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13章
8 どういうこと?
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シロウはあっという間の出来事にどうしたら良いかわからず、おろおろと隣のリアムを見上げた。
リアムはただため息をついて首をふる。
(その反応はダメってこと?それとも気にするなってこと?)
わからないが自分ではどうしようも出来ないことだけはわかる。
そりゃそうだ。いきなり息子が生涯の伴侶として、男を連れてきたら、いくら世の中がダイバーシティだなんだと言ってもすんなり受け入れるのは容易でない。
つきそうになるため息を飲み込んで、前を向くと姉の反応も、困惑している。
原因は圧倒的に空気の悪い朝食会の最後の最後に、この場のホステスが席を立ったことだけではないことも明らかだった。恋人の一人もいた試しがないシロウが唐突に、会ってすぐの男と「結婚を前提に付き合うことになりました」と言われて、素直に納得できようもない。
(その上、家族に紹介もされてないし、なんなら反対されている雰囲気だし……)
この後、姉と何をどう話したら良いのか、シロウは憂鬱な気持ちになる。
かと言って逃げる訳にもいかない。そもそも姉と向き合わないでこの場を去る選択肢はシロウには無かった。
姉を説得か納得かするためにはどうしたらいいかと頭を悩ませていると、「ごほんっ」とリチャードが不自然な咳払いをした。
ぐるぐると頭の中で考えを巡らせていたシロウだけでなく、その場の全員が次は何を言うのかとリチャードに注目する。
「……次の群れの集会にはシロウと二人で参加するように。新しいメンバーになったこととお前のメイトだと、皆に紹介する」
決定事項を告げる一方的な物言いにリアムは不満そうな声を漏らす。
「年明けには群れを引き継ぐつもりだ。それまでに朝話したことを考えるように。シロウも。いいね」
重ねて言われた父親の言葉にリアムはまともな返事もせずに黙って見返す。
その隣でシロウは小さな声で「はい」と答えた。
「シロウ、行こう」
これ以上ここにいる意味はないといった様子でリアムが席を立ち、シロウの手を引く。
「おい、リアム。お前、叔父さんに聞かなきゃなんないことがあるだろ?」
(なんだろう……)
引かれた手の先のリアムを見るとバツの悪い顔をしていた。
この場で聞くべきか聞かざるべきか悩んでいるような様子にシロウも首をかしげる。
観念したようにふぅと息をはく。
「父さん、人が人狼の血を与えられないのに人狼になるなんて話、きいたことありますか?」
「どういうことだ?」
「シロウは……初めて会ったとき、人狼の匂いがしなかった。だが、倒れて半日ほど経ったら狼に変身したんです。俺の目の前で。もちろん、俺は何もしていない」
「え?」という小さな声が聞こえた。
「ノエル。どういうこと?シロウは……シロウも人狼なの?どういうこと?」
本人はこそこそと隣のノエルに聞いているつもりなのだろうが、興奮のあまり声のボリュームが全く密やかになっていない。
「櫻子、ちょっと、静かに。少しだけ、少しだけ待って」
慌てるノエルが小声でサクラコを宥める。
特に驚きもせずに黙って聞いていたリチャードは少しだけ悩んだような思い返すような表情をする。
「聞いたことがないな……」
その短い言葉にリアムはあからさまに落胆した。
それほど期待していたわけではないが、群の統率者なら他のコミュニティのことも含めて何か知っているのではないかという見込みは外れたようだった。
「日本の人狼コミュニティはもう無いのだったか?」
リチャードがポールに尋ねる。
「父さん、日本の狼は絶滅している。それにシロウは身内がサクラコしかいない」
ポールへの問いかけにリアムが答える。
「そうだね。日本の人狼は聞かないけど……」
