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本当の僕 ①
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「なんでだよ!!!なんで髪切っちゃいけないんだよ!」
いつも美容院に行っては暴れまくって、お付きの幼馴染、結城慎太郎を困らせては美容師を困らせ、切らずに帰る、を繰り返していた。
結局肩までで揃え、女みたいな髪型にされる。
車の中で隣に座る慎太郎に縋り付いて大泣きしてしまうのもいつものことだ。
バース性が確定してまもなく親からの理不尽な要求は、女のように振る舞え、乱暴な言葉を喋るな、礼儀正しくしろ、だった。
それまでの俺は家を抜け出しては、近所の悪ガキと遊び、どろんこになって帰ってきては怒られる、ただのやんちゃな子供だった。
それが、バース性がオメガだったからと言う理由だけで、自分の意に沿わない事を強いられる。
それまで俺と慎太郎の体格はあまりかわらず、泣き虫だったあいつを揶揄っては泣かせていたのに、俺と同じ日にわかったのは、慎太郎がアルファだって事だった。
使用人の子供で、いつも意地悪して泣かせていたのに、最近は俺よりも身長は伸び、身体つきも変わってきた。
俺はいつまで経ってもチビで筋肉もつかないし、大きな瞳の横にほくろがあって、その姿は女みたいだ。
どれだけ頑張って身体を鍛えても筋肉がつかないから、オメガってことを嫌々ながらも実感させられるんだ。
日本で有数のホテルチェーンをもつ家の次男として産まれた俺は、その日、兄の代わりにある政治家の政治資金パーティーに出席させられた。
名代として出てこい、と言われたのでパーティーが始まっても慎太郎と一緒に会場の隅でジュースを飲みながら時間を潰していた。
その頃には俺も親への抵抗を辞め、何をしても逆らえないとわかり、多少従順な態度を俺も示すようになっていた。多少だが…。
「馨、着物キツいか?我慢できるか?」
「キツいよ!締め過ぎてご飯も食べられない!」
「悪いな、1時間ほどで、退出してもいいって、旦那様から言われているから、もう少し我慢してくれ」
慎太郎のせいじゃないけど、ムカつく。
ストローをコップから取り出してグラスでジュースを飲み干した。
「駄目だって言っただろ、そんな飲み方して…」
「なんで、”お淑やか?”にしなきゃならないんだよ…本当、クソだな、クソ!」
「馨、さっき前通ったの松野電器の会長だ。木崎として挨拶に行かないと、ほら笑顔、行くよ」
歳が1つ違うだけなのに、握る手は大きくてあったかい。
本人もまだ中学生なのに、使用人の息子として、俺の親を主人と認め俺なんかの世話をしてくれる。
そんな事しなくてもいいのに。
会長の前に俺を差し出し、言われた通りの会話をする。
いつもありがとうございます、やら今後ともご贔屓に、なんて被った仮面で舌をだし、躾の先生よろしく習った言葉を送り出す。
「馨くん、益々綺麗になったね~」
と皆、身体中をベタベタ触りやがる。
笑顔に眉間が寄りそうだ。
気持ち悪い…
それを察して慎太郎が間に入り、失礼のないよう距離をとる。
「馨、顔、もうちょっと我慢しろ!」
会場の隅にようやく辿り着き、慎太郎を突き飛ばした。
「俺、なんであんなに我慢しなきゃいけないんだ!慎太郎も慎太郎だ!見て見ぬふりばっかして、お前も最低だ!!」
と着物の裾を掴みその場所から逃げ出した。
その時、橋の下で出会ったのが凌太、瀬川凌太だった。
会うのは一年後、でもたまにメールはする。
この事は慎太郎には内緒にしてある、なんだか言ってはいけないような気がして、隠してあるんだ。
慎太郎に隠し事なんてこれが初めてだった。
いつも美容院に行っては暴れまくって、お付きの幼馴染、結城慎太郎を困らせては美容師を困らせ、切らずに帰る、を繰り返していた。
結局肩までで揃え、女みたいな髪型にされる。
車の中で隣に座る慎太郎に縋り付いて大泣きしてしまうのもいつものことだ。
バース性が確定してまもなく親からの理不尽な要求は、女のように振る舞え、乱暴な言葉を喋るな、礼儀正しくしろ、だった。
それまでの俺は家を抜け出しては、近所の悪ガキと遊び、どろんこになって帰ってきては怒られる、ただのやんちゃな子供だった。
それが、バース性がオメガだったからと言う理由だけで、自分の意に沿わない事を強いられる。
それまで俺と慎太郎の体格はあまりかわらず、泣き虫だったあいつを揶揄っては泣かせていたのに、俺と同じ日にわかったのは、慎太郎がアルファだって事だった。
使用人の子供で、いつも意地悪して泣かせていたのに、最近は俺よりも身長は伸び、身体つきも変わってきた。
俺はいつまで経ってもチビで筋肉もつかないし、大きな瞳の横にほくろがあって、その姿は女みたいだ。
どれだけ頑張って身体を鍛えても筋肉がつかないから、オメガってことを嫌々ながらも実感させられるんだ。
日本で有数のホテルチェーンをもつ家の次男として産まれた俺は、その日、兄の代わりにある政治家の政治資金パーティーに出席させられた。
名代として出てこい、と言われたのでパーティーが始まっても慎太郎と一緒に会場の隅でジュースを飲みながら時間を潰していた。
その頃には俺も親への抵抗を辞め、何をしても逆らえないとわかり、多少従順な態度を俺も示すようになっていた。多少だが…。
「馨、着物キツいか?我慢できるか?」
「キツいよ!締め過ぎてご飯も食べられない!」
「悪いな、1時間ほどで、退出してもいいって、旦那様から言われているから、もう少し我慢してくれ」
慎太郎のせいじゃないけど、ムカつく。
ストローをコップから取り出してグラスでジュースを飲み干した。
「駄目だって言っただろ、そんな飲み方して…」
「なんで、”お淑やか?”にしなきゃならないんだよ…本当、クソだな、クソ!」
「馨、さっき前通ったの松野電器の会長だ。木崎として挨拶に行かないと、ほら笑顔、行くよ」
歳が1つ違うだけなのに、握る手は大きくてあったかい。
本人もまだ中学生なのに、使用人の息子として、俺の親を主人と認め俺なんかの世話をしてくれる。
そんな事しなくてもいいのに。
会長の前に俺を差し出し、言われた通りの会話をする。
いつもありがとうございます、やら今後ともご贔屓に、なんて被った仮面で舌をだし、躾の先生よろしく習った言葉を送り出す。
「馨くん、益々綺麗になったね~」
と皆、身体中をベタベタ触りやがる。
笑顔に眉間が寄りそうだ。
気持ち悪い…
それを察して慎太郎が間に入り、失礼のないよう距離をとる。
「馨、顔、もうちょっと我慢しろ!」
会場の隅にようやく辿り着き、慎太郎を突き飛ばした。
「俺、なんであんなに我慢しなきゃいけないんだ!慎太郎も慎太郎だ!見て見ぬふりばっかして、お前も最低だ!!」
と着物の裾を掴みその場所から逃げ出した。
その時、橋の下で出会ったのが凌太、瀬川凌太だった。
会うのは一年後、でもたまにメールはする。
この事は慎太郎には内緒にしてある、なんだか言ってはいけないような気がして、隠してあるんだ。
慎太郎に隠し事なんてこれが初めてだった。
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