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4章
5 君がほしい3
しおりを挟むリアムはぐったりとベッドに沈み込んだシロウの額に張り付いた前髪をかきあげ、キスを落とす。余韻の冷めやらないシロウはそれにすら、ぴくりと身体を震わせた。
「気持ち良かったよ。ありがとう。」
そういうとリアムは後ろからシロウを抱きしめる。
「リアムは…満足しましたか?」
「あぁ、もちろんだ。」
そういうとリアムに腕を引かれ、くるりと向き合うように身体を返された。
「シロウは気持ちよかった?」
気づかないうちに視界に色が戻っている。こちらを覗きこむリアムの美しいブルーの瞳はまだ欲望の色にけぶっていた。
確かに気持ちよかった。何もかも初めての体験ばかりで戸惑いの方が大きかったが、不快感など欠片もなかった。ただ、気持ちいいか?という直接的な質問に素直に「イエス」と答えることも恥ずかしく、返事に窮し、質問を返す。
「リアムは俺とセックスしたかったのですか?」
リアムの真剣な眼差しがシロウを見つめる。
「性的な関係だけを持ちたい訳じゃない。君が好きなんだ」
先ほどもそんなことを言われた気がするが、どうしたってリアムのような恵まれた人が自分のような人間を好きになるなんて理解できない。
「貴方のような人に好かれる理由がない」
そう頑なな返事を返す。
リアムにこそ自分の魅力を理解していないシロウが不思議だった。
謙遜しているわけでは無さそうだ。
こんなに美しく気高い人間がなぜこうも卑屈なのか。
「シロウは素敵な人だよ。」
「…今まで恋人がいたことも、深く付き合いのある人だっていなかった…自分に原因があるから。俺は人から好きになってもらえるような人間じゃない。」
確かにシロウの人を寄せ付けない頑なな雰囲気は、他人を拒絶しているようで、人と関わりを持たないように自分から仕向けてきたのであろうとこは想像に難くない。深く知り合い、付き合うことで、その後に生じる自身の秘密を知られるかもしれないと恐れる事態よりかは、親しい人を作らないように、他人に気を許さないようにすることを選んできたのだろう。
リアムはそれは寂しいことだと感じた。
ーシロウの心の支えになろう。人と関わるたのしさや喜びを感じて貰えるように。
狼は群れの生き物だ。なにか相当な理由がない限りは群れに所属している。そうでない狼は群れから追われたものだ。
そして狼は群れの仲間を家族のように大事にする。シロウにもその感覚を心から受け入れてほしいと思った。
「好きだよ、シロウ。少しずつでいいから、俺を受け入れて。」
そう言って、固くシロウを抱きしめる。
──こんなことを聞いてもいいものか……。
そう思うものの尋ねずにはいられず、口にする。
「シロウは……その……初めてだった?」
シロウはびくりと肩を震わせると小さな声で呟くように答える。
「俺の男性器は今まで勃起したことはありません。その……もう一つの方も同じく、なんの反応もしたことはなかった」
エロさも何もない、生物学的な表現で、そもそも兆したことすら無いことを正直に白状する。
ウブな反応だとは思っていたが、やはり誰とも付き合ったことがない、誰の手も触れていなかったことにリアムは感動した。
誰も近づけない頑なな態度がこの純潔を守っていたのかと思うとそれはそれとして、嬉しいと思っている自分もいた。
(我ながら自分本位だな……)
「俺の身体変だから。気持ち悪いでしょ。こんな身体していること人に知られたくなかった……」
悲しみに背を丸めるシロウを抱きしめる。
「変じゃない。少し普通の人とは違うかも知れないが、シロウの個性だ」
「嘘だ!こんな身体…貴方に知られたく無かった……」
そういうとシロウはくるりとリアムに背を向けた。
「本当だよ。男とか女とかそんなことはどうでもいい。ただ、君が…君だけがいいんだ」
それがメイトだからだというだけとはリアムには思えなかった。こんなに欲しいと思う相手は今まで出会ったことがなかった。リアムもどうにも抑えがたい気持ちを持て余していた。
「どうかこの気持ちを否定しないでほしい。俺は君に心底惚れている」
そういうとリアムは唇触れるだけの軽いキスをした。
「風呂を入れてくる。起きれる?何か腹に入れよう」
そういうとリアムはバスルームへと向かった。
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