狼の憂鬱 With Trouble

鉾田 ほこ

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1章

6 出会い6

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(自分が、人狼?)
 シロウはリアムが何を言っているのか理解出来なかった。

「君はそのことを認識していないようだし、俺自身も困惑している。人狼はお互いに匂いで人狼だとわかる。だが、最初に会った時、君は人狼だと感じられなかった」
「あなたが何かしたのでは?」
 リアムの顔に心外な!という表情が現れる。
「確かに後天的に人狼になる、することは不可能ではないが、もちろんそんなことはしていない」
 では、何故?という疑問がシロウの頭と表情に表れる。
「だから聞いているんだ。君や君の血族に人狼の者はいないかと」

 そんなもの、聞いたことない。そもそも両親は早くに亡くなり、面倒を見てくれた祖母も10年前に他界した。もともと付き合いが無かったのか、それ以外の親族には会ったことは無かった。祖母の葬儀の時でさえ、親族は姉と自分しかおらず、姉が何もかも手配してくれていたのだから。

「いない……です。姉しかいない。」
 これは困った。リアムは頭を抱えたくなった。彼の出自を調べないことには、どこの群れに所属するのか、先天的人狼なのか後天的人狼なのかもわからない。
「わかった。それを確認するのはまた今度にしよう。ただ、人狼となってしまったからにはコントロールしなくてはならない。人前で無闇矢鱈と狼に変わってしまっては困るだろう?」

 そうでなくとも複雑な自分の身体にこれ以上複雑な事情など、承伏しかねるとシロウは暗い気持ちになる。
この人には裸を見られてしまったが、バレていないと願いたい。
 それにしても、次から次へと問題が降りかかってきて、もう何も考えたくない。

 目の前の男はなにか話し続けていたが、もう耳に入ってきていなかった。
「聞いているか?」
 早速聞いていないことがバレてしまい、気まずい気持ちになる。
「わかりました。」
 とりあえず、取り繕うようにそう返事をした。
「よかった。では、君の部屋から身の回りの荷物を運ぼう。」
 なんだって?よく聞いていなかったが、荷物を運ぶと、そう言った?とシロウは頭の中で反芻する。
「え、え??何??」
「だから、コントロールがある程度できるようになるまでは、危ないからこの部屋にいてもらうと言ったんだ。いま、自分も『わかった』と返事をしただろ?」
 今更聞いてなかったとは言えない。
 もう、本当にいますぐ日本に帰りたい。

「では決まりだ。充電も済んでいるだろう。お姉さんにも連絡をするといい。そのあとで君の荷物を取りに行こう。何か必要なものがあれば用意しても構わない。取りにいかなくてもむしろ問題ないが?」
 有無を言わせない口調で言われ、最早拒否権は自分にないと悟った。これでは軟禁だ。
「ギャラガーさん」
「リアムと呼んでくれ」
「リアムさん、それでは悪いので、通い…では……駄目でしょうか」
 せめて、それだけは。という気持ちでシロウは尋ねた。
「駄目だ」
 きっぱりと告げられ、心が暗くなった。


 携帯電源を入れると櫻子からの着信とメッセージでいっぱいだった。
 急いで電話をかける。コール音がするかしないかで、櫻子が電話に出た。
『なんで!電話にでないの!!!』
 電話の向こうの姉は心配のあまり、声のボリュームがおかしくなっている。半ば怒鳴り声に近いこんな姉の声を聞いたのは久しぶりだった。ずいぶん心配をかけたことに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「姉さん、落ち着いて!大丈夫だから。ちょっと具合が悪くなってしまって」
 なるべく、平静を装った声を出す。
『どういうこと?病院にいるの?もう、心配したんだから。彼にもお願いして捜索願いを出すところだったのよ!』
 出されずに済んでよかった。
「心配しないで、もう具合は良くなったし、入院したり、そんなんじゃ無いから」
『電話には出て。お願いよ……』
 姉の泣きそうな声に鼻がつんとなる。
「心配かけて、本当にごめん。でも、大丈夫だから、義兄さんにも伝えておいて。」
 人狼の耳は便利だ。リアムはスピーカーにしていないシロウの電話の会話でも聞き取れた。だが、日本語で話しており、会話の内容は分からなかった。確かに相手は女性のようだった。電話では匂いはわからないが、心配していたことは伝わってくる。

『とにかく、今後は何かあったら直ぐに連絡してね。電話もメッセもちゃんと返してね』
 しばらくおさまっていた姉の過保護に拍車がかかりそうで、また心労の種が増えた。
 電話を切ると、ふぅと一息ついた。
「大丈夫か?」
 心配そうな声をかけられ、振り向くとリアムがすぐ側に立っていた。
 びくりとして、一歩下がる。
 これもまた、頭痛の種だ。この人はパーソナルスペースが狭いのか、気づくとすぐ触れてこようとする。
「ご心配には及びません」
 触れようとした手は、そのまま下げた。
 拒絶、拒否。
 シロウからそういった感情を感じとり、悲しい気持ちになる。メイトからの拒絶がこんなにも自分の気持ちを落ち込ませるとはリアムも知らなかった。できる限り、自分が力になってやりたい。メイトを守るのは自分の役割だから。そう思うが、シロウには自分がメイトだという感覚はまだないようだった。
 仕方がないことか。

 すっと離れて、車のキーを取りに向かう。

「さぁ、荷物を取りに行こう。」
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