言葉を切ると顎に手をあてて、少し考えるようにする。
「ナオミさんのお母さんはサクラコさんとシロウ君のお祖母様とお知り合いだったけど……何か知ってるかな」
思わぬところから繋がりがあったことに全員が驚きの視線をポールに向けた。
「ばあちゃんが?」
がたりと席から立ち上がったノエルが前のめりでポールに尋ねた。
「そうだね。サクラコさんが高校生の時にうちに遊びに来たりしていたのはお義母さんからナオミさんが『知り合いのお嬢さんがアメリカに行くからよろしく』って言われたからだよ」
サクラコとノエルだけが納得の表情を浮かべる。
シロウはサクラコがノエルと学生時代に知り合いだったことは知っていたが、そういった繋がりがあったことは初めて知った。
「ポール、ナオミさんに伝えて、何かお母様から話が聞けないか聞いてくれ」
「わかったよ」
「伯父さん、出来れば直接話を聞きたいんですが」
「……うーん、いま何処に住んでるんだっけ?」
「ばあちゃん、いま日本だよ」
ノエルが答える。
「リアム、日本だって言ってるけど?」
こちらを悩まし気な表情で眺めて尋ねる。
「仕事の都合はつけるので、アポイント取ってください」
リアムはシロウの都合も聞かずに勝手に決めると、ポールに依頼した。
置いてけぼりで話が進んでいるがシロウには自分が口を挟んでことをややこしくするだけだと思い何も言わなかった。それより、自分の都合などとても言える雰囲気では無かったと言った方が正しい。
自分のルーツを知る手掛かりのようなものを得たことは一つ自分の見通しのように思わなくもないが、最悪の空気で終えた朝食を思い返すとリアムとの関係を誰もが認めて喜んで受け入れてくれるものではないとシロウは悲しい気持ちになる。
「シロウ」
話が終わったのか、リアムが優しく声をかける。見上げると頭に小さくキスを落とされた。
リアムはこの場にもう用はないと言わんばかりに、シロウを連れて部屋から出ようと歩き出す。
朝から色々あったが、変わらずリアムはシロウに甘く優しい。だが、その場しのぎの優しさではシロウの不安が晴れることはなかった。
リアムはただため息をついて首をふる。
(その反応はダメってこと?それとも気にするなってこと?)
わからないが自分ではどうしようも出来ないことだけはわかる。
そりゃそうだ。いきなり息子が生涯の伴侶として、男を連れてきたら、いくら世の中がダイバーシティだなんだと言ってもすんなり受け入れるのは容易でない。
つきそうになるため息を飲み込んで、前を向くと姉の反応も、困惑している。
原因は圧倒的に空気の悪い朝食会の最後の最後に、この場のホステスが席を立ったことだけではないことも明らかだった。恋人の一人もいた試しがないシロウが唐突に、会ってすぐの男と「結婚を前提に付き合うことになりました」と言われて、素直に納得できようもない。
(その上、家族に紹介もされてないし、なんなら反対されている雰囲気だし……)
この後、姉と何をどう話したら良いのか、シロウは憂鬱な気持ちになる。
かと言って逃げる訳にもいかない。そもそも姉と向き合わないでこの場を去る選択肢はシロウには無かった。
姉を説得か納得かするためにはどうしたらいいかと頭を悩ませていると、「ごほんっ」とリチャードが不自然な咳払いをした。
ぐるぐると頭の中で考えを巡らせていたシロウだけでなく、その場の全員が次は何を言うのかとリチャードに注目する。
「……次の群れの集会にはシロウと二人で参加するように。新しいメンバーになったこととお前のメイトだと、皆に紹介する」
決定事項を告げる一方的な物言いにリアムは不満そうな声を漏らす。
「年明けには群れを引き継ぐつもりだ。それまでに朝話したことを考えるように。シロウも。いいね」
重ねて言われた父親の言葉にリアムはまともな返事もせずに黙って見返す。
その隣でシロウは小さな声で「はい」と答えた。
「シロウ、行こう」
