【本編完結】裏切りの転生騎士は宰相閣下に求愛される

碧木二三

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第十二章 竜の正体

99. 贖罪 ☆

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    * * *


 ジオルグが魔導通信室から出ると、廊下にシリルとセオデリクが揃って待っていた。 

「どうした、二人ともこんなところに突っ立って」
「セオが、どうしても『九回目』の話を閣下から直接お伺いしたいと」

 目を伏せたまま、シリルが硬い声で言った。ジオルグはその横に立つセオデリクに目線を滑らせる。

「既に誰かから、何か聞いておられるようだな」
「たった今、ルシアから。ですがそれだけではどうにも要領を得なくて。閣下からも是非とも詳しくお聞かせ頂きたいと思ったのです」
「それは、なにゆえに?」
「……僕は、もちろん望んだわけではありませんが、この魔竜騒ぎでは、ある意味自分はコリーンのなのだと思っています。あの魔石を手にしたことで、魔力のみならず命まで奪われた者がきっと大勢います。ですから、何か自分にできることをして少しでも償いたいのです」

 そのために、より正確な事情を知っておきたいのだとセオデリクは真摯に語った。
 なるほど、そういう考えがあったのかとジオルグは率直に感銘を受けた。これでは、勝手に王宮を飛び出してこんなところにまで来たことを責めるわけにもいかない。
 ジオルグ自身、コリーンの縁者として生まれ、兄と共に月精ラエルに対する償いを強いられる境遇でずっと生きてきた。

「ラドモンド卿が、俺たちの分もサロンにお茶の用意をしてくれているそうです。一緒に行きませんか」

 シリルが言って、ジオルグの法衣の袖にそっと手をかけてくる。
 ジオルグはその手を強く握り返した。

「わかった。行こう」


 サロンにはリーヴェルトとカイルがいたが、ルシアの姿はなかった。
 尋ねてみると、「何か懐かしい気配がする」と言って急にふらりと出て行ってしまったそうだ。
 それで話の途中で放り出されてしまったセオデリクを、自分が焚き付けてしまったのだとリーヴェルトは弁明した。
 
「私も一応、事の次第は知っていますが、ここまで来たら当事者から話を聞くのが一番だと思いましてね。……ところで、王太子殿下は無事においさめできましたか?」

 家令から報告を受けているのか、リーヴェルトは愉しげに訊いてきた。

「まあ、なんとかな。……どうせなら、神殿にシリルを迎えに行った時点で貴兄から殿下に話しておいてもらいたかったが」
「御名を伺ったときに、スタウゼン公爵のご子息だとはすぐにわかったのですが。ふふ、まさか王太子殿下から竜水晶をたまわるほどのお気に入りの御方であるとはつゆ知らず」
「……そんなに大層なものじゃないです。これはただ、手っ取り早く僕の魔力値を回復させるためにお借りしているだけですから」

 リーヴェルトの対面に座したセオデリクは、つんと澄ました表情でそう言ってのけた。

「それから、ラドモンド卿。僕のことはセオと」
「ああ、そうだったな。すまない」

 リーヴェルトは艶然と微笑んだ。金の縁取りが付いた白磁のティーカップの把手を、ただつまんで持ち上げるだけの所作にも、一瞬目を奪われるほどの繊細な美しさがある。
 そして、その隣りにはシリルが座っていた。
 彼はこの場ではまだ一言も発していない。ただ黙々とキルシュに漬けたドライフルーツがどっさり入ったプディングを食べている。
 甘い菓子を食べているからか、シリルのお茶はあっという間に空になった。気づいたカイルが、ティーポットを手にして彼のカップにおかわりを注いでやる。

「……ありがとうございます」
「うん、いいよ。それより、疲れているようだけど、大丈夫?」
「はい。そういえば、朝から何も食べてなかったなぁ、と思って」

 夜明け時からの騒動の連続で、今になってどっと疲れが出てきたのだろう。シリルはカイルに向かって少し眠たげに答えていた……。

「とりあえず、殿下には王都から出ずにいて頂かねば。ただでさえ、今夜にはコーゼル軍務卿が第十一騎士団を率いてセラザに入るのだ。その上、殿下までもがこちらに向かうとなったら、護衛師団及び第一騎士団からも新たに動員をかけねばならない。明らかに過剰戦力だ」
「でも、そもそも魔竜退治には王族の誰かが立ち会う決まりでは?」

 事の元凶であるセオデリクが、混ぜ返すようなことを言い出した。

「では君は、コリーンごときが作ったを魔竜だと認めるのか?」
「……いえ。失言でした、忘れてください」
「とはいえ、殿下は今も心配なさっているに違いない。後で君からも魔導で連絡をしておくように」

 ジオルグが言うと、蜂蜜色の髪と碧緑の瞳を持つ麗しい公爵令息は無礼にも「ええー」と顔を歪めた。

「なんで僕が……。閣下がお止めになったのならそれでいいのでは」
「だが、君が直接声を聴かせてやった方がきっと安心なさるだろう」
「……わかりました」

 渋々とセオデリクが承諾する。それで少し溜飲りゅういんが下がったジオルグは、さて、とここにいる一同の顔を見渡した。

「今から私が話すのは、魔竜討伐でも何でもない。聖女の降臨はなく、月精ラエルの祝福はおろか、世界からも見放されたある『贖罪しょくざい』の話だ」
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