社畜モブの俺、異世界転移したら「Sub」っていわれたんだけど。え、「Sub」って何ですか?

鉾田 ほこ

文字の大きさ
上 下
12 / 100
1章

12 はじめてのプレイ

しおりを挟む
 それはないよ……とがっくり肩を落としたものだ。だが、よく考えなくても、それはあるはずがない。
 この世界の生き物ではないのだから。
 そう納得した。その時は……。

 その一件以降、あまり関わりのなかったハウスで働く人たちとも挨拶だけではなく、顔を合わせたら軽口をたたく程度には親しくなった。というより、記憶もなく、魔力もない健介をみんな「かわいそうな人、優しくしてあげなきゃね」と認識したといった方が正しいかもしれない。
 せっかく異世界に来たのに、魔法すら使えなかった自分。
 それでもやっと、普通に生活できると思い始めた矢先に、「Sub」という何の役にも立たなそうな属性が付与されている。
 魔法が使えないのはわかる、だって異世界から来たし。じゃあ、なんで元の世界にないものが突然生えてくるのだ……。だったら、生えてくるのはぜったい魔力の方が良いに決まってる、健介はそう改めて思った。

 そして、いま現在は見ず知らずの部屋で、見ず知らずの人とプレイをしようとしているのだ。
 思わずため息が漏れた。

「ケン」
 声をかけられて、健介は回想から引き戻される。横抱きに抱えられたままだったことを思い出して「わぁっ」とバランスを崩しそうになり、リアンに抱き着いた。
「ツラい? プレイできそうかい?」
「は、い。すみません」
「よかった。じゃあ、おろすよ」
「はい」
 リアンは健介をベッドの足元の床におろして、その場に立たせる。そして、自分は窓際にしつらえられたテーブルセットまで歩いていった。どんなことをされるのか、この後何が起こるのか、緊張して心臓が早鐘を打ち始める。どうしたら良いかわからず健介はついて行った方がよいのかと思って、歩きだそうと足を踏み出した瞬間、
「『待て』」
 凛としたリアンの声が部屋に響きわたり、不思議な感覚が健介を支配した。

(え、え!?)

 歩こうと踏み出した一歩から身体が動かない。困惑の表情が健介の顔に広がる。
「『おいで』」
 今度は固まっていた足が、すっと動くようになり、無意識のままテーブルセットの前まで歩みを進めた。

(あぁ……これが……『命令コマンド』)

 本能で理解した。ただの言葉ではない、DomがSubに向ける命令が『コマンド』なのだ。考えるのではなく、感じるのだ。初めての命令コマンドには恐れや不安はなかった。それよりも従いたい気持ちの方が勝っていた。
 リアンの前まで進んだ健介に、「次は『お座り』」と命令がくだされた。素直に従い、膝から崩れ落ちるようにその足元へ座り込む。それはまるで犬が主人の前でお座りをしているような姿だった。
「『いいこ』。よくできました」
 そう言って、リアンは小さな子供かペットにするように優しく頭をなでる。
 ただそれだけで、健介ふわふわと気持ちがよくなり、心がぽかぽかと温かくなった。
 抗えない。いや、抗いたくない。この人に従いたい。もっともっと命令してほしい。

「こっちを『見て』」
 下げていた視線をあげて、正面からリアンの顔を直視する。見上げた先の美しい人もその瞳を健介へと向けていて、綺麗なオッドアイと視線が絡んだ。片方の目は氷が溶けた春先の小川のように薄く澄んだ青色、もう片方は薄いグリーンに榛色の虹彩がまるで花が咲いたように見える。
「『いいこ』だ。初めての命令コマンドはどう? 抵抗感はある?」
「あ、いや……ない、です」
「このまま続けても?」
 健介はこくりと大きくうなずきを返した。
 もっともっとできる。褒められて撫でられたい。
「じゃあ、『四つん這いになって』」
 健介はお座りの態勢から、膝を立てて獣のように四つ足になる。
「『キスして』」
 えっと一瞬だけ驚いた。この体勢でキスができるのは、リアンの靴を履いたつま先だけだ。嫌だという気持ちはなぜだか欠片もわかないが、健介の常識は頭の隅で「どうなのだろう」と逡巡する。
 すると、健介の目の前にリアンの大きな手が差し出された。「あ、こっちか」とそのまま手の甲へとちゅっと軽いキスを落とす。少しだけ残念な気持ちがしているのはなぜだろう。

「『いいこ』」
 「上手にできたね」と微笑みかけて、空いた手で健介の頬を撫でる。健介は無意識にその手に頬を摺り寄せて、鼻から「くぅーん」という鳴き声を上げていた。
 リアンは椅子から立ち上がり、しゃがみこむと健介の肩や腰をするすると撫でる。そのたびに、健介はぴくぴくと身体を震わせた。
「可愛い……」
 リアンが小さな声でつぶやくが、目を細めてうっとりとした健介の耳には届かない。
 「いいこ、いいこ」と褒められて、撫でられるたびに、気分はどんどんと高揚していく。
 気持ちがいい。
 先ほどまで冷たくなっていた身体は活力を取り戻して、全身が熱いくらいだった。
「くふ、ん」
 知らず識らずに身体を揺する健介の鼻から小さな息が漏れる。
「『仰向けに』」
 そう命令されて、のそのそと従順に床に背中をつけて、膝を曲げたまま仰向けになる。すると、開いた足の間から、パンツを押し上げているものが見えた。
 はっとして、急いで両足を閉じて膝を抱える。

(な、なんで?)
 確かに気分はいい。だが、そこが勃つようなことは何もしていない。
 いくら自分のものが小さいからといって、仰向けになったときにズボンを押し上げて主張していた様は隠しようがなかった。おそらく、きっとバレてはいる。
 ちらっと気まずそうにリアンを盗み見ると、かちあった薄青の瞳が妖しくひかる。その顔は満面の笑みを浮かべおり、「『』だよ。ケン」と告げてきた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

僕の太客が義兄弟になるとか聞いてない

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
 没落名士の長男ノアゼットは日々困窮していく家族を支えるべく上級学校への進学を断念して仕送りのために王都で働き出す。しかし賢くても後見の無いノアゼットが仕送り出来るほど稼げはしなかった。  そんな時に声を掛けてきた高級娼家のマダムの引き抜きで、男娼のノアとして働き出したノアゼット。研究肌のノアはたちまち人気の男娼に躍り出る。懇意にしてくれる太客がついて仕送りは十分過ぎるほどだ。  そんな中、母親の再婚で仕送りの要らなくなったノアは、一念発起して自分の人生を始めようと決意する。順風満帆に滑り出した自分の生活に満ち足りていた頃、ノアは再婚相手の元に居る家族の元に二度目の帰省をする事になった。 そこで巻き起こる自分の過去との引き合わせに動揺するノア。ノアと太客の男との秘密の関係がまた動き出すのか?

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...