溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

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静寂と雨音

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あれから手塚君とは距離をとりながら授業が終わり僕は凌ちゃんと下校した。

寮に着いてもまだ晴は帰っておらず、部屋着に着替えて宿題を済ませ、膝を抱えソファの上で晴が帰るのを待っていたが、何となく1人で居るのが寂しくて、凌ちゃんの部屋を訪れた。

ドアを開け出てきた凌ちゃんはまだ着替えてなくて、僕を見て少し驚いていた。
「晴翔様は?帰ってないん?」
そう言われて僕は頷き、凌太ちゃんはため息をついて部屋に通してくれた。

初めて中に入ったけど、僕達の部屋はやっぱり”特別”なんだな、と思った。
凌ちゃんの部屋もそれなりに広かったけど、僕達の部屋は別格、手塚君の言う”特別扱い”がなんなのかがようわくわかった気がした。

「ちょっと待っててな、俺も着替えてくるわ」

凌ちゃんは僕を招き入れた後、隣の寝室に向かった。
ドアから真っ正面の窓に近付く。
ポツポツとベランダのコンクリートに雨粒が落ちて影を作っては消えていく。
段々と雨足が強くなって窓に雨と風が激しく打ちつけてきた。
教室でのあの感じ、雰囲気悪かったよね…僕の本意じゃない状況で周りに何かを言われるだろう事、本当はわかってた。
だけど、それは想像以上に辛いことだったんだと今更ながら思ったり。
曇った窓ガラスに額をつけて考えた。
慶明の殆どが幼稚舎からエスカレーター式で上がった人達ばかりで、僕みたいな一般人、普通の家庭の子はどこにもいない。
いわゆる裕福な家庭の子供達ばかりで、そこに産まれてくるのはアルファやオメガ。
ベータの僕は彼らとは違う。
そこに彼らにとって羨望を向ける晴が僕に構っているこの現状は妬ましく感じるんだと思う。

「智、大丈夫か?」

振り返ると凌ちゃんがまた困った顔をして近付いてきた。
僕の頭に手を置いて覗き込む。

「最近の智は不安な顔ばっかしてるやん」

不安…そう、このまま身の丈に合わないこの学校に通うのは不安で仕方ない。
晴はこうなる事たぶん分かってたんだろうな、だから”俺の我儘を許してくれ”なんて言ってたんだと思う。
顔を上げ凌ちゃんを見る。
最近、晴より凌ちゃんの方が一緒にいてくれる。
出会った時から凌ちゃんは僕に優しく親身になってくれるから頼りになるんだ。
今は晴よりも…

「ぎゅってしたろか?」

優しく微笑んで凌ちゃんは両手を広げた。

「おいで」

身体が自然に凌ちゃんに引き寄せられる、ダメだ、僕相当弱ってる…
そのまま彼の胸に飛び込んで抱きしめると、凌ちゃんは優しく僕の髪を撫でて抱きしめ返してくれた。

「こんな時ばっかごめんね、僕凌ちゃん利用してるよね、最悪…」
「なに言うてんの?むしろ利用されたいからええねん、って。マーキングもしときたいけど、それは我慢しとくわ。誰かさんめっちゃ怖いしな!」

静かな部屋に雨音だけが響いていた。
凌ちゃんはいつも僕の欲しい”優しい”をくれる。

「凌ちゃんは学校楽しい?」
「教室に智がいてないのは寂しいかな、毎日会えるのは嬉しいけど」

言葉に詰まって声が出ない、なんで欲しい”言葉”までくれるんだろう。

「なんで凌ちゃんはそんなに”優しい”の?僕は何も返せないのに…」

少しの沈黙があった後、顔を上げた凌ちゃんは僕の顔にかかった髪を耳に掛け囁くように呟いた。

「側にいたいだけやから」

ダメだ、凌太ちゃんの優しさが晴に相手にされない胸の寂しさを埋めてくれてる。
嫌だな、これじゃあ本当に凌ちゃんを利用しているみたいだな…自分の浅ましさが嫌になる。

「ありがとう、凌ちゃん。大好き…」
「俺はもっと好きやで!」

今日だけは甘えたい。
ごめんね、我儘で…

心の中で呟いて頭を凌ちゃんに胸に押し付けた。

「あー、俺やったらこんなに悩ませへんのになー、悔しいわ」

そう言うと、もう一度僕をギュッと抱きしめる。

凌ちゃんの優しさと温もりが僕を包み込むと、静寂と雨音だけが部屋の中に響き渡った。





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