溺愛αの初恋に、痛みを抱えたβは気付かない

桃栗

文字の大きさ
4 / 59
1

晴翔 ①

しおりを挟む
幼いから自分には何か足りない、そう思って生きてきた。
たぶん自分は他より恵まれた環境なのもわかっていた。
両親は共にアルファで、そんな自分もたぶんアルファで間違いない、そう感じていた。
勉強も、スポーツも周りで頑張っている奴らよりも出来たし、身体の成長も他より早かった。

でもいつも思っていた。
何かが足りない。
身体のピースが1つ欠けているようにずっと感じていた。

10歳の誕生日を控えた7月、家が病院を経営しているのもあり、普通なら10歳をすぎてからするはずのバース性の一次検査を早めに行うことになった。

どうせ自分がアルファであることは本能でわかっていたので、今更な感じがしたがこの家では必要なことなので仕方がなかった。

そしてその結果が出てアルファであること、しかも上位アルファだとわかると周りの人間達の雰囲気が一気に変わった。

まだ10歳にも満たない子供に擦り寄る大人達を眺めながら、これから先も自分自身に興味を持ってくれる人達ではなく、神戸家の上位アルファである神戸晴翔という人間に、なんの澱みもなく近づく人達はいないんだとその時にはもう理解していた。

上位アルファであっても何かが足りない。
それなのに周りは自分達の私腹を肥やすことで俺を持ち上げる。
そこに居たくはないのに、離れられないのは神戸という大きなものを背負って立つのが必然だと思っているからだろう。

周りが言う羨ましい自分はなんの幸せも感じずに生きていく。
もう9歳でそう達観していた。

それが一瞬で自分の世界が変わるのをこの身で感じるとは思っても見なかったのだ。



それが川崎智洋との出会いだった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


10歳の誕生日を前日に迎えたあの日、昼に差し掛かろうとした時だった。

当日の衣装合わせが終わり暇を持て余していたので、その時少し興味の出てきたバスケットボールを片手に親にせがんで作らせたバスケットゴールで時間を潰していた。

どうせゴールの横にあるリビングで昼食を食べるのだ、そしてどこから投げても入るボールに腹が立ちゴールとは違う方向にボールを投げつけた。

ボールが家政婦達が使っている控室の前に転がっていく。
そのままにしていても使用人や家政婦達が片付ける、なのにその日はすっと足がボールに向かっていた。

少し近づくとふいた風に乗って柔らかく優しい匂いがした。
その瞬間分かった。


足りないピースだ、と。


駆け出した足をもっと早く動かせ、と脳が伝える。

近づく程にその匂いが運命だと騒ぎ立てる

足りない…自分に足りないピース。

そこは家政婦の控室、急いでドアを開ける。

部屋中が甘く蕩ける程の匂いに包まれて本能が歓喜に満ちた。

「お前だれ?この良い匂いなに?」
なに?と聞かずとももう分かっている。
でも身体中からもっと嗅ぎたい、これが欲しいと叫んでいる。

小さな顔に目立たないが綺麗に整った目や鼻と、ぷっくりとした唇の横にはホクロが主張しないほどの小ささで存在している。
年は同じくらいか?
急にドアから入って来た俺を彼はキョトンとした顔で眺めていた。
良い匂いがすると嗅ぎ回っていると何を勘違いしたのか、彼のばあちゃんが作った弁当を差し出して来て一緒に食べようと言ってきた。

そんなやりとりも好ましかったが、そこで笑顔を見せるのも恥ずかしく、机の上にあった割り箸を取って、そのばあちゃんの弁当を食べた。

彼はその間中終始ニコニコしていて、俺のことを話しても
”そーなんだぁ、なんかカッコいいね”
と言っただけで他の奴らのように嫌な雰囲気は全くしなかった。

両親が亡くなり神戸家の家政婦長である祖母の川崎さんに引き取られたこと。
地元の小学校に通っていること。
友達も何人か出来たんだよ、と笑って語る姿はもう俺を惹きつけてやまなかった。

俺が最近受けたバース性の検査で上位アルファだったことや、それによって擦り寄ってくる大人達のことなども話したが、僕にわかんないや~ごめんね、と流された。

そして僕は平平凡々なベータだよ、なんて言う。

こんな匂いをさせてるのに?
俺の運命なのに?

と心が騒ぎ出す。

一次の検査では分からずとも、15歳で調べる二次検査で本当はオメガだとわかるかもしれない、とにかく、こいつを自分に抱え込み離さないとその時誓った。


それなのに無情にも誕生日パーティーをすぎて、智洋と川崎さんの作ってもらった浴衣を着て夏祭りに行く約束の時間が迫っていたその時、両親に婚約者を決めたと言われた。

幼い頃から言われていたのだ、家にとって最高のオメガと結婚することがこの家に生まれた者の使命だと。
好きな人がいれば囲ってもいいと。

足りないピースが埋まるなんて思っていなかった自分は、その条件をのむのが当たり前としていた筈なのに、婚約者と呟いたその言葉が胸に刺さった棘のように抜けなくなっていた。



夜空に咲いた花火の音が痛いくらい胸に響き、連れ込んだ境内の脇で智洋にキスをした。


この決断がこの先、智洋を傷つけるとは思いも知らずに。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

半分だけ特別なあいつと僕の、遠まわりな十年間。

深嶋(深嶋つづみ)
BL
 ヒート事故により大きく人生が変わってしまったオメガ性の水元佑月。  いつか自由な未来を取り戻せることを信じて、番解消のための治療に通いながら、明るく前向きに生活していた。  佑月が初めての恋に夢中になっていたある日、ヒート事故で半つがいとなってしまった相手・夏原と再会して――。    色々ありながらも佑月が成長し、運命の恋に落ちて、幸せになるまでの十年間を描いた物語です。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

花喰らうオメガと運命の溺愛アルファ

哀木ストリーム
BL
αからの支配から逃げるには、この方法しかなかった。 Ωの辰紀は、αが苦手とする強い匂いを放つ花を、ヒートが始まる前から祖母に食べさせられていた。 そのおかげでヒート中にαに襲われることから逃れていた。  そして祖母が亡くなったある日。両親に売られてしまった祖母の形見を探しに骨董品屋に向かうと、先に祖母の形見を集めているαの有栖川竜仁と出会う。彼を騙して祖母の形見を回収しようとしていたが、彼には花の匂いが効かなかった。それどころか両親が隠したはずの首輪の鍵を持っていて、番にされてしまう。 「その花は、Ωを守る花ではない。喰らわれるのは君の方だよ」  花の中毒症状から救おうと手を差し伸べる竜仁。  彼は、祖母を苦しめたαの孫だと知りーー。 11月から更新します。

金曜日の少年~「仕方ないよね。僕は、オメガなんだもの」虐げられた駿は、わがまま御曹司アルファの伊織に振り回されるうちに変わってゆく~

大波小波
BL
 貧しい家庭に育ち、さらに第二性がオメガである御影 駿(みかげ しゅん)は、スクールカーストの底辺にいた。  そんな駿は、思いきって憧れの生徒会書記・篠崎(しのざき)にラブレターを書く。  だが、ちょっとした行き違いで、その手紙は生徒会長・天宮司 伊織(てんぐうじ いおり)の手に渡ってしまった。  駿に興味を持った伊織は、彼を新しい玩具にしようと、従者『金曜日の少年』に任命するが、そのことによってお互いは少しずつ変わってゆく。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす
BL
 αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。  努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。  世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。  失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。  しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。  あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?  コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。  小説家になろうにも掲載。

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

処理中です...