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缶コーヒー
何も変わらない
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初めてこの部屋に来た時、水道は繋がっていたが、電気、ガスは翌日繋げてもらうことになり、暗い部屋の中、一人冷たい床へ、芋虫のように、寝袋へ蹲(うずくま)った。
寝袋があっても、フローリングのあまりの冷たさで熟睡できず、体全体が震えながらでも、ホームレスの人や、昆虫の蛹(さなぎ)の気持ち、アウトドアが好きな人、のことを考えていた。
『し、死ぬかと思ったよ。』
変な顔文字で、大丈夫?って、本当に心配してるのかよ。と、あいとのメール。
家具や家電は一通り揃い、同じアパートの人たちに挨拶回りをした時、偶然だったのか、同時期に引っ越す予定者がいて、生活品一式を貰ったりもした。
心から喜んだ炬燵(こたつ)や、僕もよく唄うフレーズの『きしむベッド』を恥ずかしそうにくれたこと。
そんな、小さなことまで、メールや電話であいに伝えていた。
「もしもし。」
自分から、あいに電話を掛けてしまう日々が続いて、何とも言えない感情を抱えていた。
「会いに来てよ。」
「ゆうくんが来てよ。」
僕は、まだ、少し歩けば、あいに会えるような気がして、会えないことや、ちょっとしたことで、寂しくなって、あいに八つ当たりしてしまっていた。
『もう、いいよ。』
どれだけ勝手で、どれだけ彼女に甘えていたか。
分かっているけれど、好きすぎる愛情を上手く伝える術(すべ)を、僕は持っていなかった。
『じゃ、あいは、どうしたらいいの?』
本当に、まだ、すぐに会えると思っていたんだ。
『別れよう。』
少し時間が経ってから、
『…嫌。』
そう言われることで、まだ、好きでいてもらえている。と、実感してしまう僕の安堵感の後、
『…だけど、ゆうくんがそうしたいなら、分かったよ。』
「………え。」
一瞬にして、僕は言葉を失った。
その時、改めて分かったんだ。
沢山、辛い思いさせていたことと、自分がおかしくなるくらいに、あいが好きだってこと。
凄く後悔したんだ。
『ごめん。』
自分から言い出したことに引っ込みもつかず、それだけしか言えなかった。
僕は、手が震えていた。
仕事もなかなか決まらず、ただ、ダラダラ過ごしていたから、
『バイト、決まったらメールする。』
とか、
『あいに甘えてしまうから、仕事決まるまで、電話しない。』
とか。
どうして、いつも上手く言えないんだろう。
君から、電話が欲しい。いつも、ありがとね。離れていても、あいのことばかりだよ。とか。
きっと、運命だったのかな。
携帯を持ったまま、トイレへ向かった時だった。
「あっ。」
震えていた手が、震えてきた携帯を開こうとした時、映画のワンシーンの様に、それがスローモーションになって、目で追う事しかできなかった。
「ま…マジかよ。」
防水機能なんて、まだ無かった現実に、ポチャン。と音を発てて、手を伸ばした一つの電話機が、息を引き取った。
「…………。」
本当に、歩けばすぐあいに会える。と思っていた。
それくらい、頭の中があいで、いっぱいだった。
離れても、どんなことがあっても、あいと一緒の未来しか考えていなかった。
ただ、気付いたよ。
喧嘩したり、あいを傷付けたりした時、僕らはすぐに会える距離にいたことを。
目を見て話せて、ごめんなさい。と言えて、お互い触れ合えたことを。
距離のせいにしたくないけれど、今、喧嘩のフォローも何もできない。
しょぼい電話機も無くなれば、言い訳すらもできない。
「嘘だろ…。」
水浸しになった携帯を拾い上げ、それだけしか言葉にできなくて、頭の中が真っ白になって、トイレの前に座り込んだまま、僕は動けなかった。
