ラブレター

缶コーヒー

デート

ここを離れる。と、決めてから、必要以上に、お金を貯めていた。

だから、バイトが休み。なんて、珍しく、久々にあいと、古いデパートへデート。

｢携帯、古くない？変えなよ？｣

たまのデートの時は、あいの手を引き、ゆっくり歩幅を合わせて歩いていた。

｢変えたいんだけどね。｣

｢買ってあげようか？｣

特に、何かの記念日。と言う訳でも無いけれど、近い未来(さき)のことを考え、忙しくて、何もできないだろうな。と思っていたから。

｢あっ、財布とかもいいね。見ようよ？｣

あいに、何かをしてあげたい。と思った時、いつも、あいが喜ぶ顔が、僕の頭の中を先走る。

ゆっくり合わせていた歩幅と、商品棚の方へ向かう気持ちに、少しのバラつき。

｢これ、可愛くない？｣

ねっ!!みたいな、二人でいる時間が大好きだった。

｢あい、買ってよ。｣

無理!!とか、そんな、くだらない冗談を言われつつ、いろんな物を見て回っていた。

｢ねー。この中で、あいは、どれが好き？｣
 
自分の中で気に入った物を、あいが、これ!!と、言ってくれたら、やっぱり、気が合うんだな。なんて、一人で満足して楽しむ考えは、子供みたい。と、ぎゅっ。と握り締める手が、笑っている。

｢買ってあげる!!｣

｢いやいや、言っただけだから。｣

少し、値を張る物だと、彼女が引いていた。

一通り、いろんな物を見た後に、食事をしたり、ドライブする時間が、ザラザラ混じりのラジオと共に、すぐに過ぎていく。

｢明日も会おう？｣

いいよ。と、小さく笑う彼女が、可愛かった。

｢大好き。｣

次の日も、変わったことをすることもなく、昨日と同じ所を、二人してグルグル回っていた。

｢あっ、見て見て!!｣

僕が引いていた手を離し、そのガラスケースの前へ、小走りに向かった。

｢改装するから、昨日より、安くなってるみたいだよ!!｣

ホントだね。と、笑うあいに、

｢買ってあげる。どれが好き？｣

と、絶対、笑顔だった僕が、そこにいた。

ネックレスが綺麗に輝いていた、ガラスケースに、僕の指紋をいっぱい付けて。

｢え？安くなったって、言っても…｣
｢じゃ、この三つの中で、どれが好き？ごちゃごちゃ考えないで？｣

俺、真ん中の!!と、いつもと同じように、心で叫んでた。

｢全部、可愛いけど…。｣ 
 
｢えー。一番右のは、無くない？｣

ほら、二択になったよ!!俺は、右のやつ!!と、どっち？と、指さしていた人差し指を、少し、右側に添えていた。

｢えー。んー。｣

優柔不断なの知っているから、ゆっくり選んでいいよ。と、頭を撫でていた。

｢ひだ｣
｢いらっしゃいませ。｣

僕が嫌い(選ぶ最中、邪魔をする)な店員が、営業スマイルで、目の前に立つ。

｢良かったら、付けてみますか？｣

そう言って、そっと、ガラスケースから引き抜かれた、ネックレス達。

｢おう、付けてみな？｣

｢手に取ってもらって、いいですよ。｣

一つの幸せな時間を奪われた気がしたが、気分が良かったせいか、女の店員と同じように、僕も笑ってた。

とりあえず、左から順番に巻かれる、あいの細くて、白い首に。

｢シンプルでいいじゃん。｣
｢あっ、似合う、似合う!!｣
｢それも、ありかな？｣

真ん中のやつ以外に目が行かなかったから、言葉からして、真ん中にしなよ。的な、アピール。

｢どれがいい？お前が気に入らなきゃ、意味ないからね。｣

僕のフィーリングだけで、決めるわけにもいかないことくらいは、分かってる。

｢こ、これかな？｣

目の前のガラスケースの上に飾られた品を、僕と店員は同時に目を向けた。
 
あいが指したのは、一番初めに付けた一番左の物だった。

｢こちら｣
｢俺は、こっち。｣

僕は、我が儘だから。

｢ね？店員さん、こっちが可愛くない？｣

｢そうですね、こちらも…。｣

へへーん。二対一。と思ったことは、言わないでおこう。

｢シンプルな方は、スーツなどに合う感じですが、彼女さん、可愛いらしいので、どちらかと言えば、こちらがお似合いかもしれないですね。こちらなら、どんな服装にも、似合いますし。｣

価格的にも、あいが気を使ったのかもしれない。と思ったから。

｢これは、嫌？｣

また、気に入らない物を貰った。と思って、無くしてほしくなかったから、不安混じりに、あいの目を見つめた。

｢これも、可愛いと思ってたけど…。｣
｢じゃ、これで。｣

ありがとうございます。と言われ、

｢プレゼントですか？｣

｢はい。｣

｢何かの記念日ですか？｣

｢いいえ、良い機会だったので。｣

そんな会話の後に、ニッコリ、笑ってくれた店員が、綺麗に包装し始めた。

｢いいの？｣

｢もう包んでるし、いいのもクソもねーよ。｣