溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

文字の大きさ
上 下
48 / 59
3

普通のβな僕の普通の恋愛感覚

しおりを挟む
あれから何となく晴と気まずくて、メールのやり取りはするものの晴は晴で神戸関係の事情で忙しくしていたので、高校の入学式直前まで会うことはなかった。

メールでなら普通に話しできるのになぁ。
会うとなると胸がぐるぐるしてなんとなく足が向かなくなってしまう。

凌ちゃんは鬼の扱きに耐え、何とか高校を優秀な成績で入学を果たしたみたい。

もう、終始機嫌良く
”また会おうな”
と言って大阪に帰って行った。

4月1日の朝、入寮の為晴が車で迎えに来た。
荷物などはすでに配送済み。
久しぶりに会った晴はなんだか身長も伸び、大人っぽくなっていた。
あれから2度、婚約者のヒートに付き合っているはずで、僕には見えない大人の階段、みたいなものを登っているのだろう、そう思った。
その事を考えるたび胸がチクチクするけど…

車から降りてきた晴は、玄関でじいちゃんとばあちゃんに挨拶をし、深々と頭を下げた。
「必ず守ります」と言って。

学校までの道のりはあまり会話もなく、終始タブレットで何かをしている晴を横目に、窓の外を覗きながら時間を潰した。

昼過ぎに学校に到着した時、いつの間にか寝ていた僕は、晴に起こされる事もなく、気付いたら寮の部屋のベットで目が覚めた。

「あれ?僕…」

起き上がると、晴はベットの枕を背に座って本を読んでいた。
本を閉じ僕を見た晴は、ボサボサになった僕の髪を撫で、その手をそのまま頬まで下ろした。

「よく寝ていたよ、疲れが溜まったんじゃないか?」
「ここまで晴が運んでくれたの?重くなかった?」
そっと手を添えて晴を見る。

「大丈夫だ、智、やっと俺を見てくれた。」

何も言えず視線を逸らし下を向いた。

「…晴、僕…」
「智、智が好きだ。お前だけが好きだ。」
「………」

「嘘はつきたくない、どんなことも。智が辛くても嘘はつかない、それが智にできる俺からの精一杯の誠意なんだ」
僕の頬を両手で上にあげ、言い聞かせるように僕をみる。

「好きだ、好きなんだ。」
「僕も晴が好きだよ、でも好きな人が誰かといるなんて耐えられないんだ…嫌なんだ!!嫌でいやで気が変になりそう…」
布団を握りしめた。

手の上に流れ落ちる涙か止まらず布団にシミを作っていく。
「知り合った時からお前だけなんだ、俺のここを埋められるのは」
そう言って胸に手を当てた。
「わかってくれとは言わない、けど信じて欲しい、お前だけが大切なんだ…」
あれ以来まともに話しもしていなかった、僕が話したくなくて逃げたんだ。
僕以外の人と会って寝ている事実なんて知りたくもない。
晴と一緒にいると言うことはその事実を容認しなきゃいけないだよ、そんなの辛すぎるでしょ、僕は何にも悪くないのに…
「自分勝手な事言わないでよ、僕はどうなるの?この先もずっと正式に横にいるのは彼で、僕は影に徹しなきゃいけないんでしょ?晴が好きだよ、でも無理だよ、ぼくはただのベータで、ただ普通に幸せになりたいだけなんだ。普通に恋愛して、普通にデートして、普通に一緒にいたい。それだけなんだ…」

「少しの枷を背負って俺と生きてくれ、お願いだ」

その言葉に胸を動かされる。
何度悩んでも同じなんだよ、結局晴の思い通りになっちゃう。
僕が晴を好きすぎるからだめなんだよね、きっと。

「…背負えるかどうかはわかんない、けど、今はまだ少しだけ我慢する。」

ゆっくり顔が近付いて晴が僕のおでこに軽いキスをした。
親指で涙を拭いまたそこにキスをする。

「悲しませてばかりでごめんな、手放せなくてごめん」
そう言って強く…強く抱きしめて来た。
ずるいよ、そーゆーとこなんだよ、僕がダメになっちゃうのは…

「腹減ってない?」

本当にずるいよ、優しくして…

「いちご、いちごのショートケーキが食べたい」
「エフロのじゃないけどいい?」
「うん」


入寮1日目、泣いて喚いてショートケーキを食べて、晴に抱きしめられて眠りについた。

明日はいい事あるといいな…辛くて悲しいのはもういらないや…







しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

フェロモンで誘いたいかった

やなぎ怜
BL
学校でしつこい嫌がらせをしてきていたαに追われ、階段から落ちたΩの臣(おみ)。その一件で嫌がらせは明るみに出たし、学校は夏休みに入ったので好奇の目でも見られない。しかし臣の家で昔から同居しているひとつ下のαである大河(たいが)は、気づかなかったことに責任を感じている様子。利き手を骨折してしまった臣の世話を健気に焼く大河を見て、臣はもどかしく思う。互いに親愛以上の感情を抱いている感触はあるが、その関係は停滞している。いっそ発情期がきてしまえば、このもどかしい関係も変わるのだろうか――? そう思う臣だったが……。 ※オメガバース。未成年同士の性的表現あり。

番を失くしたアルファと添い遂げる方法

takumi sai
BL
亡き姉の婚約者と同居することになった千歳祐樹。彼女を失ってから2年、祐樹は姉の元婚約者である外科医・立花一狼に対して抱いた禁断の感情を封印すべく、オーストラリアへ留学していた。 「俺は彼女だけを愛し続ける」—そう誓った一狼は、今も指輪を外さない。孤高のアルファとして医師の道を歩む彼の家に、一時的に居候することになった祐樹は、罪悪感と憧れの間で揺れ動く。 「姉さんじゃない…僕は僕だ…」 「俺たちも似ているのかもな。葵の影に囚われて、前に進めない」 未亡人医師×自責系学生 オメガバース。 二人の葛藤と成長を描いた、切なくも温かい愛の物語。番を亡くした医師と、彼の元婚約者の弟の、禁断の恋の行方とは

我が為に生きるもの

いんげん
BL
大正ごろの日本に似た和国の話。 能力者の痣から蜜を吸わないと生きていけない僕は、幼馴染から蜜をもらって生きている。 しかし、兄のように慕っている人が海外から帰ってきて…僕たちの関係は変わりはじめ……。 守られ系、病弱主人公。可愛いが正義。  作品の都合上、主に喘いでるのは攻めです。絶頂してるのも攻めです。 無口で横暴だけど、誰よりも主人公に執着する能力者のヒーロー。 二人の兄のような存在で、主人公を愛するヤンデレ能力者。 駄目なおじさん能力者参戦しました。 かなり好き勝手書いているので、地雷が有る人には向かないです。 何でも許せる人向けです。 予告なしに性的表現が入ります。むしろ、ほぼ性的表現・・・。

番に囲われ逃げられない

ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。 結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

処理中です...