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第2話 アクアリウム・パニック
再び、バスに揺られて
しおりを挟む「なるほどね……つまり、ポメポメはテンカイってところから来た女神サマのシシャ……?で、あのでっかい化け物みたいなのは魔獣っていって人間からエナジーっていうのを吸い取っちゃうんだ。だからみんな、倒れたり具合悪くなっちゃってたんだね」
「そういうことポメ!キルシェは飲み込みが早いポメ!」
「いやぁ~それほどでもぉ~」
どこかの天才的な5歳児のような照れ方をするキルシェだが、その表情は満更でもなかった。
学園へと向かうバスの車内。大半の生徒たちが騒動による疲労で眠りについている中、シトラスとキルシェ、そしてポメポメは後ろの方の座席に二人と一匹─戦闘が終わると同時に、ポメポメは再び猫の姿に戻ってシトラスのリュックに身を潜めたのだった─で座っていた。
一連の事態はシトラス達魔法少女の活躍によって収束したものの、水族館は安全面や魚たちの保護の問題から急遽閉館となり、しばらくは営業を見合わせることになったらしい。
当然ながら校外学習も中止という形となり、生徒たちは帰宅を余儀なくされたのであった。
バスが静かに走る中、シトラスは小さく息を吐きながら表情で窓の外を見つめた。夕日に照らされた街並みの景色が、先ほどまでの出来事と共に遠ざかっていくように感じる。
強力な魔獣の出現。
赤い髪の男性との再会。
そして─親友の覚醒。
「シトラスはいつから魔法少女になったの?」
ぼんやりとしていたところ、急に話しかけられてシトラスは肩を跳ねさせる。
「え、えっと……あの駅前の時にポメポメが助けに来てくれて……その時に初めて変身したから、魔獣ともまだちょっとしか戦ったことないし……」
……やられそうになったこともあるし。
シトラスはそう言って一瞬目を伏せる。まだほんの数回しか魔獣と戦っていないが、今回の魔獣は明らかに手強かった。正直、キルシェの助太刀が無かったら負けていたかもしれないとさえ思う。
(本当に私なんかで大丈夫なのかな……いつも誰かに助けてもらってばかり)
特別な力を持っているからこそ、自分が人々を守らなくてはならないはずなのに。シトラスは自分の無力さに再び溜め息を吐きそうになるが、
「んもぅ!そんな顔しないの!」
「ふぎっ!?」
それは、キルシェに両頬をむにゅっと抓られたことによって阻まれた。
「言ったでしょ?キルシェちゃんに任せなさいって!今までシトラスとポメポメだけで大変だったかもしれないけど、これからは三人いるんだから!三人寄れば卍(まんじ)の知恵っていうじゃん!」
「それを言うなら文殊の知恵ポメ……」
ポメポメは呆れたように目を細めて呟くが、キルシェは全く気にした素振りもなく屈託のない笑顔を浮かべる。その言葉と笑顔に、シトラスも少し心が軽くなった気がした。
「ありがとう、キルシェ」
「んふふー♪どういたしまして!ほらほら、元気出してこ!えいっ、えいっ、おーっ!!」
そう言ってキルシェはシトラスの肩をぽんぽんと叩く。
これからの戦いは決して一人ではない、と。友達がいる、仲間がいる。
その事実が心を温かくし、未来への不安を少しだけ和らげてくれた。
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