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第一章 目覚めの朝
⒍ シリルの話
しおりを挟む【俺】が草原で目覚めた夜、シリル・ブライトは孤児になった。
父親は彼がもっと幼い頃、運悪く森で遭遇した魔獣に殺された。
シリルほど劇的にではないにせよ、自分も前世で孤児になったことを思えば、何か因縁めいたものを感じてしまう。どこかしら似た境遇でまた生まれ変わるのだとしたら、あと何度転生すれば親や兄弟と一緒に暮らせる子供になれるのか、なんてことも少し考えたりした。
俺がそんなとりとめのない憂鬱に取り憑かれたのには、理由がある。
草原で黒衣の一党に襲われたあと、結局シリルはゲームのシナリオ通りにその事実を忘れてしまったらしく、困ったことにはそれが原因で、あのとき目覚めた【俺】の意識も、【彼】と繋がりを持てなくなってしまったのだ。
──もしかして俺は、シリルの中の一人格として生まれ変わってしまったのだろうか?
だとしたら【俺】は、他人の体に憑依した幽霊みたいなものか。
というのも、シリルというキャラクターは、もともとかなり特殊な精神性を有している。前世風に言うなら解離性同一症。分かりやすく言うと多重人格障害。そういったものに近い、何か。
専門的な知識がないのでそんな風にしか言えないが、自分が体験したことを要約すると、あの夜、ほんの一瞬だけシリルをコントロール出来た【俺】が草原で意識を失ったあと、また入れ替わるようにして出てきたシリルの主人格に封印されてしまい、どうやってみても表に出られなくなってしまったのだ。
おそらく襲われたという記憶ごとなくしてしまった【彼】に、【俺】のことを認識させるのは至難の業だろう。
……とまあ、いつまでもいじけていないで、とりあえずわかる範囲のことだけもう少しまとめておく。
あの夜、セラザ辺境警備隊とともに、シリルを助けにやってきた聖竜神殿の神官長ジオルグ・ジルヴァイン・ロートバルは、王都に帰るなり、シリルを自身の元で養育すると宣言した。
ゲームの世界では、シリルはジオルグの手引きで一旦、王都にある創世の女神レンドラを祀る教会の孤児院に預けられ、そこで一部の孤児たちから壮絶ないじめに遭うのだが、この世界のシリルは、はじめからジオルグの養子として、彼の屋敷で何不自由のない生活を送っている。
なので、当然のことながら、自分をいじめた加害者を、第二の人格時に倍返しどころか十倍返しぐらいの目に遭わせるといった、本来のシナリオならば起こるべき事件も起こりようがなく。
ちなみにこの攻撃性の強い苛烈な第二の人格は、集落が襲われた夜に母親を殺され、またシリル自身も殺されかけたトラウマによって、彼の無意識下で生み出された人格で、その名をカイファという。
この血塗られた復讐者の誕生が、後のシリル・ブライトというキャラクターを形成する上での重要な前提条件だったのだが、それが早くもへし折られてしまったことがまず、【俺】には大きな驚きだった。
これでは、このゲームのラスボスである【魔竜】が介入する隙がない……。
……そうだ、忘れるところだった。
そもそも、何故この国一番の貴人であるはずのジオルグがあの夜、辺境の大草原くんだりまで、小さな集落育ちの古代種の末裔を救いにやって来たのか。
それを語るにはまず、『セイント・オブ・ドラゴン ~竜と魔法の王国~』の舞台となる王国の成り立ちから説明する必要がある。
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