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狼の憂鬱 番外編
二人の憂鬱 side櫻子4
しおりを挟む目の前の男、リアム・ギャラガーは一体何者なのだ。
見た目は俳優かと言われれば納得してしまうほどのハンサムな顔立ち。着ている服はシンプルなジャケットとパンツだが、一目で上等な品だとわかる。
時計は……スマートウォッチ。嫌味がない。
最近はスマートウォッチが流行っており、オーセンティックな時計らしい腕時計をする人は減っている。おかげでしている時計で相手のセンスを押しはかることは出来ない。
(くっ足元も見ておけばよかった……)
値踏みをしていると謗られそうだが、教師としてさまざまな人間と会う櫻子は見た目や持ち物、衣服はその人物を大いに物語ると考えていた。
十中八九、この場所を指定したのはこの男だと櫻子は確信する。
当たり障りのない、これから何を注文するかという話の中で、櫻子はじっくりリアムを観察することにした。
「ミズ オーガミ」
「櫻子で結構です」
「櫻子、何を召し上がりますか?ここは肉料理も魚料理も絶品ですよ。シロウはお肉にする?」
レディファーストのこの国で櫻子にまずメニューを聞くのは当然として、なぜこの男が獅郎のメニューを決めるのか。肉でも魚でもどっちでもいい。それよりも気になる事が多すぎる。
それほど空腹ではない旨を伝えて、オススメのものを頼んでほしいことを伝えると、リアムはメニューをシロウに見せて、甲斐甲斐しくオーダーを決めている。
食事の注文をスマートにスタッフへ告げる姿はこの場の主人がリアムであることを物語っていた。
だが、リアムを注視し過ぎて、これから出てくる食事の注文内容など、櫻子の耳には何一つ入ってきていない。
「いつアメリカに着いたのですか?」
運ばれてきた食事をしながら、櫻子に話をふる。会話もごく自然で初対面の相手と話す機会が多い人物なのだろうと櫻子は思う。
「今日です。着いてすぐにこちらに参りました」
「それは忙しないことになってしまって、申し訳ない」
「いえ、この時間に合わせて便を選びましたので。日本は休みが短いですから」
話し方も綺麗で丁寧。物腰も柔らかく、身なりも上品。食事のマナーも完璧。
上流階級に所属する人種だということは疑う余地も無さそうだ。
本当にこの人物は何者で、どうして獅郎のことを助けて、今もなお面倒を見ているのだろう。
食事も半ばを過ぎたが、角の立たないふわっとした会話が続き、一向に自身の話を始めない。
(それもそうだ。水を向けられる前に自分語りを始めるような礼儀知らずではない。ということね)
ならば確信を!と櫻子は直球を投げる。
「ところで、リアムさんは普段は何をなさっているのですか?お仕事は?」
向かい合うリアムが「きたか」という顔をするが、身構える様子はない。
「会社をいくつか経営しています。多くはそれほど大きくない、いわゆるベンチャー企業と言った感じです。他にも大学や他のシーズベンチャーに個人で投資したり……ですね」
なるほど。金持ちだ。
本物の金持ちである。ベンチャーの社長だけなら、ぽっとでの小さな会社ということもあるだろう。だが、自身の会社以外のベンチャーに投資が出来る個人投資家となると話は別だ。エンジェル投資家はかなりまとまった資産を持っていないと難しい。
獅郎とこの男、普通に考えたら接点がなさ過ぎるだろう。
なぜこのような人が獅郎を助けたのか。
偶然に、目の前で倒れて?そんな小説のような話があるのだろうか。
「獅郎とは大学で会ったとおっしゃっていましたが……」
「シロウの行く予定の研究室の教授とも、一緒に会社をやっておりまして。たまたま同じ日に大学に。そしたら目の前でシロウが倒れたものですから、そのまま介抱したのです。異国の地で一人と聞きまして、また何かあったら心配だろうと、落ち着くまで面倒を見させて欲しいと言いました」
おかしなところは無いように思う。偶然なのは研究室で関係があるということだけ、あとはその後の必然のように語られた。
(獅郎のこれから通う研究室の先生と知り合い……。ならば、紹介したノエルはこの人を知っているのだろうか)
今度聞いてみようと櫻子は頭の中でメモをした。
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