狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

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11章

4ノエルの父

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 シロウの視線に気づいたリアムは「俺たちも会場に移動しよう」と言う。
(紹介はしてもらえない……よな)
 シロウには初めて出来た恋人に親を紹介してもらえなかったことを悲しむべきか、それが普通のことなのかわからない。だが、胸がツキリと小さく痛んだ。先程向けられた視線も歓迎では無かったのかもしれないと、気持ちが沈む。
 
「シロウ君」
 リアムとその場を去ろうとした時、シロウに呼びかける人がいた。この場にノエル以外にも自分を知る人物がいるのか不思議に思いつつ、呼びかけられた方へ顔を向けると、そこにはリアムの父と同世代の男性が立っていた。
「あ……!」
 見覚えのある顔に思わず声が漏れる。そこには姉の櫻子が婚約者のノエルと一緒にビデオチャットをしていた相手の一人、ノエルの父が立っていた。リアムとノエルが従兄弟なら、ノエルの父親がこの場にいてもおかしくはないだろう。
「こんにちは!」
 最敬礼のお辞儀をしながら、トンチンカンな挨拶をして、慌てて「こんばんは」と言い直す。
 シロウは再び軽いパニックに陥っていた。
 顔を上げると目に入った顔はリアムの父親に面差しが似ている。こうして隣に立たれると、纏う雰囲気もあいまって、この二人が兄弟であることが明白なくらいには似ていた。
 だが、ノエルとリアムがあまりにも似ていないため、まさかノエルの父親がリアムに似ているなんてシロウは思ってもいなかった。それにシロウは姉越しのチャット画面や写真でしか見たことはなく、直接話したことは無かった。わからなくても当然だとシロウは自分を納得させた。
 
「こうして話すのは初めてだね。驚いたよ、姉弟揃ってこの群れと絆を結ぶなんて」
 驚いたのはシロウの方だった。
ノエルはリアムとシロウがメイトだと知らなかった。
 何故この人は知っているのか……。
「あの……えっと……」
 どう答えたら良いかわからずに横のリアムを見上げるとリアムも驚いた顔をしている。
「叔父さん、なんで……」
「それは、もちろん。群れの副官(ベータ)であり、君の叔父だからだよ」
「何を当たり前なことを」という顔をして、「メイトの絆、おめでとう。リアム」と笑顔で右手を差し出す。
「ありがとうございます……!」
 多少困惑した声に、それでも嬉しさを滲ませてリアムが礼を言いながら、その右手を取った。
 額面通りにその表情と言葉を受けとって良いものかわからない。だが、ノエルの父には拒否されていない気がして、シロウは安堵する。
「そろそろ時間だよ。とりあえず、君のお父さんが言った通り、詳しくは明日──だ」
二人は軽いハグを交わして、体を離す。その雰囲気からは二人が親しい間柄であることがうかがえた。
「シロウ君、こっちの仏頂面は明日紹介するよ」
 そう言って、隣のリアムの父を立てた親指で差しながら、シロウにウィンクをする。
 その反応もどう受け取って良いかわからず、シロウは曖昧に軽く頷くしかなかった。

 
 リアムの父、ノエルの父、そしてリアムと連れだって、集まりの会場へと移動する。
 会場の入口にさしかかり、中を伺い見るとそこはまさにパーティにふさわしい大広間だった。高い天井の中央からはエントランスホールに吊るされたものより大きなシャンデリアが煌めき、クリスタルに反射した光が華やかに照らしていた。
 「ちょっとした身内の集まり」と言って連れてこられたはずが「ちょっと」どころではなく、人生で一度も経験したことがないような立派なパーティだった。このような華やかな集まりに参加したことがないシロウは、気後れして、会場の入り口で立ち止まってその場を眺める。

 パーティと言ったら華燭の典くらいしか想像も出来ないシロウにはリアムがこれを本気で「ちょっとした集まり」といったのかとあきれていた。正装を用意していたところを鑑みるにリアムはシロウを連れて来るためにあえてそのような言い方をしたのだろう。
 心の準備のためにも何の目的の集まりくらいかは言って欲しかったとリアムの後ろ姿を恨めしく見た。
 

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