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6章
4 焦り2
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レナートの部屋の前まで来ると、リアムはノックもせずに、勢いよく扉を開ける。
大股で部屋の中を進むと「彼に何を言った?」と吠えた。
リアムが狼の姿であったなら、その背中の毛は逆立って、牙を剥いて吠え立てているといった様子だ。
「なんだって?私がなにか吹き込んだとでも思っているのか?」
リアムの無礼な振る舞いに負けじとレナートも声を張り上げた。
レナートは一瞬怒りを覚えたが、二人で怒鳴りあったところで埒があかないと、そこはぐっとこらえて、言葉を続ける。
「私はただただ親切にも、お前が彼に伝えていなかった、人狼の群れについてやら、メイトについてやらを懇切丁寧にご教示申し上げたあげただけだね」
レナートは鼻を慣らし、嫌味たっぷりに言ったが、リアムはその皮肉を無視した。
「それだけで、どうして音信不通になるっていうんだ?!」
リアムは恐慌のあまり我を忘れ、なおもレナートに吠え立てる。
「私が知りたいよ!何をそんなに焦っているんだ?お前らしくない」
そういうと、立ち上がりリアムの隣へと歩み寄り「少し落ち着け」と肩に手を置く。
「だが!」
怒らせていた肩を少し鎮めるが全身から焦りを滲ませたまま、レナートに詰め寄った。
「ここでお前が焦っても何も解決はしないだろう。普段のお前の冷静さを少しはとり戻せよ。」
そういうとレナートはリアムに椅子をすすめる。リアムから離れて部屋のカウンターへとコーヒーを取りに行く。ポットからコーヒーを入れ、カップ越しにリアムを伺った。
一旦、話をさせないように切り上げたことで、リアムの恐慌状態は多少の落ち着きを見せ始めていた。しかし、未だに焦りの匂いを色濃く纏っている。
レナートはコーヒーを入れたカップの片方をリアムに手渡した。
「すまない、ありがとう」
カップを受け取りながら、レナートを見上げる。
このレナートという男は、リアムが出資するべンチャー企業の代表というというビジネスパートナーである前に、地元の群れの仲間だった。リアムの父が統率者アルファをしている群れの副官ベータの息子で、兄弟のいないリアムにとって、幼い頃から兄の様な存在だ。
受け取ったコーヒーを一口のみ、なるべく心を落ち着かせ、理性的なビジネスパーソンの自分を引き出し、状況の整理をしようとする。
「シロウに人狼についての話をしてくれたと言っていたが、何か変わった様子は無かったのか?」
そう再び尋ねたリアムの声は落ち着いたいつもの声だったが、レナートは不安と焦りの匂いを変わらず感じ取っていた。
「そうだ。群れのそれぞれの役割や、メイトなんかについて、それこそ当たり前の基礎知識レベルの話をしただけだ。それにしたって、見た目は確かに幼く見えるが、成人した男だぞ?何をそんなに心配しているんだよ。」
リアム自身も何を焦っているのか、と自分でも思うが、不安が胸をついて止まない。
「まだ、シロウは上手く人狼をコントロール出来ないんだ。もし、街中でパニックになって変身してしまったりしたら……。彼自身の身の危険もあるが、俺たち人狼コミュニティにも大きな問題になる。」
リアムの返答にレナートも眉根を寄せて、思わしげな表情になった。
「確かに……それは厄介なことになるな。」
リアムは「人狼のコントロール」を理由にあげたものの、自分の心配がそれだけではないことはわかっていた。
離れていても感じる、シロウからの拒絶……のような……。このまま探し出せなかったら、今朝まで自分の腕の中にいたシロウがするりと抜け出して何処かへ行ってしまう様な、そんな焦燥感を感じていた。
「それに、今朝車を降ろした時に迎えに来ると伝えたし、納得していたんだ。一人で帰ったりするとは思えない……シロウは携帯と財布以外何も持って出ていないんだ。」
そう言ってリアムは項垂れる。
レナートはふと帰り際のシロウが何処か上の空で何かに気を取られていたことを思い出す。
会話の間のシロウの様子を思い返して、何かおかしなことは、シロウの態度に変化は無かったかを。
人狼のコミュニティのこと、αタイプ、β、Ωといった群れでの役割……。そして、メイトのこと──。
レナートはリアムがシロウに自分のメイトであることを告げていなかった。
(それが何かオーガミ君の中で引っかかったのか?)
「おい、リアム。初めてオーガミ君に会ったのは、私の研究室に彼が挨拶に来た日だったか?」
「そうだ。それがどうかしたか?」
「会った瞬間からメイトだとわかったのか?」
質問の意図がよくわからず、リアムは少し苛ついた。
「シロウとメイトか疑っているのか?」
「いや、そうじゃない。私は初めて会った時、オーガミ君が人狼だとはわからなかった。」
言われてみたら、確かにそうだ。
リアムはシロウが人狼かどうかより先に何かもの凄く惹かれるものを感じて追いかけた。
人狼には雄しかいない。大半の人狼のパートナーは女性なのだ。つまり、人狼かどうかはメイトであることとは何の関係もない。
シロウがたとえ人狼じゃ無かったとしても、リアムがメイトの絆を感じることになんら不自然なことはないのだ。
リアムにはやはり、レナートの会話の意図が掴めずにいた。
「確かに俺も会った時は人狼かどうかより、おそらくメイトの繋がりを感じたから追いかけた。追いかけた先で彼が倒れた後によくよく嗅いだら人狼かと思ったから、お前に電話で聞いたんだ。」
レナートは「ふむ」というと、手を顎に持っていき、何か考え出す。
大股で部屋の中を進むと「彼に何を言った?」と吠えた。
リアムが狼の姿であったなら、その背中の毛は逆立って、牙を剥いて吠え立てているといった様子だ。
「なんだって?私がなにか吹き込んだとでも思っているのか?」
リアムの無礼な振る舞いに負けじとレナートも声を張り上げた。
レナートは一瞬怒りを覚えたが、二人で怒鳴りあったところで埒があかないと、そこはぐっとこらえて、言葉を続ける。
「私はただただ親切にも、お前が彼に伝えていなかった、人狼の群れについてやら、メイトについてやらを懇切丁寧にご教示申し上げたあげただけだね」
レナートは鼻を慣らし、嫌味たっぷりに言ったが、リアムはその皮肉を無視した。
「それだけで、どうして音信不通になるっていうんだ?!」
リアムは恐慌のあまり我を忘れ、なおもレナートに吠え立てる。
「私が知りたいよ!何をそんなに焦っているんだ?お前らしくない」
そういうと、立ち上がりリアムの隣へと歩み寄り「少し落ち着け」と肩に手を置く。
「だが!」
怒らせていた肩を少し鎮めるが全身から焦りを滲ませたまま、レナートに詰め寄った。
「ここでお前が焦っても何も解決はしないだろう。普段のお前の冷静さを少しはとり戻せよ。」
そういうとレナートはリアムに椅子をすすめる。リアムから離れて部屋のカウンターへとコーヒーを取りに行く。ポットからコーヒーを入れ、カップ越しにリアムを伺った。
一旦、話をさせないように切り上げたことで、リアムの恐慌状態は多少の落ち着きを見せ始めていた。しかし、未だに焦りの匂いを色濃く纏っている。
レナートはコーヒーを入れたカップの片方をリアムに手渡した。
「すまない、ありがとう」
カップを受け取りながら、レナートを見上げる。
このレナートという男は、リアムが出資するべンチャー企業の代表というというビジネスパートナーである前に、地元の群れの仲間だった。リアムの父が統率者アルファをしている群れの副官ベータの息子で、兄弟のいないリアムにとって、幼い頃から兄の様な存在だ。
受け取ったコーヒーを一口のみ、なるべく心を落ち着かせ、理性的なビジネスパーソンの自分を引き出し、状況の整理をしようとする。
「シロウに人狼についての話をしてくれたと言っていたが、何か変わった様子は無かったのか?」
そう再び尋ねたリアムの声は落ち着いたいつもの声だったが、レナートは不安と焦りの匂いを変わらず感じ取っていた。
「そうだ。群れのそれぞれの役割や、メイトなんかについて、それこそ当たり前の基礎知識レベルの話をしただけだ。それにしたって、見た目は確かに幼く見えるが、成人した男だぞ?何をそんなに心配しているんだよ。」
リアム自身も何を焦っているのか、と自分でも思うが、不安が胸をついて止まない。
「まだ、シロウは上手く人狼をコントロール出来ないんだ。もし、街中でパニックになって変身してしまったりしたら……。彼自身の身の危険もあるが、俺たち人狼コミュニティにも大きな問題になる。」
リアムの返答にレナートも眉根を寄せて、思わしげな表情になった。
「確かに……それは厄介なことになるな。」
リアムは「人狼のコントロール」を理由にあげたものの、自分の心配がそれだけではないことはわかっていた。
離れていても感じる、シロウからの拒絶……のような……。このまま探し出せなかったら、今朝まで自分の腕の中にいたシロウがするりと抜け出して何処かへ行ってしまう様な、そんな焦燥感を感じていた。
「それに、今朝車を降ろした時に迎えに来ると伝えたし、納得していたんだ。一人で帰ったりするとは思えない……シロウは携帯と財布以外何も持って出ていないんだ。」
そう言ってリアムは項垂れる。
レナートはふと帰り際のシロウが何処か上の空で何かに気を取られていたことを思い出す。
会話の間のシロウの様子を思い返して、何かおかしなことは、シロウの態度に変化は無かったかを。
人狼のコミュニティのこと、αタイプ、β、Ωといった群れでの役割……。そして、メイトのこと──。
レナートはリアムがシロウに自分のメイトであることを告げていなかった。
(それが何かオーガミ君の中で引っかかったのか?)
「おい、リアム。初めてオーガミ君に会ったのは、私の研究室に彼が挨拶に来た日だったか?」
「そうだ。それがどうかしたか?」
「会った瞬間からメイトだとわかったのか?」
質問の意図がよくわからず、リアムは少し苛ついた。
「シロウとメイトか疑っているのか?」
「いや、そうじゃない。私は初めて会った時、オーガミ君が人狼だとはわからなかった。」
言われてみたら、確かにそうだ。
リアムはシロウが人狼かどうかより先に何かもの凄く惹かれるものを感じて追いかけた。
人狼には雄しかいない。大半の人狼のパートナーは女性なのだ。つまり、人狼かどうかはメイトであることとは何の関係もない。
シロウがたとえ人狼じゃ無かったとしても、リアムがメイトの絆を感じることになんら不自然なことはないのだ。
リアムにはやはり、レナートの会話の意図が掴めずにいた。
「確かに俺も会った時は人狼かどうかより、おそらくメイトの繋がりを感じたから追いかけた。追いかけた先で彼が倒れた後によくよく嗅いだら人狼かと思ったから、お前に電話で聞いたんだ。」
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