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第六章 ジオルグの求愛
48. 隠れ家② ※
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「……ジル?」
ふいに固まってしまった宰相閣下の頬に触れると、すぐにぱっと掴み取られた。
「気の所為だろうか。今、君のことを好きにしていいと言われた気がしたが」
「え?」
──いや、そんな恐ろしいことは言っていない。
未経験者がいきなり上級者のレベルに付き合える訳もなく、ただ一から優しく教えて欲しいと言ったつもりだったのだが。
誤解されやすい言い回しをしてしまったか。いや、それともわざと取り違えられているのか。
ジオルグは、本当に俺が望めばそれを違えるようなことはしないだろう。だがそれではきっと、彼の満足には程遠い……。
俺の中の鬩合いは、一瞬で片がついた。
「ええ。あなたになら、好きにされても構いません」
「……言ったな」
ジオルグの口唇が獰猛な笑みに吊り上がる。今まさに狩らんする獲物を見定めた獣が、舌なめずりをするような目つきで見下ろされた。
そして、深青の騎士装束の釦に、ゆっくりとその手がかかる。
機動性を重視して作られた騎士装束は、礼服よりは幾分地味にかつ簡素にできている。といって別に脱衣しやすくなっているわけでもないそれが、思いがけない器用さであっという間に剥ぎ取られていく。シャツも下衣も、それから下穿きも、何もかも全部……。
俺を裸にしたジオルグは、一旦ベッドから降りると、今度は忙しない手つきで自らの法衣を解き始めた。俺は、上掛けを肩まで引っ張りあげて包まりながら、黙ってその様子を見つめる。
この国の聖職者たちは、基本的に白い法衣を身につける。レンドラ教会の司祭や聖竜神殿の神官の位は、その上から重ねて着る袖のない上衣、聖職者用のサーコートの色で見分けられる仕様になっていた。
だがジオルグは、普段から黒の法衣を着用している。彼のように、法衣もサーコートも全てが黒という仕様はかつてないものだという。
ジオルグが本来身につけるべきは純白の法衣にこれまた純白のサーコートだ。その慣習を破ってまで彼が黒衣を身につける意義とは何か。
それは、【竜の祭壇】を祀る祭司という、聖竜神殿においては最高位の立場にありながら、現国王直々に請われ、特例措置として宰相職に就いたというその特殊性を表わすためともいわれている。
あと、俺がたまたま耳にした宰相府の役人たちの話によると、白は心理的に相手から侮られやすいという理由もあるのだとか。
だとしても、この国で最強無敵であるはずの宰相閣下を、一体誰が侮るというのだろう。
しかし、今や『黒の法衣』と言えばジオルグのことを指すほど、そのイメージはすっかり定着してしまっていた。
身に纏うもの全てを床に脱ぎ捨て、長い銀の髪を広い背中に流した美丈夫が、再びベッドに戻ってくる。ジオルグは無言で上掛けを捲ると、先に裸に剥いていた俺に覆いかぶさり、強く抱きしめながら唇を重ねてきた。
「……んッ」
直接肌を合わせる感覚にも慄く。
もちろん嫌なのではない、ただ初めてのその熱さに驚いただけ……。
ここに来るまでに何度も深いキスを交わしたせいか、身体の芯はすっかり蕩けていた。
「シリル……」
感じ入ったように名を呼ばれ、首から胸にかけてを丹念に撫でられる。首筋に強く吸いつかれながら、胸のささやかな尖りを指で摘むようにくりくりと弄られた。
「んッ……、あ、」
自分のものとはとても思えない、鼻を鳴らすような甘ったるい声が上がる。
膚の上を這い回る、熱くて大きな手が、既に勃ちかけている陰茎を掴み取った。やわやわと扱かれるのと同時に、左の乳首を食まれ、強く吸われる。
「んッ! それ、やっ、いっしょだめっ、あ、ジル……ッ」
「……駄目か? 本当に?」
口を離し、今度は指で左の乳首を摘みながら、より強い力で竿を扱きだした。俺は涙目になってジオルグを睨むが、それでも止めてはもらえず、やがて鈴口から透明なものが溢れ出すと、今度はそこを親指で抉るように弄られ、くちゅくちゅと聞くに堪えないようないやらしい音が立つのを聞かされた。
「──ほら。もうこんなに濡れている。君はとても感じやすいな」
「知らなっ……ぁ、あ、あぁッ──」
とうとう耐えきれずに射精してしまい、ジオルグの手を白濁で汚してしまう。
初めて自分以外の手でイかされ、その過ぎる快感と羞恥とで悶える俺に、ジオルグは「達したか」と平気な顔で言って、頬に軽くキスをしてくる。
そして、俺の精液に塗れた手をひらっと振った瞬間には衛生魔法が発動し、手の洗浄が終わっていた。まるで手品のような早技だ。同じように、俺の体に付いたものも残らず綺麗に取り去ってくれる。
ジオルグは、俺の髪を一筋すくって口づけてから言った。
「行為の最中に身体が汚れたとしても、その度にいちいちこんなことをするのだとは思わないでくれ。今は、初めてだと言う君になるべく不快な思いをさせたくなくてやっているが、余裕がないときはきっと、どんなに汚してもかまわず、最後まで君を抱く」
果てたばかりでまだ少しぼんやりとしていた俺は、その意味をよく捉えきれないままに頷く。
無粋のついでに、と今度は耳許でそっと言われる。下腹に手を当てられた途端、中が濡れたような感覚に見舞われ、びくっと大きく身体を跳ねさせた。
「驚かせてすまない。……次からは、中の準備は自分でするといい。その方が、加減ができる」
魔法で胎の中を洗浄されたあとは、長い時間をかけて、香油を纏った指でひたすら入念に後ろの窄まりを解された。
その間にも、胸の尖りは両方とも紅く勃つまで舐られ、その周りの膚も痕が残るほどきつく吸われる。
俺は爼板の上の鯉のような状態で、ただ求められるがままに身体を預け、熱に浮かされたように喘がされ続けた。初めてのはずなのに、ジオルグにされることは全部、気持ち良すぎて怖い。
「痛くはないか?」
中を拡げるための指が増やされ、烟るような金の双眸が、気遣わしげに顔を覗き込んでくる。
大丈夫だと、かぶりを振ろうとする。ちょうどそのとき、胎の中のある一点を押され、ビクビクッと身体が激しく仰け反った。
「ひッッ……!」
「ああ、ここだな。君の、感じるところは」
そこを何度も捏ねるように押され、また放ちそうになったところにジオルグの手が根元を戒め、射精を抑制された。
「ジル、やだ、も、出したい……っ」
「ああ、私もだ」
低い声で言いながら身を起こしたジオルグの、その引き締まった腰の辺りを俺は思わず凝視する。
──お、大きい……!
溢れ出す先走りに濡れそぼった凶悪なまでに勃ちきったジオルグの性器。さすがに入るわけがないと、じりっと逃げを打とうとする身体を強い力で引き戻され、脚を高く掴み上げられた。
ようやく綻びかけたその窄まりに、火傷しそうなほどの熱を孕んだ先端をぐっと押しつけられる。
「……やッ、だめ、それ、こわ、い……」
「悪いが、今はその駄目は聞けない」
ギラッと激しい目つきで見据えられ、ひくりと喉を震わせる。
「私の好きにさせると、シリル、君がそう言った……」
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