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第三章 聖女と月精
21. 封印された真実 ①
しおりを挟む「ユーディ副師団長の言う通り、月精の存在が何者かによって秘されているのは確かだ」
そう言ってジオルグが話し始めたのは、八人目の聖女についてだった。魔竜を斃したあと、イーシュトールが目覚める前に急逝したという、あの聖女だ。
「……我が国における最重要の秘儀につき、詳細は省くが、要するに聖女召喚の儀というのは女神レンドラが編んだ光の大魔法による召喚術式と、竜の祭壇に降臨したイーシュトールによる魔力、さらにそれを補助する竜の祭司の魔力によって執り行われる儀式だ。しかし、八人目にはそれまでの聖女が受けてきたもう一つの恩恵がなかったと言われている。もしくは、それはあったが、十全ではなかったとも」
「そのもう一つというのは? 話の流れからすると、それが月精といわれる存在であると?」
「その通りだ、コーゼル師団長」
「この場ではどうかジスティとお呼びください、閣下。……つまり、八回目の儀式には何か不備でもあったのですか?」
「いや、ジスティ。月精が聖女を召喚する儀式に直接関わることはない。それに、神殿に保管されている当時の記録を見ても、召喚の儀そのものについては何も問題はなかった」
そもそも儀式そのものが完全でなければ、聖女は召喚されないのだとジオルグは言った。
「では八回目も儀式自体は成功して、魔竜も斃すことが出来た。その後竜が目覚めるまでの間、王国の結界の維持強化を図る役目がある聖女には、不老と長命という恩恵が与えられるはずですよね……」
顎に手を当てながら、カイルは呟く。
召喚以後、聖女にはその生涯にわたって女神とイーシュトールによる強力な加護が約束される。その長い寿命が尽きるまでは、半永久の命が与えられたようなものらしい。つまり、滅多なことでは若くして死ぬはずがないということか。
「だがそれは聖女の傍らに、月精として選ばれた者がいればこそだ」
不意にエドアルドが口を挟む。
「八回目までは、周知の事実だったはずだ。聖女一人が、竜が眠る間の結界の守りを担うのではないと」
カイルが、あ、と声を発した。
「もしかして。八人目の聖女よりも先に、月精の方が亡くなっていた?」
「そう聞いている。……我が王家にとっては誠に遺憾な事実とともに」
「それは、殿下、我々が伺っても?」
「当然だ。でなければわざわざ皆をここに招いたりはしない」
エドアルド曰く。最初からそうだったわけではないそうだが、いつしか召喚された聖女は、その時代の王家の男子と結婚することが半ば習わしのようになっていったそうだ。
聖女召喚の儀が行われる際、王家に生まれた未婚の男子が付き添い人として付く習慣があるのもそのためだという。
現にエドアルドも、新たに迎える聖女の付き添い人として、今日の未明に行われた十回目の儀式に立ち会っている。
さっき初めてアイリーネの姿を見たとき、まるで花嫁装束を着せられているようだと思ったのも、そうした事実の果てならば納得がいく。
「まあ、そうだろうな。パノンの王族が今も光魔法を使えるのは、竜人種と歴代の聖女の血が入っているからだろう?」
ジスティが言えば、ジオルグも頷く。
「私が言うのもなんだが、竜人種にばかり魔力の生成量の高い人材が偏っているのも、国の事情としてはあまりよろしくはないからな」
「身も蓋もない話ではあるが、ジスティと叔父上が言われるとおりだ。それも七人目の聖女までの話ではあるが」
光魔法は、この世界では女神レンドラとその眷属にしか扱えない高位の魔法とされている。竜人種以外では、王家に連なる人間にしか扱えないということだ。しかし八人目の聖女は王家に嫁ぐ前に亡くなり、九人目の聖女は不在だった。
「聖女と月精は、まさに表裏一体。イーシュトールが眠る間、ふたりはこの国の昼と夜の結界の守護を司る。どちらかが欠けては意味がない」
そのことを、八人目の聖女の時代、当時のパノン王は失念していたのだという。すなわち、彼は当然のように自分の息子も、これまでと同様に聖女と結ばれるとばかり思っていた。それこそが王家にとっての、引いては王国そのものの繁栄に繋がると信じて疑わなかったのだ。ところが……。
「八人目の聖女と当時の王太子との間には、確かに婚約が交わされていたという事実がある。だが、王太子が本当に愛したのは聖女ではなく、月精の方だった」
──なんと。
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