狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

文字の大きさ
上 下
22 / 146
4章

5 君がほしい3

しおりを挟む


 リアムはぐったりとベッドに沈み込んだシロウの額に張り付いた前髪をかきあげ、キスを落とす。余韻の冷めやらないシロウはそれにすら、ぴくりと身体を震わせた。
「気持ち良かったよ。ありがとう。」
 そういうとリアムは後ろからシロウを抱きしめる。
「リアムは…満足しましたか?」
「あぁ、もちろんだ。」
 そういうとリアムに腕を引かれ、くるりと向き合うように身体を返された。
「シロウは気持ちよかった?」
 気づかないうちに視界に色が戻っている。こちらを覗きこむリアムの美しいブルーの瞳はまだ欲望の色にけぶっていた。


 確かに気持ちよかった。何もかも初めての体験ばかりで戸惑いの方が大きかったが、不快感など欠片もなかった。ただ、気持ちいいか?という直接的な質問に素直に「イエス」と答えることも恥ずかしく、返事に窮し、質問を返す。
「リアムは俺とセックスしたかったのですか?」
 リアムの真剣な眼差しがシロウを見つめる。
「性的な関係だけを持ちたい訳じゃない。君が好きなんだ」

 

 先ほどもそんなことを言われた気がするが、どうしたってリアムのような恵まれた人が自分のような人間を好きになるなんて理解できない。
「貴方のような人に好かれる理由がない」
 そう頑なな返事を返す。

 リアムにこそ自分の魅力を理解していないシロウが不思議だった。
 謙遜しているわけでは無さそうだ。
 こんなに美しく気高い人間がなぜこうも卑屈なのか。
「シロウは素敵な人だよ。」
「…今まで恋人がいたことも、深く付き合いのある人だっていなかった…自分に原因があるから。俺は人から好きになってもらえるような人間じゃない。」

 確かにシロウの人を寄せ付けない頑なな雰囲気は、他人を拒絶しているようで、人と関わりを持たないように自分から仕向けてきたのであろうとこは想像に難くない。深く知り合い、付き合うことで、その後に生じる自身の秘密を知られるかもしれないと恐れる事態よりかは、親しい人を作らないように、他人に気を許さないようにすることを選んできたのだろう。
 リアムはそれは寂しいことだと感じた。
 ーシロウの心の支えになろう。人と関わるたのしさや喜びを感じて貰えるように。
 
 狼は群れの生き物だ。なにか相当な理由がない限りは群れに所属している。そうでない狼は群れから追われたものだ。
 そして狼は群れの仲間を家族のように大事にする。シロウにもその感覚を心から受け入れてほしいと思った。
「好きだよ、シロウ。少しずつでいいから、俺を受け入れて。」
 そう言って、固くシロウを抱きしめる。

──こんなことを聞いてもいいものか……。
 そう思うものの尋ねずにはいられず、口にする。
「シロウは……その……初めてだった?」
 シロウはびくりと肩を震わせると小さな声で呟くように答える。
「俺の男性器は今まで勃起したことはありません。その……もう一つの方も同じく、なんの反応もしたことはなかった」
 エロさも何もない、生物学的な表現で、そもそも兆したことすら無いことを正直に白状する。
 ウブな反応だとは思っていたが、やはり誰とも付き合ったことがない、誰の手も触れていなかったことにリアムは感動した。
 誰も近づけない頑なな態度がこの純潔を守っていたのかと思うとそれはそれとして、嬉しいと思っている自分もいた。
(我ながら自分本位だな……)

「俺の身体変だから。気持ち悪いでしょ。こんな身体していること人に知られたくなかった……」
 悲しみに背を丸めるシロウを抱きしめる。
「変じゃない。少し普通の人とは違うかも知れないが、シロウの個性だ」
「嘘だ!こんな身体…貴方に知られたく無かった……」
 そういうとシロウはくるりとリアムに背を向けた。
「本当だよ。男とか女とかそんなことはどうでもいい。ただ、君が…君だけがいいんだ」
 それがメイトだからだというだけとはリアムには思えなかった。こんなに欲しいと思う相手は今まで出会ったことがなかった。リアムもどうにも抑えがたい気持ちを持て余していた。
「どうかこの気持ちを否定しないでほしい。俺は君に心底惚れている」
 そういうとリアムは唇触れるだけの軽いキスをした。
「風呂を入れてくる。起きれる?何か腹に入れよう」
 そういうとリアムはバスルームへと向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...