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第4話 センチメンタル・エチュード
暗中模索
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アルページュ邸での魔法鍛錬は、週に3回から4回のペースで行われた。
というのも、ロゼ自身も生徒会長としての活動やバイオリンのレッスンやコンサートがあるため、全員に都合の良い日時を合わせることが難しかったからだ。
それでもロゼの計らいで、彼女が不在でアルページュ邸が使用出来ない時でも市内にあるミネルヴァ財団の所有する建物は自由に使っても良い事になり、自主練をしたい時にはいつでも出入りさせてもらえることになった─そういう場合はロゼが自分の名義で「自習」や「会議」など適当な名目で部屋を確保して使用出来るように手配してくれた。
「シトラス、今日も練習に行くの?」
放課後、いそいそと帰り支度をするシトラスを見てキルシェが声をかける。キルシェはいつもツインテールにしている髪をポニーテールに束ねて、体操着を着用していた。どうやら今日は何かの部活に助っ人として参加するらしい。
「うん、もうちょっとでコツが掴めるかもしれなくて」
「それに、家で練習するのはちょっと無理ポメから……」
カバンから顔を出したポメポメの言葉に、シトラスはうぅっ……と言葉に詰まる。
「何かあったの?」
「それが……」
実は、あれからシトラスは家でも人形を歩かせる練習をしていた。そして練習自体は上手くいっていなかったのだが、代わりにちょっとした騒ぎを起こしてしまったのだ。
具体的には、隣室の電気が点滅を繰り返したり、階下の部屋で水道管が一部破裂したりと、さまざまな異常事態がアパート内で発生した。加えてスマホやパソコンがフリーズしたり、電源の入っていない電子機器や家電が勝手に動き出したりするトラブルに見舞われた住人もいたらしい。これらの現象全てが、シトラスが魔法の練習をしていた夜間に起きた出来事だった。
そして翌朝、アパート周辺は各部屋の住人たちに呼び出された修理業者で溢れかえり、一時騒然となったのだった。
ポメポメはすぐに、これらがシトラスの魔法の影響によるものだと気付いた。シトラスは人形を動かそうとする魔法自体には失敗していたが、その際に放出されたエナジーが周囲の電気製品や水道設備に干渉してしまったのだ。
「ポメポメ……魔法を使ったらこうなるってもっと早く教えて欲しかったよ……」
肩を落としてシトラスが呟くと、ポメポメは慌てて弁解を始めた。
「ごめんポメ……まさかここまで派手な影響が出るとは思わなかったポメ……」
ロゼの家やミネルヴァ財団の所有する建物で練習した時にはこのようなことは起きなかったのだが、恐らくレオンが何らかの対策を取っているのだろう。
ともあれこんなトラブルを起こしてしまっては自宅のアパートで練習を続けるわけにはいかないので、シトラスはロゼの家か用意してもらった施設でのみ魔法の練習を行うことにしたのだった。
「あたしが家でやってみた時はそんなことなかったんだけどなぁ」
キルシェは不思議そうに首を傾げる。彼女は学園近くのマンションに、叔母と二人で暮らしている。シトラスのアパートより新しく大きい建物だが、賃貸住宅であることには変わりなく、ロゼの邸宅には遠く及ばない。
「人形を動かせたということはエナジーの制御が出来ているということポメから、魔法が人形以外のものに影響することがなかったんだと思うポメ」
つまり、正しく魔法が発動していれば余計なエナジーが対象以外のものに影響を与えることはないらしい。
(魔法に失敗した上に余計な力を飛ばして周りに大迷惑をかけた私って……)
改めて自分の行いを思い返し、青ざめていくシトラスだったが、キルシェはそんな彼女の肩をポンっと叩いた。
「まーまーそんな時もあるって!もうちょっとでコツが掴めそうなんでしょ?シトラスならだいじょーぶ!」
「……ありがとう、キルシェ」
と、その時校内にチャイムが鳴り響いた。部活動の開始時間を告げる音だ。
「やばっ、あたしこれから練習あるからもう行かなきゃ!ごめんシトラス!また明日の合同訓練でね!!」
「あ、うん!また明日!」
慌ただしく教室を出ていくキルシェの背中に声をかけると、振り返って笑顔で手を振り返してくれた。そのまま走り去ったキルシェを見送って、シトラスは小さく溜め息を漏らす。
「……やっぱり私、魔法下手なのかも」
「そんなことないポメ!!シトラスだってちゃんと変身したら魔法使えるポメ!初めて変身した時もちゃんと、魔獣を倒せたポメ!!」
「それは変身したからだよ……変身してる時は、自分が何をすればいいのか、どんな魔法を使うべきか、何となくわかるの。
でも─みんなみたいに変身していない時でもちゃんと使えるようにならないと、本当に理解したことにはならないと思う」
シトラスはカバンを肩にかけて、立ち上がった。その表情には微かに焦りの色がにじんでいる。
「ポメポメ、今日も付き合ってくれる?」
「ポメ!師匠とロゼはいないけど、今日はポメポメが代わりにシトラスの先生になるポメ!」
