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13章
4 サクラコ 一触即発1
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「まぁ、狼になっても、縄張りとか気にしないで済むし、その点は良かったよ」
「!お前、日本でも狼に変身してるのか?」
ノエルの言葉にリアムは驚く。
人狼がいないなら縄張りもないが、だからと言って安全ではないだろう。ノエルに限ってありえないが、狩猟者に撃たれたり、捕まったりしたらどうするつもりなのだ。
人狼がいないなら、人狼コミュニティもない。いざ、何かが起きても誰にも助けを求められない。
「あー。大丈夫」
リアムの反応にノエルが平然と答える。
だが、リアムは何が大丈夫なのだと言わんばかりに信じられないものを見る目でノエルを見た。
「それがさ、サクラコとシロウの家。東京にあるけど、めちゃくちゃ田舎なんだよ。その上、おばあさん名義の山が家の裏にある。それが結構広くて……」
「お婆さまはもう亡くなられているよな?」
それまでヘラヘラと笑って答えていたノエルが一転して、真剣な顔をする。
「そうなんだよ。田舎とはいえ東京だし、土地もかなり広い。相続税払えないから名義を変えられなかったんだと」
そんな軽々に他所様の懐事情を話していいのかと突然の込み入った家庭情報に、リアムは一瞬ぎょっとする。
だが、俺もシロウもメイトだってもうわかっていることだ。他人事ではないと考え直す。
シロウの祖母がいつ亡くなったのかはわからないが、亡くなった人の名義にしたままで問題ないのだろうか……。日本の税金事情に詳しくないが、そんなことが起こるのかと思った。
「家もさ、相続すると山の相続が発生するから、おばあさんの名義のままなんだと。これがまた凄いんだぜ。ジャパニーズサムライハウス!マモール・ホソダ!サマーウォーズ!!」
「は?」
次は何を言い出したのかと横目でノエルを見ていると反対から急に声がする。
「ノエル、うちが武家だったことは一度もないわよ。あれは商家の家。なに?二人とも入り口でコソコソと」
気づかないうちにいつの間にかサクラコが隣に来ていた。人狼である自分が他人の気配に気づかずにここまで近づけるなんて、そんなに話に集中していたのだろうか。
「いいんだよ!ジャパニーズトラディショナルハーウス!めっちゃカッコいい」
「ノエル。彼女はニンジャ?」
小さく耳打ちをすると、「はぁ??」と冷たい返事を返された。
リアムも「いやいや、お前が言ってたことも相当だぞ?」という視線を返す。
「はぁ……。また、コソコソと……」
サクラコはため息を吐いて、隣で興奮していたノエルを一瞥し、リアムの方を向く。鋭い眼付きで睨みつけ、「獅郎は一緒じゃ無いのですか?」と、リアムがいま一番聞かれたく無いことを聞いてくる。
正直に答えるべきだし、何も後ろめたいこともないはずだが、リアムは口ごもる。不本意とはいえ、父の元に一人で置いてきたと答えれば、「なぜ?どうして?何の用事で?」と質問責めされるか、「一人で置いてくるなんて」と謗られることは避けられない。
言い淀むリアムをまじまじと見つめてくるサクラコに、ノエルが「すぐ来るよ」と気休めの言葉をかけるがもちろん納得などしない。
寧ろ視線には「ノエルに聞いてない、この男に聞いてるんですけど?」と言外の圧力すら感じる。
「朝、貴方とノエルは貴方のお父様に呼び出されたとききました。獅郎は一緒だったのですか?」
サクラコの切長の目がリアムを詰める。クーラーの効いた部屋の空気が一段と寒くなった気がする。
これはもう一言も間違えられない。
「はい。シロウも一緒でした。シロウは……まだ私の父と話をしています」
「何で!?一人で置いてきたの?!」
リアムが言い終えるか否かというタイミングで、もっともな質問を浴びせる。
だが、「何故」にはリアムも父が何をシロウに話すために引き留めたのか皆目検討がつかず、「一人で置いてきたのか?」という非難に対しては、面目無いとしか返しようがなく、再び言葉を詰まらせ黙るしかなかった。
即答できないリアムにサクラコは苛立ち、攻撃的な匂いを漂わせる。
