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8章
2 お風呂1
しおりを挟むシロウは風呂が好きだ。
湯船につかってゆっくりすると、汚れと一緒に一日の疲れや、嫌なことが流れ落ちて行くようで、気分もスッキリして、頭の中も整理される気がするから。
しかしどうしたことか、今はバスタブにいっぱいに張られた湯を見ると、なんだか嫌な気持ちになる。タイルの上で、もじもじしていると、隣のリアムがおもむろに着ていたシャツを脱ぎ始めた。
狼ながらに、ギョッとして見上げる。完全に覚醒していなかった頭がばっちり覚めた。
タイルの上を後ずさる。
その爪のチャリチャリという音にリアムが気づき、「どうした?」と靴を脱いだ裸足の足で、ペタペタと近づいてくる。
そのまま、後ずさり続けると、入口のドアに阻まれてそれ以上後ろには下がれず、腰からぺたんと座り込んだ。
「お風呂ははいりたくない?」
優しく問われたシロウは「お風呂は好き、でも、なんか水がいっぱいなのが不安」と伝えたいが、言葉にならずに、「うぅーーー」と唸る。
「狼って風呂嫌いなのかな……」
そっちの方が狼歴が長いだろ!とシロウは心の中で呟いた。
「困ったな。俺、狼の時に風呂入ったことないからわかんないな……それとも、シロウはそもそもお風呂嫌い?」
シロウの心を読んだようなリアムの発言に、シロウは狼の姿のまま口をあんぐりと開けた。
「ん?その顔はなんだ?」
確かにその通りだ。狼の姿でどうやって風呂に入る?
自分で身体は洗えない。そうなら、こうやって誰かに風呂に入れてもらわない限りは狼のままで風呂に入ることはないだろう。狼の癖に狼の性質もわからないなんて!とシロウは狼の顔で精一杯呆れた表情を作る。
リアムはシロウの呆れ顔を無視して「シロウはお風呂嫌いなわけではなさそうだね」と笑った。
「でも、狼のシロウはお風呂が苦手なようだ。やめておくかい?」
せっかく溜めてくれたバスタブのお湯。
本来なら好きな温かいお風呂。
だが、今はそんなに喜んで入りたい気持ちになれないのが悔しい。
それにシロウ自身も昨日は汚い路地裏を走り回り、茂みに身を潜めており、さぞかし汚れているだろう自覚はあった。心なしか強く獣臭が漂っている気もしてくる。
汚れた獣の毛皮のまま、あの綺麗に整えられたベッドで一晩過ごしたかと思うと居た堪れない気持ちになった。
汚い、お風呂に入ってさっぱりしたい、でも、お風呂入りたくない、でも汚いままでもいたくない。
ぐるぐると頭の中で葛藤する。
「無理にはいいんだ、シロウは何も気にしないで。思うままに過ごしていいからね」
子供をあやすように、優しく声をかけられる。
風呂……風呂……お湯……いっぱい……
──えーい、ままよ!!
シロウは意を決して、バスタブに飛び込んだ。
ばしゃーーん!という音とともに、四方八方へ盛大に水が飛び散る。
「シロウ!?」
驚くリアムの声が聞こえた。
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