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7章
5 帰還1
しおりを挟む幸いなことに、リアムの部屋に繋がるエレベーターは駐車場からペントハウスへの直通のため、狼のシロウを抱えていたところで、誰にも見咎められることはない。
たとえ見つかったとしても、咎められはしないかもしれないが、動物の宿泊は可能を謳っている訳ではない分、何某かの問題はある。
リアムはタオルか何か、シロウを包めるものを持って来ればよかったと思った。だが、出掛けのリアムにそんな余裕は全くなかったので仕方がない。
車を降りたリアムはリアシートからシロウを抱き上げると、辺りの気配と匂いを確認する。
遅い時間なこともあり、辺りには人気ひとけはほぼない。しかし、リアムの帰途を知ったホテルがスタッフを地下に寄越していたようで、どうにかドアマンの目を逸らさなければならなそうだった。
後ろからついてきていたレナートも自身の車を停めて、リアムに近づいてきた。
「レナート、ドアマンの目をそらせないか。その隙に俺がエレベーターまでシロウを連れて行く」
声を顰めて伝えると、レナートは頷き、「わかった。ジェイムズはリアムの横を歩いて、リアムが隠れるように……お前の体格だと、あんまり隠れないな」
「そうっすね。でも、了解です!」
軽い感じで了承の返事をする。
リアムより、幾分背が低く、体格も細身なジェイムズでは、がっしりとして体格のいいリアムを隠す壁の役割はあまり果たせそうにないが、目くらましとなりそうな視線の妨害はないよりあった方がマシだろう。
レナートは一足先を行き、人の良さそうなドアマンの青年に何か話しかけると、ドアの前から移動した。
その隙にリアムとジェイムズはホテルの入り口を入り、一般のエレベーターホールと比べ、豪華な作りになった専用のエレベーターホールへと歩みを進める。
しばらくすると、レナートが近づいてきた匂いがした。
全員がエレベーターに乗り込むと、部屋へと問題なく辿り着けそうな状況に一同の安堵の息が漏れた。
「スパイみたいっすね!」
この状況で軽口を叩けるジェイムズはなかなかの大物かもしれない。
「で、ジェイミーはどうやってシロウを見つけたんだ?」
無事に部屋へと戻った一行は広いリビングに備え付けられたソファへと座って、状況の整理を始めた。
シロウは相変わらず狼の姿のままで、喋れもせず、大人しく尻尾をたらしている。
「夕方行った時はいなかったんですが、やっぱ夜になったら、戻ってくるんじゃないかな?って思って、もう一回見にいったんす」
若者は砕けた調子で話す。
「ギャラガーさんのところに戻ってなかったら、まぁどこに行くかってやっぱり、自分の部屋かな?って。そしたら、人狼の匂いがするんで、レナート教授に連絡したんです」
確かに言われてみればそうだ。
だが、鍵も持っていっていなかったことを知っていた分、自分の部屋に戻る可能性は低いと思い込んでしまった。
まして、狼の姿になってしまっているなどと、リアムは思いもしなかった。
突然街中で狼に変身してしまったシロウのことを考えるとどれほどの恐怖であったか。リアムは胸を痛める。
「じゃあ、君が見つけた時には既に狼の姿だったんだな?」
「そうです。喋れないし、オーガミさんにことも直接知らないから、本当に本人かわからなくて。でも、話しかけたら逃げもせずに大人しくしていたんで」
リアムは再び、茂みに隠れていたシロウの様子を思い出す。狼の姿で誰かに見つかったら、どうなるかわからないと思って、隠れていたのだろう。善意とはいえ、どのような尋ね方をしたかは知らないが、見知らぬ人物から「自分も人狼だ。オーガミか?」と尋ねられた状況にシロウはさぞかし驚き、不安に思ったに違いない。
リアムは足元のシロウを優しく抱き上げて、膝の上に乗せると、ぎゅっと抱きしめた。
「シロウ、おかえり。もう安心していいからな。」
そう声をかけると腕の中のシロウが身じろぎし、「くぅーん」と頼りなげな声を漏らす。
「疲れただろう。狼のままで構わないから今日はもう休もう」
そう言って、リアムは一足先にシロウを部屋に寝かせに行った。
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