これ以上ここにいる意味はないといった様子でリアムが席を立ち、シロウの手を引く。
「おい、リアム。お前、叔父さんに聞かなきゃなんないことがあるだろ?」
(なんだろう……)
引かれた手の先のリアムを見るとバツの悪い顔をしていた。
この場で聞くべきか聞かざるべきか悩んでいるような様子にシロウも首をかしげる。
観念したようにふぅと息をはく。
「父さん、人が人狼の血を与えられないのに人狼になるなんて話、きいたことありますか?」
「どういうことだ?」
「シロウは……初めて会ったとき、人狼の匂いがしなかった。だが、倒れて半日ほど経ったら狼に変身したんです。俺の目の前で。もちろん、俺は何もしていない」
「え?」という小さな声が聞こえた。
「ノエル。どういうこと?シロウは……シロウも人狼なの?どういうこと?」
本人はこそこそと隣のノエルに聞いているつもりなのだろうが、興奮のあまり声のボリュームが全く密やかになっていない。
「櫻子、ちょっと、静かに。少しだけ、少しだけ待って」
慌てるノエルが小声でサクラコを宥める。
特に驚きもせずに黙って聞いていたリチャードは少しだけ悩んだような思い返すような表情をする。
「聞いたことがないな……」
その短い言葉にリアムはあからさまに落胆した。
それほど期待していたわけではないが、群の統率者なら他のコミュニティのことも含めて何か知っているのではないかという見込みは外れたようだった。
「日本の人狼コミュニティはもう無いのだったか?」
リチャードがポールに尋ねる。
「父さん、日本の狼は絶滅している。それにシロウは身内がサクラコしかいない」
ポールへの問いかけにリアムが答える。
「そうだね。日本の人狼は聞かないけど……」
言葉を切ると顎に手をあてて、少し考えるようにする。
「ナオミさんのお母さんはサクラコさんとシロウ君のお祖母様とお知り合いだったけど……何か知ってるかな」
思わぬところから繋がりがあったことに全員が驚きの視線をポールに向けた。
「ばあちゃんが?」
がたりと席から立ち上がったノエルが前のめりでポールに尋ねた。
「そうだね。サクラコさんが高校生の時にうちに遊びに来たりしていたのはお義母さんからナオミさんが『知り合いのお嬢さんがアメリカに行くからよろしく』って言われたからだよ」
サクラコとノエルだけが納得の表情を浮かべる。
シロウはサクラコがノエルと学生時代に知り合いだったことは知っていたが、そういった繋がりがあったことは初めて知った。
「ポール、ナオミさんに伝えて、何かお母様から話が聞けないか聞いてくれ」
「わかったよ」
「伯父さん、出来れば直接話を聞きたいんですが」
「……うーん、いま何処に住んでるんだっけ?」
「ばあちゃん、いま日本だよ」
ノエルが答える。
「リアム、日本だって言ってるけど?」
こちらを悩まし気な表情で眺めて尋ねる。
「仕事の都合はつけるので、アポイント取ってください」
リアムはシロウの都合も聞かずに勝手に決めると、ポールに依頼した。
置いてけぼりで話が進んでいるがシロウには自分が口を挟んでことをややこしくするだけだと思い何も言わなかった。それより、自分の都合などとても言える雰囲気では無かったと言った方が正しい。
自分のルーツを知る手掛かりのようなものを得たことは一つ自分の見通しのように思わなくもないが、最悪の空気で終えた朝食を思い返すとリアムとの関係を誰もが認めて喜んで受け入れてくれるものではないとシロウは悲しい気持ちになる。
「シロウ」
話が終わったのか、リアムが優しく声をかける。見上げると頭に小さくキスを落とされた。
リアムはこの場にもう用はないと言わんばかりに、シロウを連れて部屋から出ようと歩き出す。
朝から色々あったが、変わらずリアムはシロウに甘く優しい。だが、その場しのぎの優しさではシロウの不安が晴れることはなかった。
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