狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

文字の大きさ
上 下
87 / 146
13章

4 サクラコ 一触即発1

しおりを挟む
「まぁ、狼になっても、縄張りとか気にしないで済むし、その点は良かったよ」
「!お前、日本でも狼に変身してるのか?」
 ノエルの言葉にリアムは驚く。
 人狼がいないなら縄張りもないが、だからと言って安全ではないだろう。ノエルに限ってありえないが、狩猟者に撃たれたり、捕まったりしたらどうするつもりなのだ。
 人狼がいないなら、人狼コミュニティもない。いざ、何かが起きても誰にも助けを求められない。
「あー。大丈夫」
 リアムの反応にノエルが平然と答える。
 だが、リアムは何が大丈夫なのだと言わんばかりに信じられないものを見る目でノエルを見た。
「それがさ、サクラコとシロウの家。東京にあるけど、めちゃくちゃ田舎なんだよ。その上、おばあさん名義の山が家の裏にある。それが結構広くて……」
「お婆さまはもう亡くなられているよな?」
 それまでヘラヘラと笑って答えていたノエルが一転して、真剣な顔をする。
「そうなんだよ。田舎とはいえ東京だし、土地もかなり広い。相続税払えないから名義を変えられなかったんだと」
 そんな軽々に他所様の懐事情を話していいのかと突然の込み入った家庭情報に、リアムは一瞬ぎょっとする。
 だが、俺もシロウもメイトだってもうわかっていることだ。他人事ではないと考え直す。
 シロウの祖母がいつ亡くなったのかはわからないが、亡くなった人の名義にしたままで問題ないのだろうか……。日本の税金事情に詳しくないが、そんなことが起こるのかと思った。
「家もさ、相続すると山の相続が発生するから、おばあさんの名義のままなんだと。これがまた凄いんだぜ。ジャパニーズサムライハウス!マモール・ホソダ!サマーウォーズ!!」
「は?」
 次は何を言い出したのかと横目でノエルを見ていると反対から急に声がする。
 
「ノエル、うちが武家だったことは一度もないわよ。あれは商家の家。なに?二人とも入り口でコソコソと」
 気づかないうちにいつの間にかサクラコが隣に来ていた。人狼である自分が他人の気配に気づかずにここまで近づけるなんて、そんなに話に集中していたのだろうか。

「いいんだよ!ジャパニーズトラディショナルハーウス!めっちゃカッコいい」
「ノエル。彼女はニンジャ?」
 小さく耳打ちをすると、「はぁ??」と冷たい返事を返された。
 リアムも「いやいや、お前が言ってたことも相当だぞ?」という視線を返す。
「はぁ……。また、コソコソと……」
 サクラコはため息を吐いて、隣で興奮していたノエルを一瞥し、リアムの方を向く。鋭い眼付きで睨みつけ、「獅郎は一緒じゃ無いのですか?」と、リアムがいま一番聞かれたく無いことを聞いてくる。
 正直に答えるべきだし、何も後ろめたいこともないはずだが、リアムは口ごもる。不本意とはいえ、父の元に一人で置いてきたと答えれば、「なぜ?どうして?何の用事で?」と質問責めされるか、「一人で置いてくるなんて」と謗られることは避けられない。
 言い淀むリアムをまじまじと見つめてくるサクラコに、ノエルが「すぐ来るよ」と気休めの言葉をかけるがもちろん納得などしない。
 寧ろ視線には「ノエルに聞いてない、この男に聞いてるんですけど?」と言外の圧力すら感じる。
「朝、貴方とノエルは貴方のお父様に呼び出されたとききました。獅郎は一緒だったのですか?」
 サクラコの切長の目がリアムを詰める。クーラーの効いた部屋の空気が一段と寒くなった気がする。
 これはもう一言も間違えられない。
「はい。シロウも一緒でした。シロウは……まだ私の父と話をしています」
「何で!?一人で置いてきたの?!」
 リアムが言い終えるか否かというタイミングで、もっともな質問を浴びせる。
 だが、「何故」にはリアムも父が何をシロウに話すために引き留めたのか皆目検討がつかず、「一人で置いてきたのか?」という非難に対しては、面目無いとしか返しようがなく、再び言葉を詰まらせ黙るしかなかった。
 即答できないリアムにサクラコは苛立ち、攻撃的な匂いを漂わせる。
 メイトの姉と敵対するつもりは毛頭無かったが、リアム自身も苛立っていた。父にも群れの統率者にも正面きって反意を示せず、メイトを置いてきた自分の不甲斐なさにも腹が立つ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...