狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

文字の大きさ
上 下
64 / 146
10章

5 実家とは…1

しおりを挟む
5月11日(水)

『clover_fieldさんがライブ配信を開始しました。リアルタイムで視聴しよう!』

 待ち望んでいた通知が、スマホの画面に表示されたのを確認し、画面の上の部分にあらわれた通知バーをタップする。
 四・七インチのディスプレイでは、彼女が信奉していると言っても良い、ひとつ年上の女子が微笑んでいた。

「はぁ~、ヨツバちゃん、今日も可愛いべな~」

 そんな独り言をつぶやくと、画面の中の白草四葉が笑顔で語りだす。

「みんな、おはよう! クローバー・フィールドの白草四葉です。『メイクとヘアで大変身! 隠れた魅力を引き出して、いままでの自分から変身ちゃおう!』が合い言葉!」

「わたしは、人間にとって、いちばん大事なのは、中身だと思う。でも、他人が最初に見るのは、やっぱり外見なのよね(苦笑)」

昨夜ゆうべは、美容に大切な八時間睡眠ができなかった……勉強と……放課後に、学校でちょっと刺激的なことがあったから、気持ちが落ち着かなかったんだ」

「だから――――――今朝は、いつもと違うルーティンをしようと思ってるの!……って、スゴイ! もう、こんなにコメントと質問が来ちゃった」

 スマートフォンの画面の中には、次々に視聴者からのコメントや質問が表示される。

 ribbon_cat1101:おはよう! ヨツバちゃん今日も楽しみにしてるよ。

   golden_pudding0416:今日は、どんなルーティンを紹介してくれるの?

 chocolat_rollO9:夜ふかしした次の朝のモーニング・ルーティンを教えて

「それじゃ、さっそく、答えて行くね! まずは――――――chocolatショコラ_rollO9ロールオーナインさん、うん! カワイイ名前ね! 『夜ふかしした次の朝のモーニング・ルーティンを教えて』」

「とっても、良い質問ね、chocolatショコラ! このバリー・ベノムのリバイバル・アイ・パッチは、目の隈に効果バツグン!」

#バリー・ベノム
#リバイバル・アイ・パッチ

「コーヒーを飲んあとは、お肌が水分不足気味。だから、アノのグロウオイルを塗るの! お肌がツヤツヤになるよ。それから、クリームブラシをちょこっと」

#アノ
#グロウオイル

「つぎは、snowスノー_fieldフィールドちゃん! いつも、ありがとう。『明日は、証明写真の撮影があるのに、ニキビができてしまったべ……ヨツバちゃんなら、どうやって対処するか教えてほしいべ』」

「!」

 snow_fieldの名前が呼ばれた瞬間、彼女は、スマホを両手で固く握りしめて、つぶやく。

「今日も、わたすのコメントを拾ってくれた……ありがとう、ヨツバちゃん……」

 彼女が、両手で握ったスマホを胸のあたりに押し当てながら、感慨にふけっている間にも、画面の中のインフルエンサーは、語り続ける。

「ニキビの対処法ルールその1! 絶対に指で潰すのはダメ! 対処法ルールその2! どうしても、早く治したい場合は、トイレット・ペーパーにハミガキ粉を染み込ませて、ニキビの部分に当ててみて。そのまま、一晩寝たあと、翌朝にぬるま湯で洗い流すとバッチリだよ! ただし、ハミガキ粉は、ホワイトニング成分の入っていないものと白一色のクリーム状のものを選んでね」

 自分の質問に答えているヨツバの言葉を聞き漏らすまいと、再びスマホの画面に目を向けた彼女は、食い入るように、自身が、カリスマと崇める相手の姿を見つめる。
 画面の向こうの彼女は、ライブ配信の締めに入っている。

「――――――と、いうことで、今朝のライブ配信は、ここまで! 今夜のライブでは、初心者向けのフットネイルを紹介させてもらうね。シールタイプだから、とっても簡単にフィットさせられるし……なにより、女子だけなく、男の子の目も釘付けだった、ってことをわたし自身が体験しちゃったから……今夜の配信も楽しみにしていてね。それじゃ、また、夜に! バイバイ!」

(はぁ~。今日もありがとう、ヨツバちゃん。こんなヒトと同じ学校に通えているなんて奇跡だべ……)

 クローバー・フィールドの配信が終わったあとも、余韻にひたりながら、再びスマホを両手で抱きしめて、胸にあてた。
 そうして、彼女は決意を固める。

(ヨツバちゃんが関わっている広報部に、わたすも入部するべ……)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...