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12章
7 認められない
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詰め寄るように言うリアムに、唇の端を少しだけ上げたあとすぐに戻して、リチャードは一言、「残念に思っただけだ」と答えた。
その言葉はシロウの胸にぐさりと突き刺さる。
(あぁ……認められていない)
哀しみがシロウの心に広がる。
リアムの腕を振りほどき、この場から立ち去りたかった。
「……何故です」
リアムは唸るような声で静かに、だが怒りを滲ませて尋ねる。
言外に「メイトとの出会いは人狼にとって、何よりかけがえのないことなのに」という気持ちを込めて。
「父親としてはリアムのメイトが見つかったことは心から嬉しい。だが、群れの統率者(アルファ)として、一族経営の企業のトップとしては、複雑な思いなのは事実だ」
そういうと冷静な表情でリアムとシロウを見る。
「群れは俺が率いなくても構わないと思っていました」
リアムの言葉にあまり感情のわからないリチャードの目がぴくりと動く。
「リアム。ただαタイプであれば群れの統率者になれるわけではない。弱い統率者が率いた群れは弱くなる。弱い統率者は群れの仲間を守れない。それは群れ全体を不幸にする」
そう言った後、真っ直ぐにリアムの目を見て話を続ける。
「αタイプの人狼なら誰でも良いわけではない。ましてや、自分の身内、血族だ
からといって、無条件に群れを継がせるわけではない。群れの統率者はそれに相応しい者がなるのだ」
「なら!なおさら俺である必要は無いじゃ無いですか。ノエルではダメなのですか?俺は……父さんが俺にこの群れのあとを継がせるとは思っていなかった」
肩をすくめて答えるリアムにノエルが「俺に振るなよ。俺は日本で櫻子と暮らす」と被せる。
「ずっと日本のトップにいるわけにはいかないだろ、お前だって。いずれこっちに戻って叔父さんの後を継いで、インターパシフィックグループのトップになる訳だし」
リアムの言葉にシロウは耳を疑った。
(ノエルがインターパシフィックのトップ?今も日本代表だって??ただのホテルマンだと思っていたのは俺だけ?姉さんは知ってるの?)
群れの話はシロウには正直なところよくわからない。
群れを率いる統率者がいることや、αやβといった人狼のタイプがあることはレナートから聞いていたが、それがどういうもので、何をしているのか実感を伴って理解はしていない。
そんな群れの事情に加えて、初めて聞くリアムやノエルの仕事の話。
置いてけぼりの会話がより一層シロウから遠くなる。最早どこから突っ込んでいいかもわからない。ただ、この雰囲気にシロウは自分がツッコミを入れられるとも思わなかったので、成り行きを黙って聞いていることしか出来ない。
「今まで事業や群れのトップとなるための良い経験になるだろうと、お前の好きにさせていたが、メイトも手に入れたんだ。少しは責任を果たしなさい」
リアムとノエルの会話は無視して、リアムの父が話を続ける。
「私はシロウをメイトとしてそばに置くことは否定しない。メイトは人狼にとってかけがえのない唯一無二の存在だ。群れもお前の後に誰が継ぐかまでは口出しはしない。だが、一族で経営する事業はお前の血を継いだ子供に任せたい」
それはリアムとシロウにはあんまりな言葉だった。
人狼の群れとしてはシロウを認める。だが、公の伴侶としては女性のパートナーと結婚するか、あるいはそうでなくても女性と子供を作れとリアムに言っているのだ。
(あぁ……好きなだけでは駄目なんだ)
その言葉はシロウの胸にぐさりと突き刺さる。
(あぁ……認められていない)
哀しみがシロウの心に広がる。
リアムの腕を振りほどき、この場から立ち去りたかった。
「……何故です」
リアムは唸るような声で静かに、だが怒りを滲ませて尋ねる。
言外に「メイトとの出会いは人狼にとって、何よりかけがえのないことなのに」という気持ちを込めて。
「父親としてはリアムのメイトが見つかったことは心から嬉しい。だが、群れの統率者(アルファ)として、一族経営の企業のトップとしては、複雑な思いなのは事実だ」
そういうと冷静な表情でリアムとシロウを見る。
「群れは俺が率いなくても構わないと思っていました」
リアムの言葉にあまり感情のわからないリチャードの目がぴくりと動く。
「リアム。ただαタイプであれば群れの統率者になれるわけではない。弱い統率者が率いた群れは弱くなる。弱い統率者は群れの仲間を守れない。それは群れ全体を不幸にする」
そう言った後、真っ直ぐにリアムの目を見て話を続ける。
「αタイプの人狼なら誰でも良いわけではない。ましてや、自分の身内、血族だ
からといって、無条件に群れを継がせるわけではない。群れの統率者はそれに相応しい者がなるのだ」
「なら!なおさら俺である必要は無いじゃ無いですか。ノエルではダメなのですか?俺は……父さんが俺にこの群れのあとを継がせるとは思っていなかった」
肩をすくめて答えるリアムにノエルが「俺に振るなよ。俺は日本で櫻子と暮らす」と被せる。
「ずっと日本のトップにいるわけにはいかないだろ、お前だって。いずれこっちに戻って叔父さんの後を継いで、インターパシフィックグループのトップになる訳だし」
リアムの言葉にシロウは耳を疑った。
(ノエルがインターパシフィックのトップ?今も日本代表だって??ただのホテルマンだと思っていたのは俺だけ?姉さんは知ってるの?)
群れの話はシロウには正直なところよくわからない。
群れを率いる統率者がいることや、αやβといった人狼のタイプがあることはレナートから聞いていたが、それがどういうもので、何をしているのか実感を伴って理解はしていない。
そんな群れの事情に加えて、初めて聞くリアムやノエルの仕事の話。
置いてけぼりの会話がより一層シロウから遠くなる。最早どこから突っ込んでいいかもわからない。ただ、この雰囲気にシロウは自分がツッコミを入れられるとも思わなかったので、成り行きを黙って聞いていることしか出来ない。
「今まで事業や群れのトップとなるための良い経験になるだろうと、お前の好きにさせていたが、メイトも手に入れたんだ。少しは責任を果たしなさい」
リアムとノエルの会話は無視して、リアムの父が話を続ける。
「私はシロウをメイトとしてそばに置くことは否定しない。メイトは人狼にとってかけがえのない唯一無二の存在だ。群れもお前の後に誰が継ぐかまでは口出しはしない。だが、一族で経営する事業はお前の血を継いだ子供に任せたい」
それはリアムとシロウにはあんまりな言葉だった。
人狼の群れとしてはシロウを認める。だが、公の伴侶としては女性のパートナーと結婚するか、あるいはそうでなくても女性と子供を作れとリアムに言っているのだ。
(あぁ……好きなだけでは駄目なんだ)
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