40 / 146
7章
6 帰還2
しおりを挟む戻ったリアムはキッチンへ立ち寄り、コーヒーを入れてリビングに戻る。
「シロウはどこで狼に変わったんだろう?」
「それはわからないな。ただ、アパートの近くではなさそうだ。」
そう言って、コーヒーを受け取ったレナートに視線をやるとレナートは隣に座るジェイムズに目配せをした。
「そうなんっす。あまり近くに寄って逃げられたら困ると思って、少し距離を空けて話してはいたんですが、彼の周りには服とか、荷物の類いが落ちてなかったんですよ」
話し方や雰囲気からは到底想像つかないが、ジェイムズという男はなかなか気遣いができる男のようだ。
「素晴らしいな。」
リアムは正直な感嘆を漏らす。
「あざっす」
そう、軽く答えたジェイムズをレナートが小突く。
「『ありがとうございます。』だろ。言葉使いはきちんとしなさい。」
そう言われたジェイムズは少し居住いを正して、「ありがとうございます。光栄です。」と丁寧に言った。
「いや、礼を言うのはこちらだ。本当にありがとう。シロウを見つけられずに途方にくれていたんだ。」
リアムは礼をしたいと申し出たが、それはレナートによって却下され、彼がリアムとレナートと同じ群れに所属している学生だということがわかった。
大学は同じだが、レナートの研究室の学生ではなく、別の学部で学んでいるが、群れのよしみで、レナートが面倒をみているそうだ。
再び、シロウの状況の話に戻り、本人が人間に戻って説明をしてくれない限りは埒があかないという結論になり、もう遅いのでその場は解散する流れとなった。
見送りにドア口に立ったリアムにレナートが声を抑えて、話しかける。
「とにかく、落ち着かせて、人間に戻してやれよ。あと、あまり問い詰めるな?昼間話したことが原因ならなにか思い詰めて……だったんだろうし」
「あぁ……わかってる」
「ジェイムズを置いて行くか?あいつに人間に戻る方法を説明させてもいいが……」
なに、今までリアムが教えていたことだ。ここでレナートでもなく、いきなりジェイムズを推薦した理由はリアムにはわからなかったが、丁重に断った。
ジェイムズがなにか人狼変身のエキスパートでない限り、リアムとそう変わらないはずだし、何より人見知りのシロウが見知らぬ青年に直ぐに心を開き、その教えに従えるとも思えなかった。
二人を見送ったドアを閉めると、リアムはキッチン横のバーカウンターから、酒を取り出して、グラスに注ぐ。
クイッとグラスの琥珀色を飲み込むと、昼から何も食べていなかった胃にアルコールが染み渡った。
シロウは戻ってきた。
シロウが不在の間の不安や心配はいくらかおさまっていたが、夕方からの一連の騒動で昂ったリアムの神経は落ち着く気配を見せなかった。
──熱いシャワーでも浴びて、俺も休もう。
本当は熱いお湯に入れてシロウを洗ってあげたかった。
狼の姿でもいいから、抱きしめてその腕の中にシロウがいる安心感をえて、眠りにつきたかった。
だが、今日は我慢しよう。再び手の中に戻ってきたことを喜ぼうと思う。
リアムはグラスの中の残りをあおると、気持ちを切り替えるべく、バスルームへと向かった。
10
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)


怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる