魔法少女は訳アリ敵幹部に溺愛されている!

御鈴

文字の大きさ
上 下
23 / 73
第2話 アクアリウム・パニック

生徒会室の密談

しおりを挟む

─聖フローラ学園高等部、生徒会室。

その一角にある書斎机に、ひとりの女生徒が腰を下ろしていた。
毛先のカールした紫色の長い髪をハーフアップにした少女は育ちの良さや品性がそのまま外見に表れたかのようで、その所作一つ一つにも気品を感じさせる。

というのも、少女はこの聖フローラ学園高等部の生徒会長を務めると同時に、この学園の理事長の娘でもあるのだ。少女が裕福な育ちであることは傍目から見ても明白であったが、それを裏付けるように彼女の側には黒い燕尾服に身を包んだ執事の男性が佇んでいた。

銀色の髪に整った顔立ちの執事は少女やこの学園に通う生徒と然程歳が離れているようには見えないが、実際には少女がこの学園の初等部に通っていた頃から執事として仕えており、とうに成人しているようだ。

特段会話が無い室内に気まずさのようなものはなく、むしろ調和した穏やかな空気が流れている。それが暗に彼らが単なる主従以上の絆を築き上げていることを物語っていた。

ティーカップをソーサーの上に戻し、少女は改めて机上に並べられた資料に目を通す。それらは皆、ここ数日でラコルト市内周辺で起こった魔獣騒ぎに関する新聞のスクラップや、ネットニュースをコピーしたものだった。

「……昼間の校外学習の件はどうなったのかしら?」

鈴を転がすような透き通った声でそう問う少女に対し、傍らに控えていた執事は淡々と報告を始めた。

「はい。本日、高等部の二年生が校外学習に向かったマリン・ユートピアで魔獣の出現が確認されました。幸い犠牲者は出なかったものの、一部の生徒が軽い怪我や体調不良を訴えているようです」

「被害に遭った皆さまへのフォローは?」

「滞りなく。既に校外学習は中止。体調不良を訴えた生徒は最寄りの病院で検査を受けており、無事だった生徒につきましては現在送迎バスにて帰還中です」

少女は安堵のため息を漏らす。

「そう、ともあれ最悪の事態に至らなくてよかったわ……魔獣が消えてエナジーの吸収が収まった後、すぐに回復する人もいるけれど、そうではない人もいる。こちらで出来る限りのアフターケアをしていきましょう」

「はっ、」

執事が頭を下げる。



「ただ、気になる点がひとつ」

執事はそう言うと、燕尾服の胸ポケットから二枚の写真を取り出す。そこに写っていたのは─この学園の制服に身を包んだ女子生徒二人だった。

「この制服……、」

「ラコルト市内で起きた魔獣騒ぎはこれで5件目。うちのひとつは貴女が人知れず解決しましたが─今回の校外学習も含めた残りの4件は、貴女が推測されていた通り新たに目覚めた魔法少女が関与していた可能性が高いでしょう」

つまり、この写真に写る二人が新しい魔法少女であるということだろうか。執事の言葉を聞きながら、少女は写真をまじまじと見つめる。

「驚いたわ、まさかこの学園の生徒だったなんて……お名前はわかるかしら?」

「はい。一人はシトラス・ルーシェ、もう一人はキルシェ・シュトロイゼル。
両者とも高等部の二年に在籍しています。シトラス・ルーシェは数週間前の駅前の事件で、キルシェ・シュトロイゼルに至っては今回の校外学習中に覚醒したようです」

少女はしばらく写真を眺めた後、それをそっと机の上に置いて息を吐いた。


「新しい仲間と考えると心強いけれど、まだ目覚めてから日が浅すぎるわね……」

「仰る通りです。御存じの通り、魔獣との戦いは多くの危険を伴います。

だからこそ、彼女たちが正しい道を歩めるよう導く存在が必要かと」




少女は執事の言葉に頷き、デスクから立ち上がる。




「そうね、先輩としてしっかりサポートしてあげなきゃ」



そう言って少女は窓際に立ち、外の景色を眺める。
窓から差し込む日差しに目を細めながら、少女は新たな仲間との出会いに思いを馳せた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...