機会があったので、件の小説には虎朱印最中の檸檬ピューレ味を採用した。
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