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16章
2 日本へ2
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《空港に着きました。ラウンジに案内されています》
到着を報せるメッセージを打つ。出発まであと三十分。スタッフが持ってきた紅茶を飲み一息つき、リアムの到着を心待ちにする。
しかし、出発の十五分前になっても、メッセージの返信もなければ、本人も来ない。
(こんな端っこに座ったから、どこにいるのかわからないのかな……)
不安になったシロウがリアムに電話をかけようとした時、先ほど案内してくれたのとはまた別のグランドスタッフから「機内へご案内します」と声をかけられた。
「あ、あの。連れが……」
「ミスターギャラガーは機内でお待ちですよ」
スタッフが笑顔で答えた時、シロウの携帯にも《ギリギリだ、機内で》とショートメッセージらしい短い返事が表示される。
案内された機内で、シロウは自分の常識が通用しない世界にリアムが生きていることを改めて知ることとなった。
以前、どこかの航空会社の宣伝文句に「快適な空の旅を」というものがあった。だが、エコノミークラスしか使わない人生では、一度たりとも空の旅が快適だったためしはない。
だが、快適な空の旅は存在していたのだ。
案内された飛行機の外観は、おそらく今までシロウが見たり乗ったりしたことのある、ごく普通の国際線用の機体だ。ボーディングブリッジの窓から見えたのは、確かにそうだった。
だが、席が──。
最早、席ではない。部屋なのである。
通された席(部屋)は真ん中にベッドがあり、その両脇に革張りの椅子が備えつけられている。
(ベッド!!)
飛行機の座席はフルフラットになれば、最上級だと思っていたシロウの認識は、覆された。肉体的に多少しんどいかもしれないと思っていた12時間のフライトは、シロウの心配をよそに、(気後れはしたが……)快適の一言に尽きる形で日本に到着したのだった。
長い移動時間と時差の関係で、土曜のフライトで出発しても、日本に到着するのは翌日の午後となる。
飛行機から一歩外に出ると、懐かしい湿度が肌にまとわりついた。
昔、「日本は飛行機から降りた瞬間に醤油の匂いがする」と何かで読んだ気がするが、きっと冗談だと思う。醤油の匂いはしないが、隣からメイトの心地よい匂いは感じられる。それだけで、飛行機という密室、空港という人ごみの中でも、シロウの人狼は落ち着いていた。
「シロウ、疲れてない?」
疲れようがない、快適な移動だった。むしろ、仕事から直行になってしまった上に、機内でもPCを叩いていたリアムの方がよほど疲れているのではないか。
「大丈夫です。ホテルは東京でしたよね。空港からは電車で移動ですか?」
東京なら、ずっと住んでいたし、何より仕事場は大手町だった。言わばホーム中のホーム。ここは自分がリアムをリード出来るのではないかと、内心喜ぶ。
「いや、迎えを呼んであるよ」
リアムの返答に早速出鼻をくじかれて、シロウは肩を落とした。
用意周到なリアムをそう簡単に出し抜けるはずがなかったのだった。
空港内の何もない廊下を二人並んで無言で歩く。出国時と違い、入国のための通路には店もなく、みな足早に出口を目指していた。
電光掲示板に表示された便名と出発地から、荷物が降りてくるレーンを探す。ターンテーブルに近づくと、ちょうど最初の荷物が流れてきた。
こんなにも預けた荷物は早く出てくるものなのかと感心する。真っ先にベルトコンベアを降りてきた自分たちの荷物を受け取りに、わさわさと群がる人をかき分けた。羽田空港はインバウンドの活気か、夏休みもそろそろ終わりだというのに、人で溢れかえっている。
受け取ったキャリーケースを引き、出口に向う。迎えはどこの出口に来ているのだろう。
シロウの心を読んだように、携帯を見たリアムが「このまま真っ直ぐ。21番ゲートだよ」と言った。
到着ゲートに「ようこそ!ミスターギャラガー」と書かれた看板を持っている人がよもや待ち構えてはいるまいと思ったが、それは杞憂に終わった。
