【本編完結】裏切りの転生騎士は宰相閣下に求愛される

碧木二三

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第十二章 竜の正体

98. 魔竜の正体 ③

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「何故、セオデリク殿がここに?」

 ジオルグは俺に向かってただしてくる。

「セオは、俺のことを心配して神殿まで来てくれたんです。それで、そのまま成り行きで……」
「王太子殿下はご存知なのか?」
「いえ、それは……」
「それでしたら、多分ジスティが報告してくれているかと。まあ、勝手に王宮から出て来てしまいましたけど、カイルも一緒にいることだし、特に殿下が心配なさることはないはずです」

 セオは悪びれることなくそう説明したが、ジオルグは顔を顰め、それは詭弁きべんだと言わんばかりに首を振った。

「そんなことよりも、ロートバル卿。僕はあなたに至急お聞きしたいことがあって……」
「まずい。エドアルドを止めなくては」

 もうセオの声は耳に入っていないのか、うめくような声でそう言ったジオルグがすっくと立ち上がる。
 いきなり背の高い美丈夫が目の前にどんと立ちはだかる形になって、小柄なセオは「わっ」と声を上げた。

「ヴィクトル、魔導を王都に繋いでくれ。今すぐ、宰相府にだ」
「ははっ、かしこまりました。ただいま」

 戸口でまだ様子を窺うように待機していた家令が、廊下を足早に引き返していく。
 その後を追うように、ジオルグも大股で部屋を出て行ってしまった。魔導通信機がある部屋に向かったのだろう。

「ちょっ、お待ちください、ロートバル卿! その前に話を、……って、ああもう、何だよ。あの人、全然弱ってないじゃないか」

 セオが俺を睨むように見てぼやいた。いや、俺に当たられても困るのだが。

「それよりも、セオはどうしてここに? サロンでカイルさんやラドモンド卿とお茶をしていたはずでは?」
「いや、どうしてって……、まさかまだ聞いてないのか? 今まで宰相閣下と何を話していたんだお前」
「何って、八回目のときの話を……」
「えっ、まだそんな古い話をしてたのか」
「いや、その前に閣下とは積もる話が色々あって……」

 八回目の話は、セオにとっても仇敵にあたるコリーンと、彼女による当時の月精殺害の話も関わるなかなかヘビーな話だ。セオにも先に、神殿の前庭でその話はしてあった。

「というか、今から肝心の九回目の話をするところだったのを、セオに邪魔されたんですけど?」
「ああそう、それだ。なあ、あいつだけど!」
「あいつとは?」

 俺が首を傾げると、セオは小さく息を吐いて整えてから言った。

「あのルシアっていう大男。あいつもサロンにいたんだけど、さっき僕たちにとんでもないことを言った」
「ルシアさん? 彼は聖女と月精ラエルの代わりに、異世界から召喚された『竜殺し』でしょう?」
「ああ、それはわかってたのか。これまではあいつが魔竜を退治したっていう話だったけど、実はそうじゃなかったんだ」

 セオは、さっきまで俺とジオルグが座っていたカウチソファにぼすんと腰を下ろした。
 俺は手を後ろ手にしながら、セオの前に立つ。
 
「まあ、それはそうでしょうね。だって、セオもさっき神殿であの竜雲を見たでしょう? イーシュトールは今、確かにリグナ・オルムガに降臨しています。つまり……」
「ああ、違うんだ。九回目の時、らしい」

「え?」

 ──なん、だって?

「セオ。イーシュトールと魔竜は同一体だと思います。だから、その……」
「ああ、わかってる。『竜殺し』が魔竜を斃したのなら、イーシュトールも消滅しているはずだって、そう言いたいんだろう?」
「そうです。だから……」

 ジオルグたちがどうやってイーシュトールの魔竜化を食い止めたのかはまだわからないが、今回の十回目において聖女が無事に召喚されている以上、イーシュトールは今も健在なのだ。

 ──ならば、やはりルシアは魔竜を斃していないということになるのでは?

 ずっと混乱していたが、セオの言葉でまたさらに混乱する。
 とてもじゃないが、ルシアに呪いが浄化できるとは思えないし、『竜殺し』だというからには直接的な方法で竜を殺すはずだった。

「魔竜は死んだ。これはわかってるだろうけど、昨夜セラザを襲ったのはコリーンが育てた。だからもう本物は新月の夜になっても襲ってこないし、イーシュトールもこの世にいない。つまり、今リグナ・オルムガにいるのは
「え?」

 ──別の竜種!?

「待ってください。あの、意味が……、わかりませんが?」

 ここにきて新たな事実を突きつけられ、俺は思考が停止しそうになった。
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