ツンデレ貴族さま、俺はただの平民です。

夜のトラフグ

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4章

第2話 好きだなあ

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 アステオと別れて新しいクラスに向かうと、そこには既にそこそこの人数がいて、各々が楽しそうに喋ったりふざけあったりしていた。

(えーっと、知ってる人は………っと)

 ちら、と見渡してつい先日委員長に付き添ったパーティーで見た顔を見つけたので声をかける。

「こんにちはー」
「あなたは………」

 彼は委員長と幼馴染みだと言っていたエドガー。
 さらに言えば学園祭で魔法研究会にいた、あの男である。
 しかし彼はシエルの姿を認識した瞬間、思い切り顔を歪めた。

「………浮気者の、シエル・クラウザー。なんです、喧嘩でも売りに来たんですか」
「え、え!?」

 突然放たれた覚えの無い言葉に、シエルは呆気にとられる。

「う、浮気者!?」
「だってそうでしょう。あんなにアステオ氏と親しげなくせに、あなたこの間、私の幼馴染みとダンスを──」
「わっ!?」

 わりとトップシークレットの情報を漏らされかけ、思わず手を伸ばしてエドガーの口を塞ぐ。
 そんなシエルを、エドガーは鬱陶しそうに睨んだ。

(………別に口外するつもりはありません。彼女からも口止めされてますし)
(………あ。そ、そうですか……)

 ボソボソと囁き合うシエルとエドガー。はたから見れば仲良しに見えるが、それを本人たちが聞けば何て言うだろうか。

「……それにしても仮面してたのに、よく俺だとわかったなあ。エドガーは委員長のこと結構見てるんだな」
「………え、いやそれは………」

 突然ソワソワと気まずげに目をそらしたエドガー。そのとき、話していた二人へ割って入る者がいた。

「エドガーくんはシャリーさんに″恋″、してるんだよねー」

 驚いてシエルが後ろを振り返ると、そこにいたのは。

「マイク」
「おはようシエルくん、エドガーくん。ボクも同じクラスなんだ、よろしくね」
「………ちょ、マイクくん!」

 アステオの旧友、マイクだった。
 彼の登場に焦った顔をするエドガー。一方シエルは、興味を持ったように彼に駆け寄った。

「へええ。そうなのか」
「そうなの。もう十年来だっていうから、なかなかじれったい恋路だよね」
「…………失礼ですよ、あなたがた……」

 はあ、と呆れたように溜め息をつくエドガー。しかしそんなことでへこたれる二人ではない。

「……告白とかしなかったのか?」
「それがねえ、一年のとき一度いい雰囲気になったらしいんだけど。委員長、鈍いから……」

 と、マイクはシエルの知らないエピソードをいろいろ教えてくれた。
 しかし、それをエドガーは咎める。

「だいたいあなた、知ってるでしょう。彼女は………」
「あ……」

 促されてやっと気づく。そうか、委員長はもう……。

「そっか。別の土地に転校したんだもんね」

 マイクが寂しそうにしみじみと呟いた。公式にはそういうことになってるらしい。
 でも、実際は……。

 なんとなくしんみりした空気が漂う。しかし、一人だけどうとも思ってないような顔で、エドガーはこう吐き捨てた。

「貴人の恋愛なんて、道楽でやるものですよ」

 それは実に達観していて、本気なのか強がりなのかすらわからない言葉だった。

「それは、まあ。そうかもしれないけど…………」
「本気になったら最後ですから。
 ……まあ、アステオ氏の場合がどうかは知りませんが」
「ッ!?」

 納得したような腑に落ちないような顔をしているマイク。そんな彼を眺めながら、エドガーは意趣返しのようにそう続けた。
 思わぬ流れ弾を食らったシエルは、思わず噎せた。


♯♯


「なにを考えてるの?」

 放課後、約束通りアステオと帰っているとき。気付いたらぼうっとしていたようで、不満そうな彼の顔がシエルを覗き込んで尋ねてきた。

「ん? いや………クラスにおまえがいないのは、やっぱり寂しいなあって」
「………え」

 その言葉にアステオは目をパチ、と瞬かせる。そして徐々に意味を理解すると、カアッと顔を赤くした。

「ふ、ふうん? …………そう?」
「そうそう。それに、もしアステオに俺より仲がいい友達ができたら嫉妬しちゃうなー、なんて……」

 と、そこまで喋って、シエルは「あ」と思う。

(………しまったな)

 クラスでの会話に引き摺られて。そのせいで少し、喋りすぎてしまった。

 けれどそう思ったシエルの考えとは裏腹に、アステオの反応は呆気ないものだった。

「なに言ってるの。」

 そんなことあるわけないでしょ、と。
 自然に、当たり前のようにシエルのモヤモヤを否定してくれたのだ。

(………あーあ)

 こういうとこが本当にかっこいいなあ、好きだなあって思う。


 いつの間にかシエルは歩調が少し落ちていたようだった。少し前へ進んでいたアステオが振り返る。するとシエルは無意識にポケットへ突っ込んでいた手を取り出し、アステオに差し出した。

「ん。」
「え、なに。繋ごうって?」
「そう、どうせ人いないし。別れ道までだから」
「もー、しょうがないんだから」

 アステオは呆れたように、しかし嫌がる素振りもなく手を繋いでくれる。

 出逢ってそろそろ一年、親しくなって半年のちょっと。この短い期間で、よくもまあここまで仲良くなったなあとシエルは自分のことながら思う。

 家までの道を同じ歩幅で歩きながら話したりふざけたり、笑いあったりできる。手をぎゅっと握れば、そっと握り返してくれる。この些細なふれあいの、なんて幸せなことだろう。

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