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16章
6 ノエルの祖母
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翌日、宣言通りに迎えにきたノエルの車にリアムと一緒に乗り込む。
今日は助手席をリアムに丁重に譲って、リアシートに座る。シートベルトを締めた頃には、車は走り出していた。
行き慣れた場所なのか、カーナビの案内もなく走り出した車は、大手町のビル群を抜けて、内堀通りに出た。皇居の脇のこの道は、都心にしては珍しく遮る建物がなく、青い夏空が開けている。少しだけ、アメリカで通う大学の構内と似ている気がした。
霞が関ランプから首都高に入った車は、スピードを上げる。高いビルはどんどん減っていき、小一時間も経つと、車窓から見える景色は東京の郊外のベッドタウンへと変わっていった。
(どこに向かっているんだろう……)
高速道路の標識は、見慣れた地名が過ぎていく。車はサクラコとシロウの住む家の方に向かっている。
「ノエル……義兄さん」
兄さんと呼びかけてみたが、気恥ずかしい。なんなら、ノエルと英語で話していることも、シロウには不思議な感じがする。ノエルとサクラコは日本語で話していたので、シロウも日本にいたときは日本語で会話をしていた。
ノエルの日本語はかなり流暢で、米国籍だと聞いたときシロウは驚いたものだ。
それほど、ノエルの日本語は自然だった。
「Is it near our house, I guess?(うちの家の近くなのですか?)」
「Hmm, yeah. It's in almost same direction.(うーん……そうだね、方向的には一緒かな)」
ノエルが曖昧に答える。まあ、詳しく聞かなくても、着けばわかることだ。深くは尋ねず、リアムとノエルの他愛のない雑談を聞きながら、流れる車窓を眺めること三十分、淡いグリーンの壁の家の前で車が止まる。柱で支えられた広くて開放的な屋根付きの玄関がここだけ日本ではないような雰囲気だ。
「ノエル、いらっしゃい」
「おばあさま、ご無沙汰してます」
「嫌だわ、ノエル。いつもみたいにばあちゃんって言いなさいよ」
玄関から出てきた豊かな白髪の女性は、笑いながらノエルとハグをする。ノエルの影にすっぽりおさまって、それ以上は見えない。ノエルの祖母となるとかなり年配なはずだが、大変溌剌として見える。
「ノエルの祖母の緑です。久しぶりね、獅郎ちゃん。本当に大きくなって……」
ノエルの大きな体から横に顔を出して、シロウに話しかけた。若々しく垢ぬけて見えるのは、長年アメリカに住んでいたからだろうか。
(久しぶり……って)
シロウにはノエルの祖母に会った記憶はなかった。「はじめまして」と挨拶をしようと考えていたシロウは慌ててしまう。
「あ、あの、獅郎です。すみません……」
「覚えていなくて当然よ。会ったのは貴方のご両親のお葬式だったから」
カラカラと笑いながら、シロウの方に歩いてきて、隣のリアムを見上げる。
「貴方がリアムね。お父さんにそっくり。一目でわかったわ。会話は英語で結構よ。今は日本に住んでるけど、アメリカの生活のほうが長かったんだから」
流れるように英語で話し始めて、シロウもリアムも驚く。
「はじめまして。リアム・ギャラガーです。お時間をいただき、ありがとうございます。ミドリサン」
「二人とも気軽に『グラニー』と呼んで。立ち話もないわ。どうぞ入って」
勧められるままに揃って家の中に入る。
こじんまりとしているが、一人で暮らすには広いくらいの居心地の良い家だ。それこそ、シロウがリアムに「実家に行く」と言われた時に想像したアメリカの田舎にありそうな家。
室内のインテリアも日本のどこで購入したのだろうかと不思議なほどにアメリカのホームドラマで見るような雰囲気だった。
通された応接間のソファに座る。天井にはシーリングファンが回っていた。
「おまたせ」
ノエルの祖母が人数分のアイスコーヒーと、皿に盛られたクッキーを持ってくる。祖母にしてみれば、ノエルもシロウも子供たちなのだろう。
出されたコーヒーを片手に誰もがこの後どう話し始めたものかと、思案していた。外からは最後の力を振り絞るかのような蝉の鳴き声が聞こえる。
ふと、祖母が口を開いた。
「本当に……不思議なものね。サクラコもだけど、シロウもだなんて。人狼の血はお互い引かれ合うのかしら」
祖母はカラリと氷の音を鳴らして、グラスを傾ける。クッキーをつまみ、リアムとシロウを見て首をかしげた。
「グラニー、どう言うこと?!」
「貴方達はそれを聞きに来たんじゃないの?」
「そうだよ!そうだけど!」
何かおかしなことでもいったか、というような祖母にノエルが前のめりになって、尋ねる。
「士郎さんはね、狼だったのよ。人狼だったの」
早速答えが出た。いとも簡単に。
「シロウサン?」
リアムがシロウを見た後、祖母を見てから訊ねた。
「士郎さんはね、シロウのお爺さんよ」
「あー」とリアムが納得した声をだした。だが、シロウは納得できなかった。
