女嫌いの王太子殿下に妃にならないかと提案されました

いかくもハル

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ユージーンの事情

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「大丈夫か?オリヴィア?」
「あぅ……私、あの殿下の補佐なんて出来るのかなぁ……」
「俺も数年ぶりに会うが……何だか少し雰囲気が変わられた様に感じたな」

 部屋を出て、兎に角もう帰ろうと言うオリヴィアを伴って校門まで歩きながら、グラントは首を傾げる。

「変わったって?」
「もう少し柔らかい雰囲気の方だったし、あそこまで女性に対して一方的な話し方をする様な方ではなかったんだが……」
「凄い眼光だったよ。恐ろしくて腰が抜けるかと思った」
「う~ん。やはり公務で色々あって、殿下もお疲れなんだろうな」


 お疲れで毎回あんなに鋭く睨まれては堪らない。
 他に理由があるのかと、オリヴィアは考えた。
 そして、一つの仮説がふと浮かんで来た。

「殿下の周りって男の人しかいないよね?」
「ああ、言われてみればそうだったな」
「補佐役も男の人希望だったし」
「それが何か?」
「だからさ……あれだよ。男の人しか受け入れないんゃない?」
「??」

 今いちピンと来てない兄に、もう、とオリヴィアは兄の腕を掴んで軽く引っ張りる。

「だから……女性を愛せない、同性愛者って事」
「殿下がっっ!?まさか」
「だってそうじゃないと説明つかないもん、あの態度。グラ兄にはニコニコしてさ………はっっっ!!!」

 オリヴィアはグラントとユージーンが親しげに会話していた場面を思い出す。

 まさか、まさか、まさかっっっ!!

 隣の兄が怪訝な顔してこちらを見ている。
 男女漏れなくモテまくるその秀麗な顔を見て結論に至った。

 (ユージーン殿下はグラ兄に思いを寄せている…のでは)

 憶測で兄を困らせるような発言はできないと、こちらを心配げに見ているグラントに、「何でもない」と首を振った。



 兄に話しかけようとジリジリと隙を伺い、包囲網を狭め始めた女性たちに気がつくと、兄を促して足早に校門を出るなり、転移して帰って行った。

 二人が消え失せた後には、ガッカリした顔を隠しもしない女性たちが所在無げに佇んでいた。






 二人が出て行った扉を見て、ユージーンは先程の兄妹を思い出していた。

 グラントは相変わらずだったが、その妹の僅かに青みを帯びた透明な灰色の瞳はまん丸に見開かれ、微動だにせずこちらを見ていたその姿は、まるで狼に出会ったリスの様だ。
 お陰で笑いそうになるのを堪えるために、余計に目に力を入れてしまったじゃないか。

 思わずくっと笑いが出た。

「殿下??」

 侍従の一人が怪訝にユージーンを見た。

「いや、楽しくなりそうだなと思ってな」
「殿下がそう仰るなら良かったです。そう言えば、先程のご兄妹は似ておりましたね。まるで……」
「レティアとレティオンみたいだったな」
「そうです!!びっくりしました。あんな人たちがいるんですね、グリードエンドには」
「あぁ、そうだな」


 レティア。
 それはバルパス王国では、幼い子供でも知ってる美しい月の女神。
 月光色の髪の毛と瞳を持ち、夜を静かに見守る慈愛の女神であり、太陽神アルテトの妻でもある。
 太陽と月はその支配する時間ゆえに、日の出から日暮れまでは離れ離れになってしまう。

 悲しんだレティアは、太陽の出てる間は夫の隣で力になりたいと、逞しい男性の姿になり、その姿の時は勇ましく美しい軍神レティオンとなる。

 愛情深いレティアと力強いレティオンはバルパスでは最高神アルテトの次に人気の高い神だ。


 窓から下を見ると、校門から出て行こうとする二人が見えた。アッシュブロンドの髪が散りゆく桜と共に風に舞い、陽の光に照らされ銀色に光って見えた。







 ユージーンがグリードエンドに来たのは高等部入学の時だった。
 魔術研究の盛んなグリードエンドには父アーサーも留学していた。
 高等部三年になったばかりの時、専科二年いた兄が突然「バルパスの王にはならない」と宣言した。ユージーンは寝耳に水であった。

 王子二人は高等部から父アーサー王の友人である、グリードエンドの浄化師レオナルドの元にホームステイしていた。
 兄王子のビルは二つ上で、ユージーンが高等部に上がる時には既に二年レオナルドの家に居たのだ。

 レオナルドは国最高の魔術師であり、浄化師でもあるが、浄化の仕事のない時は主に魔獣退治に勤しんでいた。
 レオナルドの息子、クリストファーも父の後継者として、10歳に満たないうちから浄化や魔獣退治に同行する事もあったが、誰よりも喜んでレオナルドに付いて行ったのはビルである。

