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2章
5 癒しのひととき2
しおりを挟むベッドで横になって、落ち着こうと思っていたのに、また眠っていたのか……と、シロウはボーッとする頭を振りながら思った。
この一週間、酷く眠りが浅く、身体の変化に心がついていかず、集中も出来なく、うだうだと毎日を過ごしている。
身体の変化といえば、たびたび急に体が熱くなり、反応するようになったことがある。これまでシロウは自分の股間にある男性のものも、もう一つの方も、一切反応をしたことがなく、その存在を忘れるほどのものであった。そのため、この方、自分は不能者なのだと思っていた。
そのため、一般的な二次性徴は知識として知ってはいたが、なんの反応もしないそれについて、片方はただの排泄器官でもう片方は特にそこにある『知られてはいけないもの』でしかなかった。
それがここにきて、ふとした瞬間に勃ち上がったり、濡れたりするのもどうしたらいいかわからず、精神的をすり減らしていた。
少し身体を動かしたいな。
そう思い、起き上がろうとしたとき、まさに自分の股間が濡れていることに気づき、うんざりした気持ちになった。
シャワーを浴び、部屋を出ようとした時、ガチャリと玄関の戸が開く音がする。
あの人は出かけていたのか。
部屋を出るとちょうど扉から入ってくるリアムと鉢合わせる。最近嗅ぎ慣れた、ウッディでエキゾチックな香りの中に嗅ぎ慣れない、甘ったるい匂いを見つけ、背筋がざわりと総毛立つ。
何故だかわからないが不愉快な気持ちで心がいっぱいになった。
──俺のものなのに。
何故かそんな考えが自分の頭に浮かび、驚いて自分の考えを否定する。
「ただいま。起きたんだね」
そう話しかけるリアムを思わず睨み返している自分に気づき、無理に笑顔を作った。
「出かけていたのですね」
「寝ている間にお姉さんか電話があったよ。携帯に出ないから心配して、部屋にかけてきた様だった。電話したほうがいい」
そういうとリアムは自分の部屋へと消えていった。
シロウから感じたのは怒り?ただ何に対して。
リアムにはシロウが何に怒ったのか理解できなかったが、身体に纏わりつく女の匂いを早く消そうとバスルームに入って、シャワーを浴びる。冷たいシャワーがセックス後の火照った身体に気持ちよかった。
シロウを早く自分のものにしたいと思う反面、あまりにも自分に靡かない彼をどう攻略するか、悩ましかった。
人狼になれば、メイトだとわかるはずだ。自分を求めてくるはずだ。そう思う反面、一向に狼の自分を受け入れない上に、シロウの性に疎そうな反応をみているとそう一筋縄ではいかない気もしてくる。
それにしても、シロウは何に怒っていたのだろう。
シャワーから出て、リビングに行くと申し訳無さそうな顔をして、シロウが立っている。
「あの……」
「シロウは犬は好きか?」
唐突なリアムの問いに面をくらう。
「あ、はい。好きです。」
「じゃあ」とリアムは言うと、突然服を脱ぎ始めた。
「!」
シロウが驚いている間に、リアムはするすると衣服脱ぎ捨て、裸になる。
恐ろしく整っているのは顔だけでなく、脱いだ身体は同じ男でも見惚れるほどに男性らしい体つきだった。
服を着ていてもわかる大きな肩やすらっと伸びた手脚には筋骨隆々というほどではないが惚れ惚れするほどに均整のとれた筋肉がつき、見事についた腹筋は6つに割れている。
思わずシロウは目の前の美しい男に目を奪われる。
食い入る様に見つめていたことに気づき、はっとして目をそらした。
次に気が付いた時には目の前に5フィートほどの狼がたたずんでいた。
「リアム……さん?」
そう尋ねると目の前の狼は「バウっ」と答えた。大理石の床に爪の音をたて、ちゃっちゃっちゃっと音を鳴らしながら、近づいてくる。ふわふわとした毛並みが歩くたびに揺れる。
恐ろしくは無いが、可愛い犬…という感じもしない。ハスキーよりは目つきが鋭い。
近づいてきた狼はシロウの前にくるとちょこんと座った。
「うわぁ……!」
恐る恐る手を伸ばし、首元を撫でてみる。
思ったより、毛が硬い。見た目ふわふわなのにちょっとごわごわしてる。と思いながらも、よしよしと撫で続けた。
おもむろに狼リアムが立ち上がると、シロウの腰ほどまで体高があり、その大きさに驚く。狼はシロウの太ももを鼻で押し、ソファに押し倒して、自分はその隣にどすんと乗ってきた。
──リアムさんなりにコミュニケーションを取ろうとしてくれているのかな?
動物の姿にぐっと気安くなる。シロウは昔飼っていた犬にしたように撫でたり、首元に顔を埋めたりしてみた。
──あ、ドッグセラピー……
などと失礼な考えが頭に浮かぶが、犬好きのシロウは遠慮なく狼リアムを堪能した。
大きな窓から入る陽射しが気持ちいい。
先程までのくさくさした気持ちが癒されるようだった。そのまま、狼リアムを抱きしめて、今度はソファでうとうとし始める。
リアムは内心で、大喜びしていた。
(やった!成功だ!)
人間の姿では怯えて、あまり近づくことも触れ合うこともままならないシロウがこんなにもリアムを撫で回してくれている。匂いも落ち着いてリラックスした感じだ。
(シロウは動物が好きなのか。そうか。うんうん。)
心の中でつぶやいて、シロウにされるがままに身体中を撫で回されていた。
気持ちいい。
狼の股間が反応しそうになり、おっといけない、いまはそういうことじゃ無いと自分を戒める。
そのうち、撫でている手がゆっくりになり、止まった。ふと、シロウを見上げるとうとうとと舟を漕いでいる。
起こすのもかわいそうか、と可愛い寝顔をこんなに間近で見られる喜びに尻尾をぶんぶんと振り回していた。
寝ている間にちょっとだけ。とシロウの股間に鼻先を埋めると甘く芳しい、いつもの花の香りが鼻いっぱいに広がる。
あぁ舐めたい。裸に剥いて、身体中を舐め回したい。
そんな欲求が湧いてくるが、ことを急いては仕損じると鼻先を埋めるにとどまった。
それから数日は時間が許す限り、狼の姿になって、シロウと戯れた。それによりずいぶんとシロウと打ち解けたと思う。
ただ、狼の姿でだが……。
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