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9章
1 「人」の姿
しおりを挟むやっと──やっと戻れた。
初めて自分の意思で狼から人の姿に戻れた。
嬉しさからか、安堵からか、シロウの目から堪えきれない感情と共に涙が溢れる。零れた水粒は頬に一筋の線を描き、窓から差し込む光を反射して煌めいた。
目の前のシロウの姿にリアムはもう気持ちを抑えられなかった。
両腕で抱きしめるとそのまま唇を塞ぎ、舌を差し込んで、思うままに激しく口付けをする。
やっと人間に戻れた──と喜び落ち着く間も無く、いきなり熱いリアムの舌に翻弄され、シロウは目を白黒させた。
驚きはしたものの、抗うほどに嫌なわけでない。むしろ、抑えきれない気持ちをぶつけられるようなキスに自分が求められているように感じられて嬉しかった。
シロウはおずおずと舌を受け入れ、自身の舌を健気に差し出す。
シロウの思っても見なかった反応に、リアムの本能は理性を凌駕し、血が全身を駆け巡る。リアムの股間は張り詰め、再び石のように固くなっていた。
片手をシロウの後頭部に回し、かぶりつくように口付けを深めるとシロウから甘く濃厚な香りが匂い立つ。
リアムがシロウの舌を絡めてきつく吸い上げるとシロウも身体を震わせ、必死にリアムにしがみついた。
「んぅ……ふっ……ん……」
シロウの口から堪えきれない喘ぎが漏れる。
午前の明るい日の光が大きく切り取られた窓から差し込む静寂の中、およそ似つかわしくない、湿った水音が部屋に響く。
その艶めかしく倒錯的な状況に、シロウは目眩がした。
リアムはなおも執拗に舌を絡めて、シロウの口腔を貪ると、一際じゅるりと大きな音を立てて唾液を吸い上げ、二人を欲情に追い立てた。
肺が空気を求めて軋む。シロウは息も絶え絶えにリアムに縋り付く。息を吸おうと開けた口からは漏れ出る喘ぎと共に唾液が伝い、その一滴すら漏らすまいと、リアムの肉厚な舌がシロウの口の端を舐め上げた。
甘い甘い二人の香りが混ざりあって部屋の中を満たす。
その匂いに欲情を煽られたのか、恥ずかしさからか、シロウは肩まで赤くなった。
狼の目では染まった紅はわからなかったが、色を濃くした肌はシロウの清廉さと比べて、艶めかしい。リアムはするりとその滑らかな肌に手を這わす。
リアムはシロウの身体中を触って、その存在を確かめたかった。
シロウの中心も兆しを見せて立ち上がり、股の間の割れ目から、じわりと滲むものを感じ、ぶるっと身を震えさせた。
何も纏わぬシロウには芯を固くした己を隠す物が何もない。自然とリアムに抱きついていた手を離し、身体をよじって隠そうとしたが、その行動はかえってリアムにそのことを気づかせた。
リアムは素早くシロウを抱き上げ、そのままベッドに向かって歩き出す。
「あっ!待って……待ってください……」
これ以上ない据え膳の何を待てというのか?とリアムは意に介さず、スタスタと歩みを進める。
「あの……あ、待って……」
シロウはなおも言い立てる。
リアムはシロウの甘い欲情の匂いが薄れて、困惑と焦りの匂いを感じ取る。
リアムは仕方なしに抱えたシロウをベッドに下ろすと、そのまま組み敷くではなく、座らせた。
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