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5話 <ジェフリー視点>

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 私は、崩れ落ちていくセシルに駆け寄り、セシルが使ってはいけない力を使ってしまったことにすぐに気がついた。

 待ってくれ!
 私はあの日のことをまだ謝っていない。

 いや、そんなことはどうでもいい!
 どうしよう……セシルが死んでしまう……
 ダメだ。考えるんだ。

 私はありったけの回復魔法をセシルにかけて、その体を馬車にのせ、神殿に向かって走らせた。

  ※

 セシルが倒れてから一年が経った。
 私は白い朝日が神殿の奥の庭を照らす中、そこに眠るセシルに会いにきた。
 毎朝セシルに生命力を注ぐ魔法をかけるのは、私の日課だ。

 あれから私は父と神殿の司祭を説き伏せ、伯爵家の莫大な資産を使ってセシルの体を生きながらえさせることのできる神殿の特別な東屋に、セシルを寝かせた。

 私の愛するセシル。
 子供の頃から強く誇り高いセシルに憧れていた。

 セシルがウィンディーネに魔力と右足をやられてしまった時は、絶望した。
 しかし、私はその時、聖騎士になり聖魔法を使えるようになることを人生の目標にした。
 私がセシルの魔力と右足を治すのだと、それだけを目指し、がむしゃらに頑張っていた。

 しかしセシルは日に日にやつれ、目も当てられないほど衰弱していった。
 私の世話係なんて屈辱的な仕事をセシルにやらせたくはなかったが、ちゃんと食べて欲しかったし、セシルに毎日会えるのが何よりも嬉しかった。

 あの日は、セシルが止めるのを遮って、自分の欲望をぶつけてしまった。でも、私はセシルに触れることができて、本当に嬉しかった。
 執事長から、セシルは本当の親かもしれない人が見つかって、会いにいくことになったと聞かされ、それはめでたいと帰ってくるのを心待ちにしていた自分を殴りたい。

 しばらく経って、リアムがセシルのことを淫乱な男だったとけなしたのを問い詰めると、リアムはなぜかセシルと私があの日したことを知っており、セシルはそのせいで解雇されたと言った。
 俺は執事長の嘘を問い詰め、すぐさま町にセシルを探しにいった。
 足を引きずった青年の話はどの店に行っても聞くことができた。そして、セシルはどの店でも働くことを拒否されていた。

 なぜ、みんなセシルを見捨てたんだ!
 あなた達に、憐憫れんびんの情というものはないのか!
 私は元凶である自分を棚に上げて、町の人々に怒りを覚えた。

 焦りながらひたすら町を探し回っていた私のところに、ウィンディーネが現れたと叫ぶ男が来た。
 私は、そもそもセシルの人生を変えたこの魔物を許せなかった。
 頭に血が上ったまま魔物の出現した沼に向かい、私の剣などではとても敵わないことを悟り自分愚かさを痛感していたところに、セシルが現れた。
 そして、セシルは生命力を使って魔法を放ってしまった。

 一瞬昔の勇姿を彷彿とさせたセシルだったが、私の腕の中に倒れると、眼窩は骨の形がわかるほど落ち窪み、肌は泥のように汚れ、サラサラだった黒髪は白い油で固まっていた。
 私は気が狂いそうな焦燥と後悔と、なんとしてもセシルを助けるという気概だけで、なんとかセシルの命を繋いだ。

 前倒しで聖騎士団に入り、私はますます聖魔法の習得に執念を燃やした。
 まだ聖騎士団に入って一年だが、今や私よりも聖魔法が使える人間はいない。
 でもこれでは、まだだめなのだ。
 最上位の聖魔法はあと少しで掴めそうなのだが、昨日もまた失敗した。


 今日こそは、と穏やかに眠るセシルに口付ける。
 セシル。あなたの笑顔が見たい……
 目を覚まし、私の名前を呼んで欲しい……

 私は心を集中させ、聖魔法の構成を練り始めた。
 複雑で美しい紋様を注意深く編み上げていく。
 昨日破綻してしまったところは超えられた。
 あともう少し……

 最後の円を注意深く書き込むと、魔法陣が白く光り、セシルの体に降りていった。

 うまくいった……
 じっとセシルの様子を見守ると、セシルの眉根がぴくりと動き、その瞳がゆっくりと開けられた。

 こちらに目線を向けたセシルがぼうっと呟いた。
「ジェフリー様?」

 私はセシルの手を握り、その胸に額を押し付けてむせび泣いた。

  ※

 それから私は聖騎士団を辞め、伯爵家も出て、セシルと一緒に旅立った。

 セシルは私の長期にわたる治癒魔法で、魔力生成器官も、右足も、完全にとはいかないが、ほぼその機能を取り戻した。

 セシルは元々十年に一人と言われるような魔術の才を持っていたし、私は剣も治癒魔法も得意とする。
 私たちが冒険者として荒稼ぎするのは容易たやすいことだった。

 先週も入手不可能と言われていた火竜の爪を手に入れ、懐は温かい。
 伯爵家に払わせてしまったセシルを神殿に置くための費用も、倍にしてとうに返している。

 聖騎士団からは時折、困難な案件が発生したときに個別に依頼が来るが、私はセシル同伴でないと決して依頼は受けない。
 セシルはもうそんなに弱くはないが、離れた時に守れなかった後悔が、私のトラウマになってしまったようだ。


 宿屋のベッドで眠るセシルが、私のペニスに突かれながら、苦悶に表情を歪めている。
 神殿で眠るセシルに生命力を注ぐ魔法をかけ続けていた頃、最も効率の良い性交の方法をとっていたのだが、どうにもそれが癖になってしまって、時折……いや、しばしば、セシルに睡眠の魔法をかけたまま犯してしまう。

「ん……あぁん……」
 意識がある時はなかなか声を出してくれないセシルも、寝ていると、私のペニスを感じたまま喘いでくれる。

「セシル……愛している……」
 その美しい顔に口付け、ゆっくりと私のペニスでセシルの中を刺激する。
 セシルが最も感じる浅い腹側を亀頭で何度もさすると、セシルがビクビクと体を震わせ始めた。

「セシル……気持ちいい?」
 そろそろセシルの返事が聞きたくなり、睡眠の魔法を解除する。

「あっ……はっ……」
 荒い息を吐くセシルが目を覚まし、馬乗りになっている私を見上げる。
「ジェフリー! 君はまた! ……あ。あぁん……」
 私は間髪を与えず、大きく腰をグラインドさせた。

「セシル……セシル……あぁ、セシル……」
 セシルの必死な表情を見つめながら、上り詰めていくままに腰を振り、奥深くにペニスを挿し込んで精を吐き出す。

「あぁ……ジェフリー……」
 セシルが私の熱い奔流をその中で感じてくれたのか、体を震わせ、自身のペニスからもつられて精を吐き出した。

「……君は、まったく、もう。俺だって、君としているところを感じたいのに……」
 うらめしそうに言うセシルが可愛い。
「大丈夫。あなたが望むだけ、あげるから……」
 私は愛しいセシルに口付け、まだ硬度を保つそれを再びゆっくりと動かし始めた。


 私の地元では、伯爵家の次男は美しい魔術師の男にたぶらかされ、貴族の名も、聖騎士の職も捨てて放浪の旅に出たと、まことしやかに噂されている。

 その通りだ。
 私の心は、幼い頃からセシルしか見ていない。
 あなたがいれば、何もいらない。
 あなたのいない世界でなど、私は生きていけない。

 私は、昔よりもずっと活き活きと笑うようになったセシルと二人、片時も離れず、思うがままに生きていった。


 fin.
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