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13章
5 サクラコ 一触即発2
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「何で!?一人で置いてきたの?!」
リアムが言い終えるか否かというタイミングで、もっともな質問を浴びせる。
だが、「何故」にはリアムも父が何をシロウに話すために引き留めたのか皆目検討がつかず、「一人で置いてきたのか?」という非難に対しては、面目無いとしか返しようがなく、再び言葉を詰まらせ黙るしかなかった。
即答できないリアムにサクラコは苛立ち、攻撃的な匂いを漂わせる。
メイトの姉と敵対するつもりは毛頭無かったが、リアム自身も苛立っていた。父にも群れの統率者にも正面きって反意を示せず、メイトを置いてきた自分の不甲斐なさにも腹が立つ。
そんな二人の一触即発な雰囲気にノエルが「まあまあ」と宥めるように間に立つが、二人の間のピリついた空気が緩むことはない。
さらにリアムを詰めるべくサクラコが口を開こうとした時、「サクラコ」と柔らかな声が呼びかけた。
先に中へと入っていたポールがいつまでも入り口から入ってこようとしない二人にサクラコまで加わった一団の様子を伺いに来ていた。
「はい……」
サクラコは義父からの呼びかけにさきほどまで眉を吊り上げてリアムを睨みつけていた表情から笑顔を取り繕って振り返る。
「大丈夫、もうすぐ来るよ」
優しい笑顔を向けるポールにサクラコは眉根を寄せて「でも……」と言い募る。
一方、リアムは逆立っていた気持ちがポールの登場で和らぐ。なんなら、もうすぐシロウが来るような気さえしてきた。
義理の親子のやりとりを黙って見ていると、ポールがサクラコから視線を外し入り口の先、廊下を見やる。
「ほら」
そう言ったポールの目線の先に、父と共に歩いてくるシロウが小さく見えた。
シロウの姿が見えたことによって、サクラコの緊張と怒りもあからさまに安堵に変わる。
既に落ち着きを取り戻していたリアムはサクラコの変化に心の中でホッと息をつく。
「さ、朝食の席に着いて待とう」
リアムは扉の向こう、廊下を歩くシロウを迎えに行こうとしたが、ポールから「大丈夫」と言われて止められて、中に入るように促される。
仕方なく、ノエルとサクラコと共に朝食の用意が整ったテーブルへ向かった。
既にテーブルに着いて談笑していた女性二人が近づいてきたリアムに気づいて顔を上げる。
柔らかな笑みに少しの寂しさを滲ませていた。
「リアム」
「母さん」
「昨日は挨拶もなかったわ」
母の言葉にリアムは今の今まで全くその存在を忘れていたことを思い出す。
非難のこもった視線を受け止めつつ、近づいてハグをする。
「ごめん、昨日はちょっと……色々あって」
「薄情ね……」
「ごめんって」
「メイトと出会ったって……。それも聞いてないわ……」
「それは……後で紹介するよ」
まだ何か言いたそうな母を無視して、リアムは隣に座る叔母と挨拶をする。
「ご無沙汰してます。昨晩はご挨拶も出来ず、失礼しました」
「いいのよー。メイトの絆、おめでとう!」
口調は軽いが心のこもった祝意にリアムの胸に温かいものが広がる。
「ありがとうございます」
叔母に親しみをこめてハグをしてから、母の追及をかわすように、自分に割り当てられた席に落ち着いた。
リアムが言い終えるか否かというタイミングで、もっともな質問を浴びせる。
だが、「何故」にはリアムも父が何をシロウに話すために引き留めたのか皆目検討がつかず、「一人で置いてきたのか?」という非難に対しては、面目無いとしか返しようがなく、再び言葉を詰まらせ黙るしかなかった。
即答できないリアムにサクラコは苛立ち、攻撃的な匂いを漂わせる。
メイトの姉と敵対するつもりは毛頭無かったが、リアム自身も苛立っていた。父にも群れの統率者にも正面きって反意を示せず、メイトを置いてきた自分の不甲斐なさにも腹が立つ。
そんな二人の一触即発な雰囲気にノエルが「まあまあ」と宥めるように間に立つが、二人の間のピリついた空気が緩むことはない。
さらにリアムを詰めるべくサクラコが口を開こうとした時、「サクラコ」と柔らかな声が呼びかけた。
先に中へと入っていたポールがいつまでも入り口から入ってこようとしない二人にサクラコまで加わった一団の様子を伺いに来ていた。
「はい……」
サクラコは義父からの呼びかけにさきほどまで眉を吊り上げてリアムを睨みつけていた表情から笑顔を取り繕って振り返る。
「大丈夫、もうすぐ来るよ」
優しい笑顔を向けるポールにサクラコは眉根を寄せて「でも……」と言い募る。
一方、リアムは逆立っていた気持ちがポールの登場で和らぐ。なんなら、もうすぐシロウが来るような気さえしてきた。
義理の親子のやりとりを黙って見ていると、ポールがサクラコから視線を外し入り口の先、廊下を見やる。
「ほら」
そう言ったポールの目線の先に、父と共に歩いてくるシロウが小さく見えた。
シロウの姿が見えたことによって、サクラコの緊張と怒りもあからさまに安堵に変わる。
既に落ち着きを取り戻していたリアムはサクラコの変化に心の中でホッと息をつく。
「さ、朝食の席に着いて待とう」
リアムは扉の向こう、廊下を歩くシロウを迎えに行こうとしたが、ポールから「大丈夫」と言われて止められて、中に入るように促される。
仕方なく、ノエルとサクラコと共に朝食の用意が整ったテーブルへ向かった。
既にテーブルに着いて談笑していた女性二人が近づいてきたリアムに気づいて顔を上げる。
柔らかな笑みに少しの寂しさを滲ませていた。
「リアム」
「母さん」
「昨日は挨拶もなかったわ」
母の言葉にリアムは今の今まで全くその存在を忘れていたことを思い出す。
非難のこもった視線を受け止めつつ、近づいてハグをする。
「ごめん、昨日はちょっと……色々あって」
「薄情ね……」
「ごめんって」
「メイトと出会ったって……。それも聞いてないわ……」
「それは……後で紹介するよ」
まだ何か言いたそうな母を無視して、リアムは隣に座る叔母と挨拶をする。
「ご無沙汰してます。昨晩はご挨拶も出来ず、失礼しました」
「いいのよー。メイトの絆、おめでとう!」
口調は軽いが心のこもった祝意にリアムの胸に温かいものが広がる。
「ありがとうございます」
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