待たせている人が気になって、少し足早に出口へと向かう。
到着を報せるメッセージを打つ。出発まであと三十分。スタッフが持ってきた紅茶を飲み一息つき、リアムの到着を心待ちにする。
しかし、出発の十五分前になっても、メッセージの返信もなければ、本人も来ない。
(こんな端っこに座ったから、どこにいるのかわからないのかな……)
不安になったシロウがリアムに電話をかけようとした時、先ほど案内してくれたのとはまた別のグランドスタッフから「機内へご案内します」と声をかけられた。
「あ、あの。連れが……」
「ミスターギャラガーは機内でお待ちですよ」
スタッフが笑顔で答えた時、シロウの携帯にも《ギリギリだ、機内で》とショートメッセージらしい短い返事が表示される。
案内された機内で、シロウは自分の常識が通用しない世界にリアムが生きていることを改めて知ることとなった。
以前、どこかの航空会社の宣伝文句に「快適な空の旅を」というものがあった。だが、エコノミークラスしか使わない人生では、一度たりとも空の旅が快適だったためしはない。
だが、快適な空の旅は存在していたのだ。
案内された飛行機の外観は、おそらく今までシロウが見たり乗ったりしたことのある、ごく普通の国際線用の機体だ。ボーディングブリッジの窓から見えたのは、確かにそうだった。
だが、席が──。
最早、席ではない。部屋なのである。
通された席(部屋)は真ん中にベッドがあり、その両脇に革張りの椅子が備えつけられている。
(ベッド!!)
飛行機の座席はフルフラットになれば、最上級だと思っていたシロウの認識は、覆された。肉体的に多少しんどいかもしれないと思っていた12時間のフライトは、シロウの心配をよそに、(気後れはしたが……)快適の一言に尽きる形で日本に到着したのだった。
長い移動時間と時差の関係で、土曜のフライトで出発しても、日本に到着するのは翌日の午後となる。
飛行機から一歩外に出ると、懐かしい湿度が肌にまとわりついた。
昔、「日本は飛行機から降りた瞬間に醤油の匂いがする」と何かで読んだ気がするが、きっと冗談だと思う。醤油の匂いはしないが、隣からメイトの心地よい匂いは感じられる。それだけで、飛行機という密室、空港という人ごみの中でも、シロウの人狼は落ち着いていた。
「シロウ、疲れてない?」
疲れようがない、快適な移動だった。むしろ、仕事から直行になってしまった上に、機内でもPCを叩いていたリアムの方がよほど疲れているのではないか。
「大丈夫です。ホテルは東京でしたよね。空港からは電車で移動ですか?」
東京なら、ずっと住んでいたし、何より仕事場は大手町だった。言わばホーム中のホーム。ここは自分がリアムをリード出来るのではないかと、内心喜ぶ。
「いや、迎えを呼んであるよ」
リアムの返答に早速出鼻をくじかれて、シロウは肩を落とした。
用意周到なリアムをそう簡単に出し抜けるはずがなかったのだった。
空港内の何もない廊下を二人並んで無言で歩く。出国時と違い、入国のための通路には店もなく、みな足早に出口を目指していた。
電光掲示板に表示された便名と出発地から、荷物が降りてくるレーンを探す。ターンテーブルに近づくと、ちょうど最初の荷物が流れてきた。
こんなにも預けた荷物は早く出てくるものなのかと感心する。真っ先にベルトコンベアを降りてきた自分たちの荷物を受け取りに、わさわさと群がる人をかき分けた。羽田空港はインバウンドの活気か、夏休みもそろそろ終わりだというのに、人で溢れかえっている。
受け取ったキャリーケースを引き、出口に向う。迎えはどこの出口に来ているのだろう。
シロウの心を読んだように、携帯を見たリアムが「このまま真っ直ぐ。21番ゲートだよ」と言った。
到着ゲートに「ようこそ!ミスターギャラガー」と書かれた看板を持っている人がよもや待ち構えてはいるまいと思ったが、それは杞憂に終わった。
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