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第2話 アクアリウム・パニック
生徒会室の密談
しおりを挟む─聖フローラ学園高等部、生徒会室。
その一角にある書斎机に、ひとりの女生徒が腰を下ろしていた。
毛先のカールした紫色の長い髪をハーフアップにした少女は育ちの良さや品性がそのまま外見に表れたかのようで、その所作一つ一つにも気品を感じさせる。
というのも、少女はこの聖フローラ学園高等部の生徒会長を務めると同時に、この学園の理事長の娘でもあるのだ。少女が裕福な育ちであることは傍目から見ても明白であったが、それを裏付けるように彼女の側には黒い燕尾服に身を包んだ執事の男性が佇んでいた。
銀色の髪に整った顔立ちの執事は少女やこの学園に通う生徒と然程歳が離れているようには見えないが、実際には少女がこの学園の初等部に通っていた頃から執事として仕えており、とうに成人しているようだ。
特段会話が無い室内に気まずさのようなものはなく、むしろ調和した穏やかな空気が流れている。それが暗に彼らが単なる主従以上の絆を築き上げていることを物語っていた。
ティーカップをソーサーの上に戻し、少女は改めて机上に並べられた資料に目を通す。それらは皆、ここ数日でラコルト市内周辺で起こった魔獣騒ぎに関する新聞のスクラップや、ネットニュースをコピーしたものだった。
「……昼間の校外学習の件はどうなったのかしら?」
鈴を転がすような透き通った声でそう問う少女に対し、傍らに控えていた執事は淡々と報告を始めた。
「はい。本日、高等部の二年生が校外学習に向かったマリン・ユートピアで魔獣の出現が確認されました。幸い犠牲者は出なかったものの、一部の生徒が軽い怪我や体調不良を訴えているようです」
「被害に遭った皆さまへのフォローは?」
「滞りなく。既に校外学習は中止。体調不良を訴えた生徒は最寄りの病院で検査を受けており、無事だった生徒につきましては現在送迎バスにて帰還中です」
少女は安堵のため息を漏らす。
「そう、ともあれ最悪の事態に至らなくてよかったわ……魔獣が消えてエナジーの吸収が収まった後、すぐに回復する人もいるけれど、そうではない人もいる。こちらで出来る限りのアフターケアをしていきましょう」
「はっ、」
執事が頭を下げる。
「ただ、気になる点がひとつ」
執事はそう言うと、燕尾服の胸ポケットから二枚の写真を取り出す。そこに写っていたのは─この学園の制服に身を包んだ女子生徒二人だった。
「この制服……、」
「ラコルト市内で起きた魔獣騒ぎはこれで5件目。うちのひとつは貴女が人知れず解決しましたが─今回の校外学習も含めた残りの4件は、貴女が推測されていた通り新たに目覚めた魔法少女が関与していた可能性が高いでしょう」
つまり、この写真に写る二人が新しい魔法少女であるということだろうか。執事の言葉を聞きながら、少女は写真をまじまじと見つめる。
「驚いたわ、まさかこの学園の生徒だったなんて……お名前はわかるかしら?」
「はい。一人はシトラス・ルーシェ、もう一人はキルシェ・シュトロイゼル。
両者とも高等部の二年に在籍しています。シトラス・ルーシェは数週間前の駅前の事件で、キルシェ・シュトロイゼルに至っては今回の校外学習中に覚醒したようです」
少女はしばらく写真を眺めた後、それをそっと机の上に置いて息を吐いた。
「新しい仲間と考えると心強いけれど、まだ目覚めてから日が浅すぎるわね……」
「仰る通りです。御存じの通り、魔獣との戦いは多くの危険を伴います。
だからこそ、彼女たちが正しい道を歩めるよう導く存在が必要かと」
少女は執事の言葉に頷き、デスクから立ち上がる。
「そうね、先輩としてしっかりサポートしてあげなきゃ」
そう言って少女は窓際に立ち、外の景色を眺める。
窓から差し込む日差しに目を細めながら、少女は新たな仲間との出会いに思いを馳せた。
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