溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

文字の大きさ
上 下
58 / 59
3

大きな手

しおりを挟む
暫く凌ちゃんに甘やかされてからソファに座らされ、ダイニングから運ばれた暖かいココアをちびちび飲み始めた。

「ちょっとは落ち着いた?」
「うん、ごめんね」
「俺も智も外部生やから、同級の奴らの事なんてわからんもんなー、俺も周りの奴らに手塚君の事聞いてみたけど、そんな悪い噂聞かへんかったで。逆にそれが怖いってゆーか。」
「翼君も”晴翔に聞いて”しか言わないから晴と手塚君には何かあるんだとは思うんだけど。部屋に1人でいると色々考えちゃって…凌ちゃんとこまで来ちゃった」

ソファの上でクッションを抱き抱え顎を乗せながら呟いた。
「いつでも来てええよ、下心ありありで悪いけど」
顔を近付けてニコッと笑う。
ちょっとおちゃらけて言われると少し気持ちが軽くなるんだよね、凌ちゃんらしい。
「またそんな事言って」
「智はそろそろ俺の価値をわかった方がええで、お買い得やのになんでわからんかな~」
「凌ちゃんは大事だよ、僕の心の拠り所と言っても過言じゃない!」
「おっ、智も言うようになったやん、まぁ何にせよ彼の事は用心しといた方がええやろうなぁ」
腕を組んで考えるように凌ちゃんはソファに背を預けた。
「せやけど晴翔様はモテモテやなぁ、取り巻きもそうやけど、周りがほっとかへんもんな、あんなイケメン」
「なに言ってるの、凌ちゃんだってイケメンじゃん、中学の時もめちゃくちゃモテてたの僕知ってるよ?」
「ちゃうちゃう、レベルが!田沼さんなんか晴翔様の世話係がしたい、っていつも言ってるしな~」
何言ってんだか、凌ちゃんだって晴の次席なのに。

「雨、酷くなってきたね…」
「やなぁ」

手で弄んでいたスマホを眺めて
「メールの返信くらいしてくれても良いのになぁ」
連絡が来るかもとずっと握っているスマホは未だ鳴りもしない。
晴に勝手に代えられた最新機種のスマホは使い方も全くわからないし、連絡する人も限られているからスペックが上がっても僕には手持ち無沙汰になっている。

「そんな鳴らへん携帯なんかその辺置いとき、お腹すかへん?なんかご飯頼もうか?」
「ねぇ、了解ちゃん下のカフェ行かない?気分転換に」
「おっ、ええな、行こう行こう!」

エレベーターに乗り一階に降りるとカフェの辺りに人だかりが出来ていた。

「なんやなんや?なんであんなとこに人集まってんねん」
「ねー、何かあったのかな??」

背が低い僕には人の頭しか見えなくて、凌ちゃんの肩に手を置いて飛び上がったけど、向こう側の様子は全くわからない。
横にいる凌ちゃんに声をかけたのに少し怖い顔をした後、僕の手を引きエレベーターに引き返そうとした。

「え?どうしたの?」
「やっぱ部屋で食べよ」

そう言うと急に人だかりが両側に寄って人が通れる程の道ができた。

なに?

振り返ると晴がいた。

なんで?

その腕には人を横抱きにしている。

誰なの?

「見るな、お前は見たらあかん!」

片手で両眼を隠された、だけど晴が誰を抱きかかえていたかははっきりと見えた。

いやだ…

周りの生徒達は”お似合いだね”とか”素敵”なんて囁き合っている。

なんだよ、なんなの?

どうして手塚君と一緒にいるの?

晴が彼に声を掛けると手塚君は微笑んで晴の頬に手を添えている。

なんで…
手塚君は晴を見て笑ってるの?

ヤダ、いやだよ…


凌に眼を隠された手を思わず両手で握りしめ震える声で

「凌ちゃんの部屋に戻りたい」
そう言った。

僕はここに居るよ?

なんで気付かないの?

こっちを見てよ…


心がズキズキする。

握られた手は暖かい。
鼻の奥がツンとなって引っ張られた手を握り返した。

スマホは今だに鳴らないままポケットの奥に入っていた。
来ない返信を待ちながら、そっとポケットに手を入れてその存在を確かめるように握りしめた。

やっぱり僕にはいらない”モノ”だったのかな…

いらないモノの存在に自分を置き換えて、落胆する。

五階専用のエレベーターはスケルトン仕様。
2人の姿がはっきりと見え、クルッと向きを変え凌ちゃんの背におでこをくっつけた。

自然に出た僕のため息は狭いエレベーターの中に響き渡った…





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番を失くしたアルファと添い遂げる方法

takumi sai
BL
亡き姉の婚約者と同居することになった千歳祐樹。彼女を失ってから2年、祐樹は姉の元婚約者である外科医・立花一狼に対して抱いた禁断の感情を封印すべく、オーストラリアへ留学していた。 「俺は彼女だけを愛し続ける」—そう誓った一狼は、今も指輪を外さない。孤高のアルファとして医師の道を歩む彼の家に、一時的に居候することになった祐樹は、罪悪感と憧れの間で揺れ動く。 「姉さんじゃない…僕は僕だ…」 「俺たちも似ているのかもな。葵の影に囚われて、前に進めない」 未亡人医師×自責系学生 オメガバース。 二人の葛藤と成長を描いた、切なくも温かい愛の物語。番を亡くした医師と、彼の元婚約者の弟の、禁断の恋の行方とは

番に囲われ逃げられない

ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。 結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

処理中です...