お願いね、とシトラスはカバンから顔を出すポメポメの頭を指で撫でて教室を出た。
というのも、ロゼ自身も生徒会長としての活動やバイオリンのレッスンやコンサートがあるため、全員に都合の良い日時を合わせることが難しかったからだ。
それでもロゼの計らいで、彼女が不在でアルページュ邸が使用出来ない時でも市内にあるミネルヴァ財団の所有する建物は自由に使っても良い事になり、自主練をしたい時にはいつでも出入りさせてもらえることになった─そういう場合はロゼが自分の名義で「自習」や「会議」など適当な名目で部屋を確保して使用出来るように手配してくれた。
「シトラス、今日も練習に行くの?」
放課後、いそいそと帰り支度をするシトラスを見てキルシェが声をかける。キルシェはいつもツインテールにしている髪をポニーテールに束ねて、体操着を着用していた。どうやら今日は何かの部活に助っ人として参加するらしい。
「うん、もうちょっとでコツが掴めるかもしれなくて」
「それに、家で練習するのはちょっと無理ポメから……」
カバンから顔を出したポメポメの言葉に、シトラスはうぅっ……と言葉に詰まる。
「何かあったの?」
「それが……」
実は、あれからシトラスは家でも人形を歩かせる練習をしていた。そして練習自体は上手くいっていなかったのだが、代わりにちょっとした騒ぎを起こしてしまったのだ。
具体的には、隣室の電気が点滅を繰り返したり、階下の部屋で水道管が一部破裂したりと、さまざまな異常事態がアパート内で発生した。加えてスマホやパソコンがフリーズしたり、電源の入っていない電子機器や家電が勝手に動き出したりするトラブルに見舞われた住人もいたらしい。これらの現象全てが、シトラスが魔法の練習をしていた夜間に起きた出来事だった。
そして翌朝、アパート周辺は各部屋の住人たちに呼び出された修理業者で溢れかえり、一時騒然となったのだった。
ポメポメはすぐに、これらがシトラスの魔法の影響によるものだと気付いた。シトラスは人形を動かそうとする魔法自体には失敗していたが、その際に放出されたエナジーが周囲の電気製品や水道設備に干渉してしまったのだ。
「ポメポメ……魔法を使ったらこうなるってもっと早く教えて欲しかったよ……」
肩を落としてシトラスが呟くと、ポメポメは慌てて弁解を始めた。
「ごめんポメ……まさかここまで派手な影響が出るとは思わなかったポメ……」
ロゼの家やミネルヴァ財団の所有する建物で練習した時にはこのようなことは起きなかったのだが、恐らくレオンが何らかの対策を取っているのだろう。
ともあれこんなトラブルを起こしてしまっては自宅のアパートで練習を続けるわけにはいかないので、シトラスはロゼの家か用意してもらった施設でのみ魔法の練習を行うことにしたのだった。
「あたしが家でやってみた時はそんなことなかったんだけどなぁ」
キルシェは不思議そうに首を傾げる。彼女は学園近くのマンションに、叔母と二人で暮らしている。シトラスのアパートより新しく大きい建物だが、賃貸住宅であることには変わりなく、ロゼの邸宅には遠く及ばない。
「人形を動かせたということはエナジーの制御が出来ているということポメから、魔法が人形以外のものに影響することがなかったんだと思うポメ」
つまり、正しく魔法が発動していれば余計なエナジーが対象以外のものに影響を与えることはないらしい。
(魔法に失敗した上に余計な力を飛ばして周りに大迷惑をかけた私って……)
改めて自分の行いを思い返し、青ざめていくシトラスだったが、キルシェはそんな彼女の肩をポンっと叩いた。
「まーまーそんな時もあるって!もうちょっとでコツが掴めそうなんでしょ?シトラスならだいじょーぶ!」
「……ありがとう、キルシェ」
と、その時校内にチャイムが鳴り響いた。部活動の開始時間を告げる音だ。
「やばっ、あたしこれから練習あるからもう行かなきゃ!ごめんシトラス!また明日の合同訓練でね!!」
「あ、うん!また明日!」
慌ただしく教室を出ていくキルシェの背中に声をかけると、振り返って笑顔で手を振り返してくれた。そのまま走り去ったキルシェを見送って、シトラスは小さく溜め息を漏らす。
「……やっぱり私、魔法下手なのかも」
「そんなことないポメ!!シトラスだってちゃんと変身したら魔法使えるポメ!初めて変身した時もちゃんと、魔獣を倒せたポメ!!」
「それは変身したからだよ……変身してる時は、自分が何をすればいいのか、どんな魔法を使うべきか、何となくわかるの。
でも─みんなみたいに変身していない時でもちゃんと使えるようにならないと、本当に理解したことにはならないと思う」
シトラスはカバンを肩にかけて、立ち上がった。その表情には微かに焦りの色がにじんでいる。
「ポメポメ、今日も付き合ってくれる?」
「ポメ!師匠とロゼはいないけど、今日はポメポメが代わりにシトラスの先生になるポメ!」
お願いね、とシトラスはカバンから顔を出すポメポメの頭を指で撫でて教室を出た。
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