41 / 73
第4話 センチメンタル・エチュード
暗中模索
しおりを挟む
アルページュ邸での魔法鍛錬は、週に3回から4回のペースで行われた。
というのも、ロゼ自身も生徒会長としての活動やバイオリンのレッスンやコンサートがあるため、全員に都合の良い日時を合わせることが難しかったからだ。
それでもロゼの計らいで、彼女が不在でアルページュ邸が使用出来ない時でも市内にあるミネルヴァ財団の所有する建物は自由に使っても良い事になり、自主練をしたい時にはいつでも出入りさせてもらえることになった─そういう場合はロゼが自分の名義で「自習」や「会議」など適当な名目で部屋を確保して使用出来るように手配してくれた。
「シトラス、今日も練習に行くの?」
放課後、いそいそと帰り支度をするシトラスを見てキルシェが声をかける。キルシェはいつもツインテールにしている髪をポニーテールに束ねて、体操着を着用していた。どうやら今日は何かの部活に助っ人として参加するらしい。
「うん、もうちょっとでコツが掴めるかもしれなくて」
「それに、家で練習するのはちょっと無理ポメから……」
カバンから顔を出したポメポメの言葉に、シトラスはうぅっ……と言葉に詰まる。
「何かあったの?」
「それが……」
実は、あれからシトラスは家でも人形を歩かせる練習をしていた。そして練習自体は上手くいっていなかったのだが、代わりにちょっとした騒ぎを起こしてしまったのだ。
具体的には、隣室の電気が点滅を繰り返したり、階下の部屋で水道管が一部破裂したりと、さまざまな異常事態がアパート内で発生した。加えてスマホやパソコンがフリーズしたり、電源の入っていない電子機器や家電が勝手に動き出したりするトラブルに見舞われた住人もいたらしい。これらの現象全てが、シトラスが魔法の練習をしていた夜間に起きた出来事だった。
そして翌朝、アパート周辺は各部屋の住人たちに呼び出された修理業者で溢れかえり、一時騒然となったのだった。
ポメポメはすぐに、これらがシトラスの魔法の影響によるものだと気付いた。シトラスは人形を動かそうとする魔法自体には失敗していたが、その際に放出されたエナジーが周囲の電気製品や水道設備に干渉してしまったのだ。
「ポメポメ……魔法を使ったらこうなるってもっと早く教えて欲しかったよ……」
肩を落としてシトラスが呟くと、ポメポメは慌てて弁解を始めた。
「ごめんポメ……まさかここまで派手な影響が出るとは思わなかったポメ……」
ロゼの家やミネルヴァ財団の所有する建物で練習した時にはこのようなことは起きなかったのだが、恐らくレオンが何らかの対策を取っているのだろう。
ともあれこんなトラブルを起こしてしまっては自宅のアパートで練習を続けるわけにはいかないので、シトラスはロゼの家か用意してもらった施設でのみ魔法の練習を行うことにしたのだった。
「あたしが家でやってみた時はそんなことなかったんだけどなぁ」
キルシェは不思議そうに首を傾げる。彼女は学園近くのマンションに、叔母と二人で暮らしている。シトラスのアパートより新しく大きい建物だが、賃貸住宅であることには変わりなく、ロゼの邸宅には遠く及ばない。
「人形を動かせたということはエナジーの制御が出来ているということポメから、魔法が人形以外のものに影響することがなかったんだと思うポメ」
つまり、正しく魔法が発動していれば余計なエナジーが対象以外のものに影響を与えることはないらしい。
(魔法に失敗した上に余計な力を飛ばして周りに大迷惑をかけた私って……)
改めて自分の行いを思い返し、青ざめていくシトラスだったが、キルシェはそんな彼女の肩をポンっと叩いた。
「まーまーそんな時もあるって!もうちょっとでコツが掴めそうなんでしょ?シトラスならだいじょーぶ!」
「……ありがとう、キルシェ」
と、その時校内にチャイムが鳴り響いた。部活動の開始時間を告げる音だ。
「やばっ、あたしこれから練習あるからもう行かなきゃ!ごめんシトラス!また明日の合同訓練でね!!」
