溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

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記憶と僕と両親と

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僕のお父さんは隣町の大学病院で小児科医として働いていた。
お母さんは同じ病院の看護師でその日はシフトが重なったから、2人で出勤するって言ってた。

あの日、玄関で”行ってらっしゃい”と2人で見送ってくれたのに、僕は顔も見ずに”行ってきます”の言葉だけ残して出かけちゃったんだ。

そんなことも知らずに事故があった時僕は友達とお弁当を食べてたんだ。
お母さんの作ってくれたお弁当を…


事故を知ったのは学校に着いたすぐ後で、担任の先生に警察署に連れて行かれた。

”なんで警察に?”ってわけもわからず、廊下の椅子に座って迎えを待っていた。

しばらくしてじいちゃんとばあちゃんが来て泣きながら僕を抱きしめてくれた。
 
何があったの?
お父さんとお母さんは?

僕の問いに誰も答えてくれない。


それから連れて行かれた病院で白い布に覆われた2人に再会した。

全く動かない僕のお父さんとお母さんに…




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

少し離れた場所に車が停まった。
運転手の岡本さんがドアを開けて僕と晴は外に出た。
助手席から大きな花束を取り出した岡本さんはそれを僕に手渡した。

晴に手を引かれたが竦んだ足は一歩も動かない。
それより震えた身体が恐怖で竦む。

「晴、僕無理かも。」
声も震えて目を閉じた。

「川崎さんがさ、智が両親の事を話さないって。命日なんかなかったことになっていて、どこか遠くに住んでいるように2人のことを話すんだ…って。精神科の医者に相談したら、トラウマからくる精神障害だろうって言われたんだそうだ…智の両親の墓参りに行きたいんだって言ったら智の…その事を教えてくれた…川崎さんは辛いなら思い出させたくない、そのままにしておいてくれないか、って言ってた。」

手を握り返して僕を見る。

「でも俺は…智に、智洋に思い出させるべきだ、ってじゃないと智はこのまま欠けた記憶と共に生きていかなきゃいけなくなる、それは智が…」

「僕が………なに?」

言い淀み事故の辺りを見渡して
「智が可哀想だ…って」


俯い見える僕の影にたくさん水滴が落ちて地面に吸い込まれていく。

両親の楽しい思い出、最後に見た2人の笑顔、どうして、最後、2人の顔を見て行ってきます、と言えなかったのか?

どうして2人の事故を無かったことにしたのか?

胸の奥が張り裂けそうに痛い。

少し抜けてて料理がちょっと下手なお母さん。
正義感があって優しいけどちょっと天然なお父さん。

僕の大好きな両親だ………


晴を見上げて手を握り返した。
「行こう、お父さんとお母さん、待ってるもんね」

待たせてごめんなさい。

来なくてごめんなさい。

僕、もうとっくに社会見学から帰ってきてたんだ。


ただいま、お父さんお母さん。


真っ白な花束が僕の欠けた黒い場所を白く染めていく。
隣にいる晴に抱きついて胸に顔を預けた。

髪を撫でる手が妙に優しくて僕はまた泣いてしまった。

「いっぱい泣いとけ」

小さな声で晴がそう言った。



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