狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

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狼の憂鬱 番外編

二人の憂鬱 side櫻子3

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 獅郎からランチにと指定された場所はノエルの勤めるホテルグループの一つだった。

 そのホテルは世界的にも有名な「超」がつく高級ホテルで、日本では何度かノエルに連れられて滞在したり、レストランで食事をしたことはあったが、そのたびに気後れする。
 ノエルが言う「従業員だからさ……、ね?」という言葉に自分を納得させて付いて行っていたが、自分一人では高すぎて行く気がしない。ランチならあるいは……とは思うものの、それでも高いだろう。

 なぜ獅郎はそんなところを昼食場所に?と櫻子は少し疑問に思う。
 「ちょっと気軽にランチ」と思うには少々敷居が高い。だが、獅郎もノエルが働いているホテルのグループだから、もしかしたらそこにしたのかもしれない。きっと、「少しでも知っている場所がいいかもしれない」くらいの気持ちでそこにしたのだろう。

 面会場所に若干の疑問をもちつつも、空港からタクシーに乗ってホテルに向かう。車を降りて目の前にすると、やはり思った通りの高級ホテルの佇まいに気後れした。

 重い回転扉を押して、入口を入るとベルスタッフが「チェックインでしたらこちらへ」とホスピタリティ満点に案内をしてくれる。
 そりゃ、スーツケース片手のアジア人が入ってきたら、そう思うに違いない。
「ありがとうございます。チェックインではなく、レストランに行きたいのですが」と、こちらの希望を伝えれば、これまた丁寧に店の前まで案内してくれた。
 
 目的のレストランに着き、ベルスタッフからレストランのスタッフへと引き渡された。すると、奇妙なことにスタッフは櫻子が名前も、予約の有無も、待ち合わせであることも告げる前に「こちらです」と席まで案内してくれる。
 何だろう……相当なVIPしかこんな扱いは受けない。
 櫻子の頭に人違いではないかという考えがよぎる。アメリカで知らない人の席に待ち合わせとして通されるのは気まずすぎるだろう。
 どのタイミングでスタッフに間違いではないかと指摘するべきか、考えながら歩いている間に奥まった個室へと案内された。
 しかし、通された個室の奥には後ろ姿の獅郎が見え、スタッフの間違いではないことがわかる。だが、それはそれでいくらノエルの勤め先の系列とはいえ、獅郎がこんな高級ホテルのレストランの、しかも個室で食事をすることがやはり櫻子には想像が出来ず訝しむ。
 ふと獅郎の隣に目を向けると、かなり体格の良い見事なブロンドをした男が座っていた。

(この男が獅郎を保護した人かしら?)

 獅郎が予約したと思っていたが、この人がこの席を予約したのだろうか……。
 ますます怪しい……。どういう人物なのだろう。入るでもなくしげしげと二人の後ろ姿を眺めて、櫻子はしばし思索にふけった。

「マム、どうぞお席へ」
 入口に立ったまま中を眺めて一向に入ろうとしない櫻子に、痺れを切らしたスタッフが声をかける。
「あ、はい」
 そのスタッフの声に、櫻子が到着したと気づいた獅郎が席を立ち、近づいてきた。
「姉さん!久し……ぶり、でもないか?来てくれてありがとう」
 獅郎の明るい顔に少しだけ気持ちが緩み、安堵が胸に広がる。
 顔色もいい、痩せた感じもしない。
 トラブルに遭ってはいたが元気に過ごしていたようだ。

「シロウ」
 先程まで獅郎の隣に座っていた男も一緒に席を立って近づいてきていた。正面を向いた男は歳の頃は自分と同じくらいだが、ハッとするほどの美丈夫だった。
「初めまして、リアム・ギャラガーです。よろしく」
 美しいどこの訛りもない英語で挨拶をしたリアム何某は、左手を獅郎の肩に回し右手を差し出してくる。

(え、何?その肩に回された左手。え、え?獅郎もなんで黙って肩抱かれてるの??)

 目の前の二人の距離感に面を喰らい、一瞬挨拶を返すのが遅くなる。
「……あ、失礼。大神櫻子です。お電話ではお話ししておりましたが、お会いするのは初めてですね。獅郎の姉になります」
 「どうぞ」と促されて勧められた席はリアムの前の席。そして、獅郎は当然のようにリアムの左に座らされている。

(え?なんで?獅郎は私の隣じゃないの?)

 我が物顔で獅郎の隣に座る男に櫻子は若干イラッとした。

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