「あ、うん!また明日!」
慌ただしく教室を出ていくキルシェの背中に声をかけると、振り返って笑顔で手を振り返してくれた。そのまま走り去ったキルシェを見送って、シトラスは小さく溜め息を漏らす。
「……やっぱり私、魔法下手なのかも」
「そんなことないポメ!!シトラスだってちゃんと変身したら魔法使えるポメ!初めて変身した時もちゃんと、魔獣を倒せたポメ!!」
「それは変身したからだよ……変身してる時は、自分が何をすればいいのか、どんな魔法を使うべきか、何となくわかるの。
でも─みんなみたいに変身していない時でもちゃんと使えるようにならないと、本当に理解したことにはならないと思う」
シトラスはカバンを肩にかけて、立ち上がった。その表情には微かに焦りの色がにじんでいる。
「ポメポメ、今日も付き合ってくれる?」
「ポメ!師匠とロゼはいないけど、今日はポメポメが代わりにシトラスの先生になるポメ!」
お願いね、とシトラスはカバンから顔を出すポメポメの頭を指で撫でて教室を出た。
というのも、ロゼ自身も生徒会長としての活動やバイオリンのレッスンやコンサートがあるため、全員に都合の良い日時を合わせることが難しかったからだ。
それでもロゼの計らいで、彼女が不在でアルページュ邸が使用出来ない時でも市内にあるミネルヴァ財団の所有する建物は自由に使っても良い事になり、自主練をしたい時にはいつでも出入りさせてもらえることになった─そういう場合はロゼが自分の名義で「自習」や「会議」など適当な名目で部屋を確保して使用出来るように手配してくれた。
「シトラス、今日も練習に行くの?」
放課後、いそいそと帰り支度をするシトラスを見てキルシェが声をかける。キルシェはいつもツインテールにしている髪をポニーテールに束ねて、体操着を着用していた。どうやら今日は何かの部活に助っ人として参加するらしい。
「うん、もうちょっとでコツが掴めるかもしれなくて」
「それに、家で練習するのはちょっと無理ポメから……」
カバンから顔を出したポメポメの言葉に、シトラスはうぅっ……と言葉に詰まる。
「何かあったの?」
「それが……」
実は、あれからシトラスは家でも人形を歩かせる練習をしていた。そして練習自体は上手くいっていなかったのだが、代わりにちょっとした騒ぎを起こしてしまったのだ。
具体的には、隣室の電気が点滅を繰り返したり、階下の部屋で水道管が一部破裂したりと、さまざまな異常事態がアパート内で発生した。加えてスマホやパソコンがフリーズしたり、電源の入っていない電子機器や家電が勝手に動き出したりするトラブルに見舞われた住人もいたらしい。これらの現象全てが、シトラスが魔法の練習をしていた夜間に起きた出来事だった。
そして翌朝、アパート周辺は各部屋の住人たちに呼び出された修理業者で溢れかえり、一時騒然となったのだった。
ポメポメはすぐに、これらがシトラスの魔法の影響によるものだと気付いた。シトラスは人形を動かそうとする魔法自体には失敗していたが、その際に放出されたエナジーが周囲の電気製品や水道設備に干渉してしまったのだ。
「ポメポメ……魔法を使ったらこうなるってもっと早く教えて欲しかったよ……」
肩を落としてシトラスが呟くと、ポメポメは慌てて弁解を始めた。
「ごめんポメ……まさかここまで派手な影響が出るとは思わなかったポメ……」
ロゼの家やミネルヴァ財団の所有する建物で練習した時にはこのようなことは起きなかったのだが、恐らくレオンが何らかの対策を取っているのだろう。
ともあれこんなトラブルを起こしてしまっては自宅のアパートで練習を続けるわけにはいかないので、シトラスはロゼの家か用意してもらった施設でのみ魔法の練習を行うことにしたのだった。
「あたしが家でやってみた時はそんなことなかったんだけどなぁ」
