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第十一章 セラザからの迎え
81. 跳ね返り
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ジスティとカイルが率いてきた一隊の到着から遅れること一時間。なんとセオが、一人で馬を駆って神殿まで登って来た。
昨日の今日でそこまで体力が回復したのかと驚いたが、そんなはずはなかった。
若い神官から知らせを受け、慌てて神殿の前庭まで迎えに出る。俺たちの顔を見て気が緩んだのか、セオは馬から降りようとしてバランスを崩し、そのまま地面に転げ落ちそうになった。
「おっと。大丈夫か?」
咄嗟に動いたジスティが、抱きかかえるようにして受け止める。
「全く、無茶なことを。まだ身体が本調子ではないのでしょう?」
水の入ったブリキの水筒をセオに手渡しながら、カイルが呆れた口ぶりで言った。
「これぐらい平気だ。乗馬は花嫁修行の一環だって言われて散々やらされたから」
「いや、ちっとも平気じゃないだろう。フラフラして全然自分で立てていないじゃないか」
「王宮でついていた護衛はどうしました? 王太子殿下は、君が一人でこんな所にまで来ることをお許しにはならないはずですが」
ジスティはセオの身体を支えながら、カイルはその正面に立って、二人してかわるがわる話しかけるのを、俺は一歩引いた形で眺めている。
セオは水筒から一口含んでから、ふぅ、と短い吐息とともに悪びれる様子もなく言った。
「……だろうな。だから彼等をまいて、黙って出てきた」
とたん、ジスティが見たことのない顔で呻いた。まるで苦虫を噛み潰したよう、とかいうやつだ。
……俺にはまだ推し量ることしか出来ないのだが、エドアルド王太子とは王立学術院時代からの親友でもあるジスティとカイルは、セオと王太子の言い表し難い微妙な関係について、かなりその核心に触れているようだった。
こう言うとなんだが──特にジスティだ──年少の者に対してあたふたしながら接しているのが、見ていて少し面白い。
「悪かったと思ってる。でも、どうしてもここに来て確かめたかったんだ」
「確かめるって、一体何を……」
「あの女が、どうなったのか」
セオの一言で、俺たち三人の表情が変わった。
「カイルが出て行ったあと、宰相府で聞いた。あの女がここを襲ったんだろう? シリルが無事で本当に良かった。もし僕がここにいたら、間違いなく僕が殺してやってた」
「セオ……」
俺はセオに歩み寄り、自分よりも細いその身体を抱き締める。
「セオにもちゃんと話します。公爵夫人のことを……。殿下には、後でジスティさんからうまく釈明してもらいますから」
「ええ?」
本当に頼む、とセオからもお願いをされて、片手を額に当てたジスティが天を仰ぐ。
カイルの方が、事態に対する姿勢が柔軟だった。
「承知しました、セオデリク殿。あとはうちの師団長がなんとかします」
「カイル、お前にもなんとかしてもらうからな」
ジスティが珍しく低い声で唸るように言ったが、カイルは流れるように無視を決め込んだ。
「ですが、シリルにはあまり時間がありません。話をなさるならお急ぎください」
「時間がないって?」
「実は神殿の転移装置が直り次第、セラザに行くことになったんです」
俺が簡単に事情を説明をすると、セオは目を瞬かせた。
「ああ……そうだったのか。そうか、それは良かったな」
俺とゼフェウスが、朝からなんとかして今日中にセラザへ行く方法はないものかと模索していたことは、どうやらセオの耳にも届いていたらしい。
「……はい」
俺は口の端をちょっと上げて、笑顔を作った。
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