災難とは、たたみこむんだな。と笑いにも似た悲しさ。
今までと、結局、何も変わらない自分が、そこにいた。
十代最後の、春前のこと。
寝袋があっても、フローリングのあまりの冷たさで熟睡できず、体全体が震えながらでも、ホームレスの人や、昆虫の蛹(さなぎ)の気持ち、アウトドアが好きな人、のことを考えていた。
『し、死ぬかと思ったよ。』
変な顔文字で、大丈夫?って、本当に心配してるのかよ。と、あいとのメール。
家具や家電は一通り揃い、同じアパートの人たちに挨拶回りをした時、偶然だったのか、同時期に引っ越す予定者がいて、生活品一式を貰ったりもした。
心から喜んだ炬燵(こたつ)や、僕もよく唄うフレーズの『きしむベッド』を恥ずかしそうにくれたこと。
そんな、小さなことまで、メールや電話であいに伝えていた。
「もしもし。」
自分から、あいに電話を掛けてしまう日々が続いて、何とも言えない感情を抱えていた。
「会いに来てよ。」
「ゆうくんが来てよ。」
僕は、まだ、少し歩けば、あいに会えるような気がして、会えないことや、ちょっとしたことで、寂しくなって、あいに八つ当たりしてしまっていた。
『もう、いいよ。』
どれだけ勝手で、どれだけ彼女に甘えていたか。
分かっているけれど、好きすぎる愛情を上手く伝える術(すべ)を、僕は持っていなかった。
『じゃ、あいは、どうしたらいいの?』
本当に、まだ、すぐに会えると思っていたんだ。
『別れよう。』
少し時間が経ってから、
『…嫌。』
そう言われることで、まだ、好きでいてもらえている。と、実感してしまう僕の安堵感の後、
『…だけど、ゆうくんがそうしたいなら、分かったよ。』
「………え。」
一瞬にして、僕は言葉を失った。
その時、改めて分かったんだ。
沢山、辛い思いさせていたことと、自分がおかしくなるくらいに、あいが好きだってこと。
凄く後悔したんだ。
『ごめん。』
自分から言い出したことに引っ込みもつかず、それだけしか言えなかった。
僕は、手が震えていた。
仕事もなかなか決まらず、ただ、ダラダラ過ごしていたから、
『バイト、決まったらメールする。』
とか、
『あいに甘えてしまうから、仕事決まるまで、電話しない。』
とか。
どうして、いつも上手く言えないんだろう。
君から、電話が欲しい。いつも、ありがとね。離れていても、あいのことばかりだよ。とか。
きっと、運命だったのかな。
携帯を持ったまま、トイレへ向かった時だった。
「あっ。」
震えていた手が、震えてきた携帯を開こうとした時、映画のワンシーンの様に、それがスローモーションになって、目で追う事しかできなかった。
「ま…マジかよ。」
防水機能なんて、まだ無かった現実に、ポチャン。と音を発てて、手を伸ばした一つの電話機が、息を引き取った。
「…………。」
本当に、歩けばすぐあいに会える。と思っていた。
それくらい、頭の中があいで、いっぱいだった。
離れても、どんなことがあっても、あいと一緒の未来しか考えていなかった。
ただ、気付いたよ。
喧嘩したり、あいを傷付けたりした時、僕らはすぐに会える距離にいたことを。
目を見て話せて、ごめんなさい。と言えて、お互い触れ合えたことを。
距離のせいにしたくないけれど、今、喧嘩のフォローも何もできない。
しょぼい電話機も無くなれば、言い訳すらもできない。
「嘘だろ…。」
水浸しになった携帯を拾い上げ、それだけしか言葉にできなくて、頭の中が真っ白になって、トイレの前に座り込んだまま、僕は動けなかった。
災難とは、たたみこむんだな。と笑いにも似た悲しさ。
今までと、結局、何も変わらない自分が、そこにいた。
十代最後の、春前のこと。
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