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10章
7 騙された?
しおりを挟むふと、自分がリアムに言われるままに普段着の着替えしか持って来ていないことに気づき、青くなる。
今更、まともな服など到底用意できない。
だが、シロウはそこで「パーティに出られるような服もないし、部屋で大人しくしている」という最高の口実ができたのではないかと内心ガッツポーズを決めた。
「あの、リアムさん、俺服もないし、部屋で待っています」
いきなり何を言い出したのかと、本から目を上げたリアムと視線が合う。
「大丈夫だから」
何が大丈夫なのだろう。ジーパンにTシャツで参加するのだろうか。
外出に浮かれていないで、もっと詳細を確認すれば良かったと心の中のガッツポーズの手をゆっくり下ろして後悔した。
リアムは立ち上がるとバスルームの横の扉に消える。
シロウは視線でリアムを追い、「はて、あの扉はなにか」と思った。
間も無くリアムがスーツを片手に扉から出て来た。
「それは……」
サイズ的にリアムものではないことは明白だった。ということはシロウのものだろう。
リアムが微笑みながらスーツを片手に近寄ってくる。シロウは座っているソファから立ち上がって逃げ出したくなった。
「シロウのスーツだよ」
そう言って差し出されたスーツは見るからに高そうで、シロウは素直に喜べない。
近づくにつれ、シロウの全く嬉しそうではない表情にリアムは気づいた。
今まで、プレゼントを渡して喜ばれなかったことがなかったリアムは複雑な表情をする。考えてみれば当然だ。これは騙し討ちにして出席させるパーティの付属品に過ぎないのだ。プレゼントというのも烏滸がましい。
「着てくれない?」
憐れっぽく聞きながら、手に持つスーツをシロウに差し出す。
顔が良い──!
正面から見つめられ、シロウはリアムの顔面の破壊力をもろに受けた。シロウは早々に絆されかけて、いやいやと心の中で自分を嗜める。
「着れません……」
「オーダーじゃないから、体にピッタリとはいかないけど、サイズはきちんと着られる筈だよ」
そうではない。サイズの話で着られないということではない。シロウはもっとはっきり伝えるべきだと「そんな……貰えません」と言った。
「そんなこと言わないで」
リアムが懇願するが、シロウも困惑した。
リアムの手にあるスーツはおそらく高いものだろう。そんなものをおいそれと貰うわけにはいかないし、受け取るべきではない。
かたや、ここでそれを拒否したところで、シロウは今晩着る服がないことをどうしようもないとも思う。
既製品とはいえシロウの体型に合うように調整されている服だ。自分が着なければゴミになってしまうに違いない。
悩んだ挙句、シロウは観念して渋々リアムからスーツを受け取った。
実家──、パーティ──、スーツ──。
聞かなかったシロウが悪いのか、言わなかったリアムが悪いのか。
別にどちらも悪くない。
少しだけリアムがシロウより上手なだけだった。
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