メイトの姉と敵対するつもりは毛頭無かったが、リアム自身も苛立っていた。父にも群れの統率者にも正面きって反意を示せず、メイトを置いてきた自分の不甲斐なさにも腹が立つ。
「!お前、日本でも狼に変身してるのか?」
ノエルの言葉にリアムは驚く。
人狼がいないなら縄張りもないが、だからと言って安全ではないだろう。ノエルに限ってありえないが、狩猟者に撃たれたり、捕まったりしたらどうするつもりなのだ。
人狼がいないなら、人狼コミュニティもない。いざ、何かが起きても誰にも助けを求められない。
「あー。大丈夫」
リアムの反応にノエルが平然と答える。
だが、リアムは何が大丈夫なのだと言わんばかりに信じられないものを見る目でノエルを見た。
「それがさ、サクラコとシロウの家。東京にあるけど、めちゃくちゃ田舎なんだよ。その上、おばあさん名義の山が家の裏にある。それが結構広くて……」
「お婆さまはもう亡くなられているよな?」
それまでヘラヘラと笑って答えていたノエルが一転して、真剣な顔をする。
「そうなんだよ。田舎とはいえ東京だし、土地もかなり広い。相続税払えないから名義を変えられなかったんだと」
そんな軽々に他所様の懐事情を話していいのかと突然の込み入った家庭情報に、リアムは一瞬ぎょっとする。
だが、俺もシロウもメイトだってもうわかっていることだ。他人事ではないと考え直す。
シロウの祖母がいつ亡くなったのかはわからないが、亡くなった人の名義にしたままで問題ないのだろうか……。日本の税金事情に詳しくないが、そんなことが起こるのかと思った。
「家もさ、相続すると山の相続が発生するから、おばあさんの名義のままなんだと。これがまた凄いんだぜ。ジャパニーズサムライハウス!マモール・ホソダ!サマーウォーズ!!」
「は?」
次は何を言い出したのかと横目でノエルを見ていると反対から急に声がする。
「ノエル、うちが武家だったことは一度もないわよ。あれは商家の家。なに?二人とも入り口でコソコソと」
気づかないうちにいつの間にかサクラコが隣に来ていた。人狼である自分が他人の気配に気づかずにここまで近づけるなんて、そんなに話に集中していたのだろうか。
「いいんだよ!ジャパニーズトラディショナルハーウス!めっちゃカッコいい」
「ノエル。彼女はニンジャ?」
小さく耳打ちをすると、「はぁ??」と冷たい返事を返された。
リアムも「いやいや、お前が言ってたことも相当だぞ?」という視線を返す。
「はぁ……。また、コソコソと……」
サクラコはため息を吐いて、隣で興奮していたノエルを一瞥し、リアムの方を向く。鋭い眼付きで睨みつけ、「獅郎は一緒じゃ無いのですか?」と、リアムがいま一番聞かれたく無いことを聞いてくる。
正直に答えるべきだし、何も後ろめたいこともないはずだが、リアムは口ごもる。不本意とはいえ、父の元に一人で置いてきたと答えれば、「なぜ?どうして?何の用事で?」と質問責めされるか、「一人で置いてくるなんて」と謗られることは避けられない。
言い淀むリアムをまじまじと見つめてくるサクラコに、ノエルが「すぐ来るよ」と気休めの言葉をかけるがもちろん納得などしない。
寧ろ視線には「ノエルに聞いてない、この男に聞いてるんですけど?」と言外の圧力すら感じる。
「朝、貴方とノエルは貴方のお父様に呼び出されたとききました。獅郎は一緒だったのですか?」
サクラコの切長の目がリアムを詰める。クーラーの効いた部屋の空気が一段と寒くなった気がする。
これはもう一言も間違えられない。
「はい。シロウも一緒でした。シロウは……まだ私の父と話をしています」
「何で!?一人で置いてきたの?!」
リアムが言い終えるか否かというタイミングで、もっともな質問を浴びせる。
だが、「何故」にはリアムも父が何をシロウに話すために引き留めたのか皆目検討がつかず、「一人で置いてきたのか?」という非難に対しては、面目無いとしか返しようがなく、再び言葉を詰まらせ黙るしかなかった。
即答できないリアムにサクラコは苛立ち、攻撃的な匂いを漂わせる。
メイトの姉と敵対するつもりは毛頭無かったが、リアム自身も苛立っていた。父にも群れの統率者にも正面きって反意を示せず、メイトを置いてきた自分の不甲斐なさにも腹が立つ。
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