なぜ、祖母はシロウが人狼であることを教えてくれなかったのか。
新たな謎がシロウの中にわいてくるだけだった。
今日は助手席をリアムに丁重に譲って、リアシートに座る。シートベルトを締めた頃には、車は走り出していた。
行き慣れた場所なのか、カーナビの案内もなく走り出した車は、大手町のビル群を抜けて、内堀通りに出た。皇居の脇のこの道は、都心にしては珍しく遮る建物がなく、青い夏空が開けている。少しだけ、アメリカで通う大学の構内と似ている気がした。
霞が関ランプから首都高に入った車は、スピードを上げる。高いビルはどんどん減っていき、小一時間も経つと、車窓から見える景色は東京の郊外のベッドタウンへと変わっていった。
(どこに向かっているんだろう……)
高速道路の標識は、見慣れた地名が過ぎていく。車はサクラコとシロウの住む家の方に向かっている。
「ノエル……義兄さん」
兄さんと呼びかけてみたが、気恥ずかしい。なんなら、ノエルと英語で話していることも、シロウには不思議な感じがする。ノエルとサクラコは日本語で話していたので、シロウも日本にいたときは日本語で会話をしていた。
ノエルの日本語はかなり流暢で、米国籍だと聞いたときシロウは驚いたものだ。
それほど、ノエルの日本語は自然だった。
「Is it near our house, I guess?(うちの家の近くなのですか?)」
「Hmm, yeah. It's in almost same direction.(うーん……そうだね、方向的には一緒かな)」
ノエルが曖昧に答える。まあ、詳しく聞かなくても、着けばわかることだ。深くは尋ねず、リアムとノエルの他愛のない雑談を聞きながら、流れる車窓を眺めること三十分、淡いグリーンの壁の家の前で車が止まる。柱で支えられた広くて開放的な屋根付きの玄関がここだけ日本ではないような雰囲気だ。
「ノエル、いらっしゃい」
「おばあさま、ご無沙汰してます」
「嫌だわ、ノエル。いつもみたいにばあちゃんって言いなさいよ」
玄関から出てきた豊かな白髪の女性は、笑いながらノエルとハグをする。ノエルの影にすっぽりおさまって、それ以上は見えない。ノエルの祖母となるとかなり年配なはずだが、大変溌剌として見える。
「ノエルの祖母の緑です。久しぶりね、獅郎ちゃん。本当に大きくなって……」
ノエルの大きな体から横に顔を出して、シロウに話しかけた。若々しく垢ぬけて見えるのは、長年アメリカに住んでいたからだろうか。
(久しぶり……って)
シロウにはノエルの祖母に会った記憶はなかった。「はじめまして」と挨拶をしようと考えていたシロウは慌ててしまう。
「あ、あの、獅郎です。すみません……」
「覚えていなくて当然よ。会ったのは貴方のご両親のお葬式だったから」
カラカラと笑いながら、シロウの方に歩いてきて、隣のリアムを見上げる。
「貴方がリアムね。お父さんにそっくり。一目でわかったわ。会話は英語で結構よ。今は日本に住んでるけど、アメリカの生活のほうが長かったんだから」
流れるように英語で話し始めて、シロウもリアムも驚く。
「はじめまして。リアム・ギャラガーです。お時間をいただき、ありがとうございます。ミドリサン」
「二人とも気軽に『グラニー』と呼んで。立ち話もないわ。どうぞ入って」
勧められるままに揃って家の中に入る。
こじんまりとしているが、一人で暮らすには広いくらいの居心地の良い家だ。それこそ、シロウがリアムに「実家に行く」と言われた時に想像したアメリカの田舎にありそうな家。
室内のインテリアも日本のどこで購入したのだろうかと不思議なほどにアメリカのホームドラマで見るような雰囲気だった。
通された応接間のソファに座る。天井にはシーリングファンが回っていた。
「おまたせ」
ノエルの祖母が人数分のアイスコーヒーと、皿に盛られたクッキーを持ってくる。祖母にしてみれば、ノエルもシロウも子供たちなのだろう。
出されたコーヒーを片手に誰もがこの後どう話し始めたものかと、思案していた。外からは最後の力を振り絞るかのような蝉の鳴き声が聞こえる。
ふと、祖母が口を開いた。
「本当に……不思議なものね。サクラコもだけど、シロウもだなんて。人狼の血はお互い引かれ合うのかしら」
祖母はカラリと氷の音を鳴らして、グラスを傾ける。クッキーをつまみ、リアムとシロウを見て首をかしげた。
「グラニー、どう言うこと?!」
「貴方達はそれを聞きに来たんじゃないの?」
「そうだよ!そうだけど!」
何かおかしなことでもいったか、というような祖母にノエルが前のめりになって、尋ねる。
「士郎さんはね、狼だったのよ。人狼だったの」
早速答えが出た。いとも簡単に。
「シロウサン?」
リアムがシロウを見た後、祖母を見てから訊ねた。
「士郎さんはね、シロウのお爺さんよ」
「あー」とリアムが納得した声をだした。だが、シロウは納得できなかった。
なぜ、祖母はシロウが人狼であることを教えてくれなかったのか。
新たな謎がシロウの中にわいてくるだけだった。
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