ツンデレ貴族さま、俺はただの平民です。

夜のトラフグ

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4章

第9話 シエルはどう?

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 冬休みが近づき、シエルの仕事・・はどんどん増えていった。ならず者の処理から諜報、ときには護衛。何でも器用にこなすシエルは、王宮にも一目置かれている。

 ロイドに覚悟を示した。私情を捨て、この仕事に骨を埋めると決めたからには、突き通すしか道はなかった。

 例え、振り返ると、真っ白な吹雪のなか置き去りにされたような孤独を感じたとしても。


♯♯


「シエル」

 休み時間、鐘が鳴るや否や、アステオがシエルの傍に駆け寄ってきた。
 ストンと前の椅子に座るアステオに、シエルは適当に書き付けていたノートから顔を上げ、何でもないふうに答える。

「……どうした? アステオ」
「ううん、別に。
 ねえ、さっきの公式、わかった? わかんなかったら僕が特別に教えてあげるけど」

 そう言ってイタズラするみたいにシエルからペンを奪い、クルクルと公式に丸をつけた。
 シエルは少し拗ねたように言い返す。

「わかったって。今期の定期テストも魔法数学は俺のほうがよかったじゃん」
「そのあとの模試は僕のほうが上だった」

 そこで何となく空気が緩んで、二人して「ふふっ」と笑ってしまった。

「くだらな」
「確かに」

 フワリと笑うアステオの優しい笑顔。彼を見て、胸がズキリと痛むのをシエルは知らないフリをした。
 その可愛い顔に触れたい、なんて思ってない。最近、シエルがアステオのことを少しだけ避けているのも、気付かれていないはずなのだ。

 知らず、シエルはアステオの視線を避けるように机から身体を起こそうとした。しかし、それを知ってか知らずか。アステオは手に持っていたペンを置き、そのままシエルの腕にそっと触れる。

「ねえ、シエル。ところで」
「──なんだ?」
「約束のデートはいつするの」

 バサッ。思わず机に仕舞おうとしていたノートを落としてしまった。

「…………えっ?」
「約束したでしょ? 忘れちゃった?」

 約束。
 ……し、したっけ??

 記憶を辿り、そういえばアステオの姿を褒めるときそんなようなことを言った気がしてきた。

「……や、うん、覚えてる! 覚えてる、けど。でもあれってさ……」
「そう、覚えてるならよかった!」

 ニコ、と絵画の天使みたいに優しく微笑むアステオ。あまりにも無邪気に無垢に笑うので、頭のどこかが警鐘を鳴らしている気がするが──それにしても、可愛い。よしよしと撫でたくなる。

「僕ね、来週の休みは予定が空いてるんだけど。シエルはどう?」


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