狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

文字の大きさ
上 下
88 / 146
13章

5 サクラコ 一触即発2

しおりを挟む
「何で!?一人で置いてきたの?!」

 リアムが言い終えるか否かというタイミングで、もっともな質問を浴びせる。
 だが、「何故」にはリアムも父が何をシロウに話すために引き留めたのか皆目検討がつかず、「一人で置いてきたのか?」という非難に対しては、面目無いとしか返しようがなく、再び言葉を詰まらせ黙るしかなかった。
 即答できないリアムにサクラコは苛立ち、攻撃的な匂いを漂わせる。
 メイトの姉と敵対するつもりは毛頭無かったが、リアム自身も苛立っていた。父にも群れの統率者にも正面きって反意を示せず、メイトを置いてきた自分の不甲斐なさにも腹が立つ。
 そんな二人の一触即発な雰囲気にノエルが「まあまあ」と宥めるように間に立つが、二人の間のピリついた空気が緩むことはない。
 さらにリアムを詰めるべくサクラコが口を開こうとした時、「サクラコ」と柔らかな声が呼びかけた。
 先に中へと入っていたポールがいつまでも入り口から入ってこようとしない二人にサクラコまで加わった一団の様子を伺いに来ていた。
「はい……」
 サクラコは義父からの呼びかけにさきほどまで眉を吊り上げてリアムを睨みつけていた表情から笑顔を取り繕って振り返る。
「大丈夫、もうすぐ来るよ」
 優しい笑顔を向けるポールにサクラコは眉根を寄せて「でも……」と言い募る。
 一方、リアムは逆立っていた気持ちがポールの登場で和らぐ。なんなら、もうすぐシロウが来るような気さえしてきた。
 義理の親子のやりとりを黙って見ていると、ポールがサクラコから視線を外し入り口の先、廊下を見やる。
 
「ほら」
 そう言ったポールの目線の先に、父と共に歩いてくるシロウが小さく見えた。
 シロウの姿が見えたことによって、サクラコの緊張と怒りもあからさまに安堵に変わる。
 既に落ち着きを取り戻していたリアムはサクラコの変化に心の中でホッと息をつく。

「さ、朝食の席に着いて待とう」
 リアムは扉の向こう、廊下を歩くシロウを迎えに行こうとしたが、ポールから「大丈夫」と言われて止められて、中に入るように促される。
 仕方なく、ノエルとサクラコと共に朝食の用意が整ったテーブルへ向かった。



 既にテーブルに着いて談笑していた女性二人が近づいてきたリアムに気づいて顔を上げる。
 柔らかな笑みに少しの寂しさを滲ませていた。
「リアム」
「母さん」
「昨日は挨拶もなかったわ」
 母の言葉にリアムは今の今まで全くその存在を忘れていたことを思い出す。
 非難のこもった視線を受け止めつつ、近づいてハグをする。
「ごめん、昨日はちょっと……色々あって」
「薄情ね……」
「ごめんって」
「メイトと出会ったって……。それも聞いてないわ……」
「それは……後で紹介するよ」
 まだ何か言いたそうな母を無視して、リアムは隣に座る叔母と挨拶をする。
「ご無沙汰してます。昨晩はご挨拶も出来ず、失礼しました」
「いいのよー。メイトの絆、おめでとう!」
 口調は軽いが心のこもった祝意にリアムの胸に温かいものが広がる。

「ありがとうございます」
 叔母に親しみをこめてハグをしてから、母の追及をかわすように、自分に割り当てられた席に落ち着いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...