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狼の憂鬱 番外編
二人の憂鬱 sideジェイムズ3
しおりを挟む「ようこそいらっしゃい。入って」
現れたリアム氏に促されて中に入る。
呼び鈴を押す緊張感にさらされることはなかったが、逆に心の準備をするより前に部屋の中へと招かれる。
だが、人生で訪れる機会はおそらく無いだろうという、超高級ホテルのペントハウススイートにジェイムズは少々好奇心がそそられていた。
中に入ると、ホテルの部屋のはずなのにまず廊下が長い。
(やばい!!)
案内された先のリビングは広く開けていて、正面の二面の窓からはロサンゼルスの街を眼下に一望できる。その大きな窓から入る明るい陽射しに照らされた部屋の中は、前に来た夜の薄暗さでは気づかなかったが豪華のひとことに尽きた。
ソファの前に佇むアジア系の男性が一人。
レナートから人間の姿のシロウの詳細をジェイムズは聞いていなかった。
(彼がシロウさんかな?)
リアムのメイトと聞いていたので、ジェイムズはシロウがリアムと同じくらいの年齢、自分より歳上だと思っていたが、案外年は近いかもしれないと少し気持ちが楽になる。
(仲良くなれるかな)
年上の人にものを教えるのは少し気が引けると思っていたが、歳が近いなら友人として人狼のいろはを教えられる。ジェイムズにも願ったりだ。
「はじめまして、大神獅郎です」
丁寧で流暢な英語で挨拶される。
「ジェイムズ・マーフィーです!二度目まして」
あっと気づいて、シロウは思い出した。狼のまま戻れなくなった自分を探してくれていた男の子だと。
「すみません!その節はありがとうございました……」
「いえいえ、大したことしてないです」
「そんな!マーフィーさんがいなかったらどうなっていたことか……」
両手を前にばたばたと振りつつ、シロウは顔を赤くして慌てている。
「ジェイムズって呼んでください」
「じゃあ、俺のこともシロウと」
そんなほのぼのした自己紹介を二人で行なっていると、後ろからα特有の威圧感をジェイムズは感じた。
「来てくれてありがとう。早速自己紹介しているようだけど、俺のメイトのシロウだ」
なぜか軽く牽制される。
「レナートから聞いていると思うがシロウに人狼のコントロールの方法を教えてほしい」
全くもって概要しか聞いていないがそこは突っ込まないでおく。
ジェイムズはその辺は空気の読める大人なのである。
「わかりました」
ちょっとそのオーラを抑えていただけませんかと思いながら、ジェイムズは頷いた。
その日は早速訓練開始とはならず、二時間くらいコーヒーを片手におしゃべりに興じた。と言えば聞こえがいいが、主にリアムが群れの話をしつつ、ジェイムズに対するヒアリング……。普段は何をしているのか、どこに住んでいるのかとか、レナートとの関係とか……。
(なんだか探られているような……?)
一見すると穏やかで、にこやかに話しているが、リアムは横に座るシロウの腰をしっかりと抱きしめ、「これは俺のメイト」と全身でアピールしてくる。
そして、シロウは少し居心地の悪そうな顔をしているが、黙って腰を抱かれたままリアムとジェイムズの会話を静かに聞いていた。
そして、そんな番の姿を少しだけ羨ましく思いつつ、ジェイムズは全身で「無害です」とアピールをする。請われてきたはずなのに、なんともおかしな話だ。
そんなジェイムズの努力のおかげか、「じゃあ、明日からよろしく頼むよ。頻度はどのくらいなら大丈夫かな?」とリアムから右手を差し出される。
自然に明日も来ることが決定したようだが、そこに対しては何も言わず、「昼間ならいつでも大丈夫です」と右手を握り返した。
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