キルシェは不思議そうに首を傾げる。彼女は学園近くのマンションに、叔母と二人で暮らしている。シトラスのアパートより新しく大きい建物だが、賃貸住宅であることには変わりなく、ロゼの邸宅には遠く及ばない。
「人形を動かせたということはエナジーの制御が出来ているということポメから、魔法が人形以外のものに影響することがなかったんだと思うポメ」
つまり、正しく魔法が発動していれば余計なエナジーが対象以外のものに影響を与えることはないらしい。
(魔法に失敗した上に余計な力を飛ばして周りに大迷惑をかけた私って……)
改めて自分の行いを思い返し、青ざめていくシトラスだったが、キルシェはそんな彼女の肩をポンっと叩いた。
「まーまーそんな時もあるって!もうちょっとでコツが掴めそうなんでしょ?シトラスならだいじょーぶ!」
「……ありがとう、キルシェ」
と、その時校内にチャイムが鳴り響いた。部活動の開始時間を告げる音だ。
「やばっ、あたしこれから練習あるからもう行かなきゃ!ごめんシトラス!また明日の合同訓練でね!!」
「あ、うん!また明日!」
慌ただしく教室を出ていくキルシェの背中に声をかけると、振り返って笑顔で手を振り返してくれた。そのまま走り去ったキルシェを見送って、シトラスは小さく溜め息を漏らす。
「……やっぱり私、魔法下手なのかも」
「そんなことないポメ!!シトラスだってちゃんと変身したら魔法使えるポメ!初めて変身した時もちゃんと、魔獣を倒せたポメ!!」
「それは変身したからだよ……変身してる時は、自分が何をすればいいのか、どんな魔法を使うべきか、何となくわかるの。
でも─みんなみたいに変身していない時でもちゃんと使えるようにならないと、本当に理解したことにはならないと思う」
シトラスはカバンを肩にかけて、立ち上がった。その表情には微かに焦りの色がにじんでいる。
「ポメポメ、今日も付き合ってくれる?」
「ポメ!師匠とロゼはいないけど、今日はポメポメが代わりにシトラスの先生になるポメ!」
お願いね、とシトラスはカバンから顔を出すポメポメの頭を指で撫でて教室を出た。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
鬼様に生贄として捧げられたはずが、なぜか溺愛花嫁生活を送っています!?
小達出みかん
キャラ文芸
両親を亡くし、叔父一家に冷遇されていた澪子は、ある日鬼に生贄として差し出される。
だが鬼は、澪子に手を出さないばかりか、壊れ物を扱うように大事に接する。美味しいごはんに贅沢な衣装、そして蕩けるような閨事…。真意の分からぬ彼からの溺愛に澪子は困惑するが、それもそのはず、鬼は澪子の命を助けるために、何度もこの時空を繰り返していた――。
『あなたに生きていてほしい、私の愛しい妻よ』
繰り返される『やりなおし』の中で、鬼は澪子を救えるのか?
◇程度にかかわらず、濡れ場と判断したシーンはサブタイトルに※がついています
◇後半からヒーロー視点に切り替わって溺愛のネタバレがはじまります

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
恥ずかしい 変身ヒロインになりました、なぜならゼンタイを着ただけのようにしか見えないから!
ジャン・幸田
ファンタジー
ヒーローは、 憧れ かもしれない しかし実際になったのは恥ずかしい格好であった!
もしかすると 悪役にしか見えない?
私、越智美佳はゼットダンのメンバーに適性があるという理由で選ばれてしまった。でも、恰好といえばゼンタイ(全身タイツ)を着ているだけにしかみえないわ! 友人の長谷部恵に言わせると「ボディラインが露わだしいやらしいわ! それにゼンタイってボディスーツだけど下着よね。法律違反ではないの?」
そんなこと言われるから誰にも言えないわ! でも、街にいれば出動要請があれば変身しなくてはならないわ! 恥ずかしい!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる