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14章
7 人狼とメイト
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「ありがとう。なんかあったの?今日のシロウ、とっても落ち着かないし、不安……の匂いがする」
気の利くジェイムズが話し出すきっかけをくれたのをいいことに、シロウは週末に起こった出来事をかいつまんで話した。
くどくどと説明をするのもつまらないだろうと、出来事のみを簡素に伝えることにした。だが逆に話を端折り過ぎて、訳がわからない説明になっているのではないかと、不安を隠さない表情でジェイムズを眺める。
話している間もジェイムズは興味津々というほどではないが、関心のある様子で小さく頷きながら話を聞いてくれていた。
途中、群れの集まりの理由がシロウの姉の婚約発表だと告げたあたりでは、「え、そんなことありえる!?」とあからさまに驚く。その反応に、シロウも思わず「ありえないよね。俺も驚いた」と笑って返すと、「驚いたじゃすまないよ」と若干呆れられた。
概ね話し終えて、喉の渇きを潤すように、グラスに入ったジュースを飲む。
氷の入ったグラスは少しだけ水滴を纏っていて、汗で湿った手が余計に濡れた。
「つまり、気晴らしに出かけようっていう誘いに乗って、出かけた先が群れの集まりで、お姉さんが群れの狼のメイトだって紹介されていたってこと?」
的確でいて的を得たジェイムズの要約に、シロウは思わず感嘆の声を漏らす。自分のつたない説明でここまで理解してもらえたのは素直にうれしかった。
「それにしても、すごい偶然だね。姉弟そろって同じ群れから縁を結ぶなんて」
ジェイムズは心から驚いた様子でシロウを見る。
やはり、生粋な人狼から見ても兄弟で同じ群れにメイトが存在するのは「すごい偶然」だと思う出来事なのか。そもそも、人狼はどうやって相手を選ぶのだろう。
シロウは純粋な疑問を尋ねることにした。
「人狼はどうやってメイトと出会うの?群れの中から相手を探すとか?」
シロウは隣に座るジェイムズへ目をやった。ジェイムズは片眉をあげて、からかうような表情をする。
「シロウ。いまは21世紀だよ?昔は群れの中でお見合いみたいなこともあったかもしれないけど、いまは普通に自由恋愛だって」
いまいち、会話がかみ合っていない。
「メイトは群れの人狼の中にいるもの?」
ジェイムズを伺うと、あぁ…そういうことかという表情をしていた。
「わからないなぁ、人狼が必ずメイトと出会えるわけではないし。俺もまだメイトに会ってないから……でも、メイトと巡り合った奴らはみんな『理屈じゃない』って言うよ。なんか……こう、わかるんだってさ。シロウも……リアムさんとメイトなんだろ?」
ジェイムズは居心地が悪いわけではないのだろうが、居ずまいを正すように座りなおし、「俺よりもメイトがいるシロウの方が詳しいだろう?」とでも言うようにジェイムズがシロウを見てくる。
いずれにしても、シロウが尋ねたいことはジェイムズにうまく伝わっていなかった。
シロウは少し悩んでから、もう少し具体的に話した方がよいのかもしれないと、再度聞いてみることにする。
「姉さんも俺も、同じ群れのメイトになったけど、同じ群れにいたわけではないし、もともと人狼でもない。そういった、人狼じゃない、普通の人が人狼とメイトの絆を結ぶことは多いの?それに、こう……特定の群れの人狼が自分の群れ以外や群れじゃない普通の人とメイトになることってあるのかな?」
横向きになってシロウを見ていたジェイムズは少し目を見開いてから正面に向かって座り直す。そして、眉を寄せて考え込んでしまった。
ジェイムズは長いこと顎に手を当てたまま、首をひねっている。シロウはなんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと、「わからないなら大丈夫」と慌てて手をふる。
「俺もあんまり群れのことに詳しくはないんだ……。ごめん」
「謝らないでよ」
謝りたいのはシロウのほうだった。不慣れな自分が人狼コミュニティにとって、失礼なことを言ってしまったのだろうかと申し訳なくなる。
「でも、人狼とは関係ない普通の人と人狼がメイトになることは……あるよ」
そう言ったジェイムズの声がいつもの明るい声とは少し違っていて、シロウはいよいよまずいことを聞いたのではないかと不安になる。
これ以上この話はしないほうが良い気がした。
「俺の母さんは、人狼のことなんて知らない、普通の人だったんだ」
少し掠れた声でジェイムズが話を続けた。
気の利くジェイムズが話し出すきっかけをくれたのをいいことに、シロウは週末に起こった出来事をかいつまんで話した。
くどくどと説明をするのもつまらないだろうと、出来事のみを簡素に伝えることにした。だが逆に話を端折り過ぎて、訳がわからない説明になっているのではないかと、不安を隠さない表情でジェイムズを眺める。
話している間もジェイムズは興味津々というほどではないが、関心のある様子で小さく頷きながら話を聞いてくれていた。
途中、群れの集まりの理由がシロウの姉の婚約発表だと告げたあたりでは、「え、そんなことありえる!?」とあからさまに驚く。その反応に、シロウも思わず「ありえないよね。俺も驚いた」と笑って返すと、「驚いたじゃすまないよ」と若干呆れられた。
概ね話し終えて、喉の渇きを潤すように、グラスに入ったジュースを飲む。
氷の入ったグラスは少しだけ水滴を纏っていて、汗で湿った手が余計に濡れた。
「つまり、気晴らしに出かけようっていう誘いに乗って、出かけた先が群れの集まりで、お姉さんが群れの狼のメイトだって紹介されていたってこと?」
的確でいて的を得たジェイムズの要約に、シロウは思わず感嘆の声を漏らす。自分のつたない説明でここまで理解してもらえたのは素直にうれしかった。
「それにしても、すごい偶然だね。姉弟そろって同じ群れから縁を結ぶなんて」
ジェイムズは心から驚いた様子でシロウを見る。
やはり、生粋な人狼から見ても兄弟で同じ群れにメイトが存在するのは「すごい偶然」だと思う出来事なのか。そもそも、人狼はどうやって相手を選ぶのだろう。
シロウは純粋な疑問を尋ねることにした。
「人狼はどうやってメイトと出会うの?群れの中から相手を探すとか?」
シロウは隣に座るジェイムズへ目をやった。ジェイムズは片眉をあげて、からかうような表情をする。
「シロウ。いまは21世紀だよ?昔は群れの中でお見合いみたいなこともあったかもしれないけど、いまは普通に自由恋愛だって」
いまいち、会話がかみ合っていない。
「メイトは群れの人狼の中にいるもの?」
ジェイムズを伺うと、あぁ…そういうことかという表情をしていた。
「わからないなぁ、人狼が必ずメイトと出会えるわけではないし。俺もまだメイトに会ってないから……でも、メイトと巡り合った奴らはみんな『理屈じゃない』って言うよ。なんか……こう、わかるんだってさ。シロウも……リアムさんとメイトなんだろ?」
ジェイムズは居心地が悪いわけではないのだろうが、居ずまいを正すように座りなおし、「俺よりもメイトがいるシロウの方が詳しいだろう?」とでも言うようにジェイムズがシロウを見てくる。
いずれにしても、シロウが尋ねたいことはジェイムズにうまく伝わっていなかった。
シロウは少し悩んでから、もう少し具体的に話した方がよいのかもしれないと、再度聞いてみることにする。
「姉さんも俺も、同じ群れのメイトになったけど、同じ群れにいたわけではないし、もともと人狼でもない。そういった、人狼じゃない、普通の人が人狼とメイトの絆を結ぶことは多いの?それに、こう……特定の群れの人狼が自分の群れ以外や群れじゃない普通の人とメイトになることってあるのかな?」
横向きになってシロウを見ていたジェイムズは少し目を見開いてから正面に向かって座り直す。そして、眉を寄せて考え込んでしまった。
ジェイムズは長いこと顎に手を当てたまま、首をひねっている。シロウはなんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと、「わからないなら大丈夫」と慌てて手をふる。
「俺もあんまり群れのことに詳しくはないんだ……。ごめん」
「謝らないでよ」
謝りたいのはシロウのほうだった。不慣れな自分が人狼コミュニティにとって、失礼なことを言ってしまったのだろうかと申し訳なくなる。
「でも、人狼とは関係ない普通の人と人狼がメイトになることは……あるよ」
そう言ったジェイムズの声がいつもの明るい声とは少し違っていて、シロウはいよいよまずいことを聞いたのではないかと不安になる。
これ以上この話はしないほうが良い気がした。
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少し掠れた声でジェイムズが話を続けた。
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