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4章
1 後悔
しおりを挟む朝、目が覚めると昨晩のことが夢であったかのように整然とした清潔なベッドに寝ていた。心なしか身体もスッキリして目覚めは悪くない。
昨夜の痴態で乱れた身体も綺麗に清められている。ただ一点、自分の姿が着ていた寝巻きを纏わない裸であることが昨夜の出来事が夢でなかったことを物語っているようだった。
まわりを見渡すがリアムの姿は無く、寝起きにすぐ顔を合わせなくて済むことだけが唯一の救いだった。
スッキリした身体とは裏腹にシロウの心は大いに乱れ困惑している。
自分には一生縁のない行為だと思っていた他人との触れ合い。触れ合いというにはもっと生々しい行為。
──どうして、あんなことに……。
起きようと身体を動かし、ツキリとした股の痛みに昨晩の出来事が夢では無かったのだと思い出しさっと血の気が引く。
──知られてしまった。こんな異様な体を……。
リアムと顔を合わせたくない。
だが、いつまでもこうしてベッドにこもっているわけにもいかないこともわかっていた。
痛む股を意識しないように起き上がり、混乱する頭をスッキリさせようと風呂に入ろうと、立ち上がりバスタブに湯をはる。
湯が溜まるまでのあいだ、熱いシャワーを全身に浴びると熱いお湯が頭と身体を少しだけ覚醒させてくれた。
──ほんとに……どうしてあんなことを……。
考えても、考えても、自分がなぜあのような痴態を演じるに至ったか、わからない。
ただ、リアムとの行為に不快さを感じない自分に驚いただけだった。
むしろ、こんな自分の相手をさせてしまったことに申し訳なさを感じる。
──なんて……思われただろう……。
身体を流れる湯と一緒に昨日の記憶も流れていって仕舞えばいいのにと思った。
湯の溜まったバスタブに身体を沈めると、温かな心地よさに寝起きから張り詰めていた緊張が少し和らいだ気がする。
ただ、この後にリアムに合わせる顔がないとただそれだけが気分を重くしていた。
リアムも昨晩の出来事について、シロウとどう向き合うのかリビングで一人頭を悩ませていた。
彼の本意ではなかったはずだ。欲情する自身に酷く困惑していた。それをわかっていながら、彼の身体とその身の秘密を同意なく暴いた事実は覆らない。
もっとシロウと心を通わせて、彼が望む形で二人の初めてを迎えたかった。
だが、不幸なことにシロウにもリアムにもそんな余裕がない状況になってしまったのである。
リアムは昨晩も香った甘く芳しい桜の匂いを思い出す。
(純潔で美しい精神を持つシロウ。桜の花言葉の通りな人だ)
彼がどの程度昨晩の出来事を覚えているかわからないが、彼が受け入れてくれるよう尽くすつもりであった。
いつまでも部屋に閉じこもってるわけにもいかない。シロウはそうとはわかっていても、リアムからどんな視線を向けられるのか想像するだけで、身がすくむ。女の人だけでなく、男の人も性的な対象として見れることと、そのどちらでもない奇怪なモノを相手にするかは全く別のことだと思った。
両親がいたときには病院に検査に行ったりしていたし、自分の身体が人と違っていることは蔑むことでは無く個性ではあると両親からは言われていた。しかし、この身体の特徴のため、両親の配慮で「シロウは身体が弱いから」ということにして、水泳や宿泊を伴うような課外授業には参加をしないように強く言われていた。
そのことから、自分の身体の秘密のことは人には知られてはならないことだと理解していた。
姉にも身体が弱いからだと説明していたようで、両親亡き後は祖母くらいしかこのことを知る人間もいなかった。
その祖母が姉に話していたかはわからない。自分も姉もこのことについて話したことは一度もなかった。
その祖母も数年前に亡くなった今となってはこのことを知るのは自分だけかもしれなかった。
誰かと深く関わるべきでは無かった。シロウの心に後悔が押し寄せる。
それがたとえ不可抗力的な出来事だったとしても。束の間の優しさとはわかってはいても、絆されて、開き始めていた自分の心に、初めて好意と興味を持った相手から向けられる拒絶を想像すると、今すぐにでも、この場から逃げ出して、決定的な瞬間を迎えられないようにしたい、そう思った。
リアムから向けられていた優しい空気や温かな態度が変わっていないことをシロウは願うばかりだった。
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