 ガッツリとレオナルドの影響を受けてしまったビルは、王になるより冒険者になりたいと言い出したのだ。
 

「ビル兄さん、もう一度ちゃんと考えよう」
「俺は王には向かねぇ。王宮に大人しく籠ってるなんて、考えただけでゾッとするぜ」
「そんな事言ったって、今までだってちゃんと王族教育受けていただろ」
「あん時から俺には向かねぇなって思ってたんだよなー」

 ボリボリと頬を掻きながら顔を顰めるビル。
 確かに、生き生きとした今と違い、あの時はどこか諦めた眼差しで机に向かっていた気がする。


「兎に角、バルパスはお前に任せた!!お前は王に向いてる。間違いない!!」
「兄さんっっっ!!」

 ビルの決意は固く、結局、一流の冒険者になるには魔術師資格もあった方が良いとレオナルドに言われ、そのまま魔術師になるために特化に進学を決めた。

 高等部を卒業する頃、父アーサーとレオナルドも交えた話し合いでは、万が一のことを考えて、ビルは王族籍を残すことを条件に、王太子にはユージーンがなる事が決まった。
 卒業後は一旦帰国し、王太子として国民へのお披露目式をして、落ち着いてから専科に復学する予定であった。

 (当初の予定から大分時間がかかったがな……)

 そう、本当はお披露目が終わったらすぐに専科に行く予定だった。
 年寄りの中には保守的な考え方をする者も多いバルパスでは、王太子は第一王子がなるのだと思う者も多く、また王太子を放棄したビルにも「国を捨てた裏切り者」などと、あらぬ噂を立てる者もいて、思っていたよりも王族への信頼度が揺らぎかけたのだ。

 そんな時にユージーンまで留学となっては国民の信頼は地に落ちる。
 そんな事がユージーンに出来るはずもなく、王族の信頼を回復せねばと、身を粉にして国に尽くした。
 そんなユージーンをさらに悩ませる事態が勃発していたのだ。

 王太子なったと同時に、婚約者のいないユージーンに今度は大臣達が口を揃えて「王太子妃はまだか」と、責付き始めたのだ。
 挙句に、自分の娘はどうか、いやいや私の娘こそと、生まれたばかりの娘まで差し出そうとするのには本当に辟易した。
 何とか断ると、今度は実力行使とばかりに、誰の手引きか寝室に肌も露わな女性が潜んでいたり、地方へ行けば、既成事実を作れば王太子妃になれると思った有力者たちの娘までもが群がって来た。

 すっかり疲れ果て、女性不審になってしまったユージーンは、「学業に専念し、卒業するまでは誰とも婚約はしない」と 宣言した上でやっと僅かな自由の時間を獲得し、グリードエンドにやって来たのだ。
 王太子になってから、既に四年が経っていた。



「面を上げよ」
 その言葉で顔を上げた二人を見て、バルパス人なら息を呑んだだろう。
 騎士服を纏った軍神レティオンと艶やかな長い髪を揺らし、夜色のドレスを纏った月の女神レティア、本来なら同時に見ることはない二柱の神が地上に降り立ったかの様に見えたからだ。




 驚きを隠すために、必要以上に顔に力が入ってしまったのは仕方がない。
 正直、何度も顔を合わせていたグラントをレティオンと思った事は無かったのだが、騎士服の正装を着て妹と並んだインパクトは絶大だった。

 グラントとは面識があったため、すぐに段から降りて言葉を交わす。
 視界の隅で、目を瞠って固まってた筈のレティアが、ジリジリと下がって行くではないか。

「どこへ行く」と声をかければ、おかしな声を上げて飛び上がる。

 この四年、妙齢の女性といえば、こちらを捕食せんとばかりに目をギラギラさせた人ばかりを見て来たユージーンにとっては、オリヴィアの反応は殊更新鮮だった。
 ダリア校長から聞いた話では、オリヴィアは補佐役を何とか辞退しようとしていたというではないか。


 ユージーンの母はアーサーがグリードエンドに留学中に出会った友人の妹。
 オリヴィアもユージーンがグリードエンド留学中に出会った友人であるグラントの妹だ。

「私も父の子だな……」

 顔立ちはビルの方が父に似ているが、性格はユージーンの方が父親に似ていると言われる。

 父と息子、二代に渡って、妃がグリードエンド出身では普通なら反発も起こるだろうが………
 あれ程までにレティアを体現していれば、国民から熱烈歓迎されるだろう。

 加えて、清廉で優秀と名高いロックス家で、その上子沢山でも有名となれば、これ程皆を黙らせるのに相応しい女性はいない。
 幸い、グリードエンドの王太子は別に王太子妃にと狙っている女性がいると聞く。
 

「あぁ、本当に楽しみだな」

 獲物を見つけた優雅な狼が瑠璃色の瞳を細めた。











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