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第五章 王妃のお茶会
41. 忠告
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護衛師団の庁舎に戻って来たときには、東の空が白み始めていた。
本当に、長い話になってしまった。
俺が転生者だということも含め、前世の日本特有のサブカルチャー的な概念が通じるのかどうか、とりわけ乙女ゲームなるモノを一体どういう風に説明したものか、話している間に時々こちらが詰まってしまう場面もあったが、意外とすんなり理解されてしまった。物語好きの王子は、要はゲームも一種のテキストだという受け止め方をしたらしい。
転生云々のことや、この世界の基礎と、件のゲームの設定とがそっくりそのままであるということについても、まあそんなこともあるんだろうね、とさらりと言われてしまった。
竜が棲み、異世界から聖女を召喚する魔法の国の(それも精霊種の血を多く引く) 王子にとって、大概の不思議は、不思議だけれどなくはない、という認識のようだ。
そして、全ての話を聞き終えたルーは、今日の午後に開かれる『王妃様のお茶会』に、アイリーネと一緒に参加することを約束してくれた。
『とりあえず、朝になったらご挨拶に伺うよ。多分そのときに誘ってもらえると思う。君の話を聞いて、オリーゼ嬢にも会ってみたくなったし』
王妃との仲はそれなりに良好らしいので、あとはうまくやってくれるだろう。
ただ、俺が抱いているこの先の懸念については、何故か首を捻られた。
『それはどうかな……。アイリーネ自身が誰か一人を選ばなかったとしても、近々にこの世界から退去なんてことにはならないと思うけれどね』
『その根拠は?』
『うーん、なんとなく? 彼女ではないというか……むしろ、君がどうにかならないと進まないというか』
最後の方は、ごにょごにょと口の中で濁される。なんとなくだが、これはわざとだ。
俺が話したこと全てを、ゲームでも時々登場していた魔導式の筆記用機械(見た目は完全にタイプライターだ。自分で鍵盤を打って印字することもできるが、基本的には口述したことを、魔力による自動式で紙に印字していく)で記録していたルーは、あとで自分も時間の許す限り考察してみると言ってくれた。
……それはありがたいのだが、素直に喜べないのは、話す途中で何回か笑われているからだ。別に面白いことは言っていないのに、何故かジオルグとの事を話したとき……、特に終盤のとある部分では、手を打って大笑いされた。
『人の家出の話が、そんなに楽しいですか?』
『あははは、やっぱり家出なんだ。でも家令には、自立がしたいと言って出てきたんだろう?』
『そうですよ。それが何か』
『ジオルグは今、一体どんな顔して暮らしているんだろう……。ああ、今までこんなに彼に会いたいと思ったことはないよ』
終いには、手で目元をぬぐいながらそんなことを言う。
『ねえ、シリル。俺のことをルーって呼ぶのは平気?』
『……敬称をつけても良いのでしたら』
『フフ、まあそれでもいいか。俺の場合はね、気の置けない友人からは、少しでもましな方の名前で呼んで欲しいだけだから、そんなに深い意味はないよ』
よほど、サファインという名前が好きではないようだ。
『わかりました。これからは、ルー様とお呼びします』
『うん。ところで、気がついてる?』
『何に、ですか?』
『今、君がゲームでは触れられていなかったせいで知らなかったと言ったこと。そのほとんどが月精にまつわることなのは当然として、あとはジオルグに関連している事柄だってこと』
『……ああ。そういえばそうですね』
『うん。なんにせよ、君が前世で経験したその乙女ゲームとやらと、君自身がこの世界で知り得たこととの差異に目を向けるのは、重要なことだと思う。だから、そこをじっくり詰めていくのがいいかもしれないね』
それからね、とルーは心持ちひそめるような声で言った。
『これは忠告。君の魔力量、今以上に下がると危険だよ。多分ポーションとか回復魔法で調整はしてるんだろうけど、それでは結局、回復値そのものは上げられないからね』
『……はい。回復系の魔法は不得手なので、ポーションを。半分以下にはしないようにしていますが。それ以上は、どうやっても上がらないので』
魔力量の回復値が減退したのは、月精の徴が現れた頃からだ。
そのうえ、契約前のルトに大半を摂取されてしまった。以降、気をつけてはいるのだが、なかなか本来の魔力量まで回復出来なくなっていた。
ポーションを大量に飲めばいいのかもしれないが、そんなことをしたら、回復しきる前におそらく俺の胃腸が死ぬ。
そう言うと、ルーは少し眉を寄せ、ローブの袂から緑色の液体が入った小瓶を取り出して、俺の前に突き出してきた。
『言っただろう。回復値を上げるのは難しいんだよ。だからそれは減退じゃなくて、今の君みたいに短期間のうちに魔力量の方が大きく跳ね上がった場合は特にね。今はとりあえずこのポーションを飲んでおいて。それから、充分な食事と睡眠も大事だよ』
『はい、ありがとうございます』
『今日はせっかくの休暇なんだし、ごちゃごちゃ考えず、屋敷に戻ってゆっくりとおやすみ。いいね?』
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